最終日
「いよいよ、最終日だな」
「今日で二日目なんだけど……」
サクラの言う通り、初日にプールで遊んだのが昨日のこと。今日が二日目にして最終日だ。
「無理言うなよ、キング・オブ・アスリートでも二日で限界だって話しただろ?」
「私はアフロディーテ・オブ・アスリートだから」
「もうそれでいいよ……けど無理だって。まぁ今日はサクラのやりたい競技に付き合うからさ」
「やりたい競技……」
腕を組んで考え込むサクラ。個人的にはもう一回水泳でいい。今日も暑い、というか今日はヤバい。外は四十度近い気温だ、真剣にヤバい。
「マラソン」
「えぇ……」
「フルマラソン」
「ええぇ…………」
絶対無理だよそれ……。なんでマラソン……。というか、本来ならこの時期に本物のオリンピックでもマラソンする予定だったんだよな? 大丈夫なのか?
「なぁサクラ、さすがに……」
「大丈夫」
「何がだよ?」
「会場は北海道だから」
「本物はな? てかそんなことは知ってんのか……」
噂では北海道でも暑いんじゃないかって話だけど……どうなんだろ。
「いやさすがに四十二キロは無理だ、死んじゃう。本当に死んじゃうから……というか、たぶん十キロぐらいで死んじゃうから……」
「うーん……」
「せめて距離を短くするか……もしくは、もう少し涼しくなってからやろうぜ?」
「ねぇハルト……」
妙に真剣な瞳で俺を見るサクラ。
「たった二人っきりでも、これはオリンピックなの」
「お、おう?」
「だったら延期はない。そうでしょう?」
いや延期したけどな。
「……じゃあ距離縮めるぞ? 四キロでいいだろ。十分の一だけど……この暑さで素人には普通にヤバいレベルだと思う」
「わかった。四キロだと……家から二丁目のコンビニを往復するくらい?」
「そんなもんか……うわぁ、やりたくねぇ」
「けどこれは、多くのランナーが走りたくても走れなくなった夢の舞台……」
別に多くのランナーは、コンビニまでダッシュで行って帰ってくるだけのパシリみたいなことを夢見てないだろ……。
◇
「おぉ……予想以上だなこれ」
家から一歩外に出ると、まるでサウナだ。
「おいサクラ、大丈夫か」
「暑い……」
「知ってるよ。けど、本当に熱中症に気をつけてな? 気持ち悪くなったらすぐ止めることな?」
「うん。さっさと済まそう……」
お前がやりたいって言ったんだからな?
「じゃあ行くか」
「うん。『位置についてー』……あ」
「どうした?」
「やり直す。『おん・ゆあ・まーく』」
別にどっちでもいいけど……。
「『せっ』」
「……『セット』のことか?」
「『スタート』」
仕方ないので走り出す俺。
正直立っているだけで汗が吹き出してくるんだ。四キロ走ったら水分全部なくなっちゃうじゃないか? というか四百メートル走っただけで、もう頭がぼーっとしてきた。
あぁけどサクラのことも気にしながら走らないとな――。
「えぇ……」
振り返ってサクラの様子を伺ってみると、四十メートルほどで足を止めていた……。
とりあえず小走りでサクラの元まで戻る俺。
「どうした?」
「暑くて、気持ち悪くなったからすぐ止めた」
「……うん。そうしろって言ったけどな?」
俺に声を掛けてから止まってほしかった。下手したら俺一人でコンビニまでダッシュしてたぞ?
「私のことは構わず、ハルト一人だけでも行って?」
「いや、別に俺も走りたいわけじゃないし……」
「ガ○ガリ君買ってきてほしいんだけど?」
本当にパシリじゃねぇか……。
「いや、もう家に戻ろうぜ?」
「いいの?」
「今日はもう暑いしな……他の競技も、もうちょっと涼しくなってからいろいろやろうぜ? そしたらすぐ一年経って本物のオリンピックだ。いろいろ体験したら、より本物も楽しめるかもな?」
「そうだね。私も二日間で、よりオリンピックを知れた気がする……」
お前が二日間でやったのは、ダンベル三回に、チャリでプール行ったことと、四十メートル走っただけだがな。
……けどまぁ、来年のオリンピックまでに知らない競技に触れてみるのも、実際悪くないかもな。
こいつと一緒なら、どの競技だって退屈することもないだろう。いろいろやってたら、一年なんてあっという間だ。そんでいよいよ本番になったら、一緒にテレビで見てもいいし、なんなら会場に行ったっていい。
今年オリンピックがないのは残念だけど、来年を楽しみにしながら、二人で来年まで楽しめばいいさ――
「まぁ正直来年もコロナで中止だと、私は睨んでいる」
「お前……。せっかくいい感じで終われそうだったのに……」
終
幼馴染にオリンピックの全種目を、一週間で制覇しようと言われた話 宮本XP @miyamoto_XP
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