第11話『空を見上げる者Ⅱ』
遠くの空からあの音が聞こえてくる。南方の後進国、いや最早、先進列強の仲間入りを果たした彼の国の技術力で作られたあの空冷エンジンには、世界に先駆けて水メタノール噴射装置が付けられた。
技術立国山城。長きにわたって世界からその存在さえも知られていなかった彼の国は、外界を知った瞬間にその文明格差に愕然とし、官民一体となった急進的な成長を遂げてきた。その根底には、彼の国に根住まう強固な精神性からくる技術への圧倒的な威信である。
そしてその威信は、世界最高峰の高速偵察機を生み出した。どんな時代でも、このようなオーバーテクノロジーとすら言える兵器が生み出されることがある。誰もが見向きもしなかった、誰もが気にもとめなかった、誰もが相手にもしなかったような国から。ああ、彼が帰ってくる。あの流麗で洗練された、一切の妥協さえも許されずに職人の手によって生み出されたかのようなゼロに乗って。
彼は高い。あの頂に、僕が届くことはあるのだろうか。彼に手が届くことはあるのだろうか。
だめだ。今の機体ではそれは叶わない。もっと速く、もっと昇り、高みへと駆け上がる龍のような強烈無比な機体が必要だ。
ああ、羨ましい。あの美しいゼロになんの代償もなく乗ることができる彼が。
だというのに、彼の中にはまだなにもない。感動も、興奮も、羨望も、何もかもすべて。
あの機体がただの道具にしか見えない彼が妬ましい。苛立たしい。
羨ましい。
軍神の名を冠せられたこの基地、この滑走路脇に風が吹き抜けていった。その風は、立っていた僕の前髪を揺らして去っていく。
ああ、まるで風が誘っているようだ。こっちに来い、と。彼のいるのと同じ高みに昇ろう、と。
それができたらどんなに幸せだろう。
でもできない。僕には、翼は無いのだから。
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