第7話『オペレーション・ギガントマキアー』

 中央海暦802年7月13日午前9時ちょうど。清々しいほどに晴れ渡り、10海里ほど先すらもはっきりと見通せるほどに澄んだ空の下を、暖かく潮くさい2ノットほどの風が吹き抜けるこの日、アルゴーとスキーズブラズニルは未踏域の東南東の長大なビーチから7海里ほどのところで投錨していた。そこから4海里ほど離れたところで、ぬらりと鈍く光る黒鉄の巨砲を構え、その黒く吸い込まれそうな闇を覗かせる砲口を未踏域へと揃えて向けた巨艦たちが綺麗な二列縦陣を敷いてその時が来るのを、闘気を滾らせて待っていた。その熱気は蜃気楼となって黒鉄の巨城たちの背姿を朧げに揺らめかす。


 各国海軍選り抜きの精鋭水兵によって一匹の巨獣であるかのように動く戦艦の、世界に現存するほとんどがこの場所に集まっていた。今、未だ人類が幾度と踏み入れたことのない砂浜からたった3海里離れたところに、環中央海諸国海軍から威信と意気揚々にはるばるやってきた戦艦が国を超えて一つの戦列となり、未踏域開拓の始まりの宣言を待っていた。


 ここにいる戦艦の中には、世界最大級の巨砲を携えるビッグ7と呼ばれる7隻の戦艦の6隻もいた。山城帝国海軍から世界最大口径の42センチメートル連装砲を4基備えた旭光型戦艦二番艦『摂津』、ガルガンドーラ王立海軍から40.6センチメートル3連装砲を3基備えたアブナー級戦艦一番艦『アブナー』と二番艦『シーザー』、ハンデルセン海軍から40.6センチメートル連装砲を4基備えたヨークラット級戦艦一番艦『ヨークラット』、二番艦『オータス』と三番艦『ウェストアルメリア』が参加していた。


 辺りには海から陸へと吹き抜ける海風の唸りだけが響き、それ以外の音はなく、これだけの艦隊が集結して、その中には数十万もの兵士がいるというのに、そこは奇妙なほどにしんと静まり返っていた。


 その静寂の中、南東の方角からごく小さなレシプロエンジンの駆動音が聞こえてきた。その駆動音はやがて大きくなっていき、その方角の空に小さく一機の四発単葉機の機影が見えた。その影は段々と大きくなりながら、アルゴーへと近づいていく。同時に、エンジンの駆動音が段々と大きくなっていく。


 十分もしないうちに、その四発機は機種を判別できるまでに近づいてきた。その機影から、ガルガンドーラ王立空軍のレディング重爆撃機だと判別できる。1600馬力のオキピートMk.6エンジンを四基搭載し、そこそこの上昇率と、公称では無積載時に高度4000で毎時440キロメートルも出せる高速性と、6トンもの莫大な爆載量を誇るガルガンドーラ空軍最新鋭かつ虎の子の高速重爆撃機である。


 そのレディングは徐々に降下しながら、アルゴーの飛行甲板後端に向けて直進してくる。やがてアルゴーから5キロメートルほどの距離でフラップと前輪を出し、僅かに仰角を付けながら、時速280キロメートルほどで接近してくる。レディングはゆっくりと徐々に減速していき、最終的に時速230キロメートルほどで前輪をアルゴーの木製飛行甲板に接地させた。レディングは、飛行甲板上に整列した正装姿の各国海空陸軍の幹部やパイロットの目の前をおよそ3000メートルほど滑走した後、完全に停止した。


 即座に礼装を着込んだアルゴーの整備士たちが大型機用のタラップと赤い絨毯を持って駆け寄り、タラップを搭乗口に付け、その上から飛行甲板へと赤絨毯を敷き、搭乗口を開けた。


 同時に、ガルガンドーラ王立空軍の軍楽隊がガルガンドーラ共和国国歌を奏で、管楽器と潮騒の合奏の中、まず王立陸軍参謀総長が、その次に王立陸軍地上部隊最高司令官と王立海兵隊総司令官、続いて王立海軍参謀総長と第一海軍卿が、そして空軍参謀総長がタラップを降りてきた。そして最後に、ロイヤルブルーのドレスに身を飾ったガルガンドーラ女王レイシア・ヴィクトリア・ガルガンドーラがタラップに敷かれた赤絨毯を踏んだ。


 その後、北方から南方の順で大国の元首や首相、国軍を束ねる要人たちが続々とアルゴーに到着する。その度に礼装を着込んだアルゴー整備員がタラップを用意し、先に到着していた各国の軍楽隊がその国の国歌を盛大に奏で、その裏でアルゴーの整備員が手早く大型機たちを格納庫へと誘導する。


 最後に南サルモント空軍のラウンデルを付けた、ハンデルセンにより開発されたB13ブランドン中型爆撃機がアルゴーに着艦し、南サルモント大統領と陸海空軍の司令官を下ろし、最後にアルゴーの整備員によってエレベーターへと誘導され、飛行甲板下へと消えた。


 それまで途切れずに鳴り響き続けていた大型レシプロエンジンの唸りが無くなり、しばらく潮騒の静寂に包まれる。


 それまで常に慌ただしく動き続けていたアルゴーの整備員たちが、全ての仕事が落ち着いてから甲板上に整列して直立不動の姿勢を取る。


 アルゴーの甲板上に集まった全ての国家の元首、首相、軍の最高指揮官、飛行兵たちが黙りながらアルゴーの彼方の空を見つめる。アルゴーから離れて戦列を組む戦艦に乗り込んだ精鋭たちも、純白の光を返しながら、甲板の上に集合して同じ方向に目を向けていた。


 この場に集まった全ての者が同じ空域を見つめ、まるで聖域の神聖性を侵すまいとするように息を潜めていた。


 全員が同じものに注目する用意ができた。それを待っていたかのように、遠くから先ほどまでとは異なって軽く高い、レシプロエンジンの軽快な音が鳴り響いてきた。


 先ほど、大型機が飛来してきた方角を見やると、遠くに二機の単発単葉で低翼の小型機の機影が見えた。それは先ほど大型機たちが進入してきた時よりも速く近づいてくる。すぐに機体の形状の細部を見分けられるようになった。


 ガルガンドーラ女王、レイシア3世が身につけたドレスと同じく、空より濃く、海より深い蒼色のシーセイバーMk.1と、通常の洋上迷彩を施された同型機だった。空にも海にも溶け込まず、この場で一際蒼いシーセイバーが二機編隊の長機を務め、その左後ろから洋上迷彩のシーセイバーが追従していく。


 二機は高度を落としながら、降下の勢いを使って加速し、アルゴーに向かって高速で進入していく。


 やがて二機は速度を緩めぬまま、アルゴーの飛行甲板スレスレを僅かに左にバンクして後端から前端への5000メートルほど、アルゴーの甲板に集まった全ての人の目の前を駆け抜けていった。


 二機が高速で、僅かな風で左翼端がアルゴーの飛行甲板を擦りそうな高度を駆け抜ける瞬間、アルゴーの甲板に集まった人々は、二機の胴体に描かれたガルガンドーラのラウンデルとは別に、濃い蒼のシーセイバーの垂直尾翼に描かれたガルガンドーラ王家の紋章と、洋上迷彩のシーセイバーの尾翼に描かれた王冠と翼の部隊マークを目にした。


 ガルガンドーラ海軍艦隊航空隊843飛行隊、今回の作戦参加に際して第一遠征航空団第二飛行群、コールサイン『ロイヤル・ウィング』の名を下賜された飛行隊の一機と、機体全面をロイヤルブルーに塗装され、磨き上げられたガルガンドーラ王家の王女セシリア・アレキサンドラ・ガルガンドーラの専用機である。


「セシリア! セシリアよ!」


 女王の目の前を通り過ぎていった時、女王が歓声を上げ、隣に座っていたガルガンドーラ共和国首相の手を取った。


 アルゴーの飛行甲板上を駆け抜けていった二機は、そのまま海上70メートルほどの高度を直進し、左に緩旋回をした。大きな円を描きながら、二機は戦艦の戦列へと頭を向ける。


 そして今度は、戦艦に乗り合わせた水兵たちの前の前をバンクを繰り返しながら過ぎ去っていった。二機が通り過ぎるたびに水兵たちが制帽を振り、歓声が上がる。


 その次にスキーズブラズニルの右舷、アルゴーと同じく甲板上に集った飛行兵たちの目の前を駆け抜けていった後、二機は機首を高く突き立て、一気に蒼天へと駆け登っていった。見上げる者の目を陽が突き刺した。


 二機は瞬く間に上昇していくが、代わりに目に見えて速度が落ちていく。その場にいる全ての者がその様子に息を飲んだ瞬間、二機は遂に頂点で失速し、一瞬宙に留まった後、完全に速度を失って背面に傾く。


 女王が立ち上がり、悲鳴を上げかけた瞬間、二機の水平尾翼が動き、スピンの勢いを使って機首を海面へと向けてダイブし始めた。その様子に皆が安堵のため息をついたと共に、賞賛の歓声を上げる。


 二機の機動は木の葉のような軌道を描いていた。急上昇し、あえて失速させることで頂点で機首を極めて短く180度ターンを行うマニューバであった。一瞬でも失速し、パイロットの制御を離れて自由落下をするため、それなりの技量がなければ海面に激突する危険があった。そのことを理解している飛行兵はもちろん、その優雅でバレエを踊るかのような動きに空だけでなく海と陸とが感嘆の声を漏らした。


 二機はそのまま右斜めのループへと入る。そうして二機ぴったり等距離を保ったまま、ブレのない綺麗な機動を夏空に描いていく。


 陽光の煌めく深い青の海の上を赤い歓声が満たした時、二機がその時を待ち構えていたかのように編隊を解き、めいめいに上昇し始める。


 そうして、高度1000ほどのところで機尾から二機の一方と同じ、白のスモークを二機同時に焚き、水平に旋回を始める。


 その水平旋回はすぐに終わり、そこから奇妙な曲芸飛行が始まった。時に旋回の途中に上昇を含んで減速して旋回半径を縮めたり、垂直上昇から先ほどの失速機動で進路を垂直に変えたり、スモークを消したり一機が描いた白線に交わったりと様々な機動を組み合わせながら、白い線を描き続けていった。


 最後に、二機はスモークを焚いたまま、互いの上面を向け合うかのように同じ一点に向かって旋回をし、交差した瞬間でスモークを切った。


 甲板から見上げると、水色の空のキャンバスの上に、歪みない白の線によって一匹のライオンが描かれていた。ガルガンドーラ王室の紋章に描かれ、ガルガンドーラを守るという伝承の獣。それに気づいたガルガンドーラ出身の兵士たちは沸き立ち、歓喜し、叫び声が上がった。他国の兵士たちも、空を見上げ、王女の駆るシーセイバーが無邪気に駆け回る様を見守っていた。


 やがて、二機のシーセイバーは、セシリアを先頭にアルゴーに着艦しようと、南西に向かって直進しながら高度を下げ始めた。数分もしない内に、二機はアルゴーの木製甲板に前輪を着け、機体同士の距離をぴったり保って滑走し、静止した。


 すかさず正装のガルガンドーラ王立空軍の整備士たちがタラップを持って二機に駆け寄り、まず初めにセシリアの列機の風防を開けた。すると、コックピットから一人の青年が立ち上がり、左翼から整備士の手を借りてアルゴーへと降り立った。その青年は、ガルガンドーラ王立海軍のフライトスーツを着込み、アルゴーの木製甲板の上で直立不動の姿勢を取っていた。


 しばらくすると、その青年の元にガルガンドーラ第一海軍卿がトレーを持った正装の海軍士官を伴って近づき、そのトレーから頸飾と星章を取り出して、青年のフライトスーツの襟首と左胸に着けた。そして最後に、第一海軍卿が笑顔で青年と握手を交わし、空いている左手で青年の右腕を軽く叩くと、その青年を伴ってセシリアのシーセイバーへと歩み寄る。


 青年がセシリアのシーセイバーのタラップから敷かれた赤絨毯の上で跪き、第一海軍卿と海軍士官が並んでその右横に立った。それを確認した整備士がセシリア機の風防を開ける。コックピットの中から、機体と同じ深く濃いロイヤルブルーのフライトスーツを着たセシリアが姿を現した。セシリアのフライトスーツは、ロイヤルブルーに染められているだけではなく、礼装ほどではないものの、控えめだが華美な装飾がところどころに施されていた。


 セシリアが整備士の手を借りて赤絨毯の上に立つ。そして飛行帽を脱ぐと、セシリアの金砂のような髪が海風に踊った。


 すぐに正装をした女性の王立海軍の士官が、トレーを持った同じく正装の女性士官を連れてセシリアの正面に歩み寄るとトレーを持っていない女性士官が敬礼をしてトレーに乗っていた青い大綬章を手に取り、セシリアの左肩から右腰にたすきのように着ける。次に、トレーの上から頸飾を取り、セシリアの背後に回ってからそっと首に着けた。最後に、星章を取り出してセシリアのフライトジャケットの左胸の下の位置に取り付けると、今度は二人共に敬礼をして、それからゆっくりとその場を離れた。


 それからしばらく、飛行甲板の上では動く者がいなくなり、人々が赤絨毯の上で敬礼をする青年と空軍参謀総長と二人を、少し離れたところから見下ろすセシリアを息を飲んで見つめていた。誰一人身動き一つせず、潮臭い風が緩やかに飛行甲板の上を吹き抜けていき、伸びて皺一つない背広たちをはためかす。


 やがて、セシリアの背後から赤色の華美な服を着込んだ女性の侍従二人がセシリアに歩み寄ってきた。一人は一振りの白銀の剣を手にしている。やがて、二人の侍従はセシリアの両脇で跪き、一人がセシリアから飛行帽を受け取り、その次にもう一人がセシリアに白銀の儀礼用の剣を渡した。


 セシリアはその剣を携えて青年の下へと、侍従の一人と共に歩み寄る。青年は跪き、セシリアは剣を鞘から抜き去った。その鞘を侍従が受け取り、侍従はセシリアの背後で跪く。


 セシリアは白銀の剣を、頭上高く遥か彼方で輝く太陽へと掲げた。鏡面のように磨き込まれた刀身に陽光が吸い込まれ、白銀の眩い輝きが放たれる。セシリアは白銀の軌跡を空に刻みながら、その剣を青年の首めがけて振り下ろした。


 剣がまるでギロチンの刃のように落ちていく。しかし、青年の首に触れる直前で、丸められた刃がピタリと止まった。




「王立海軍艦隊航空隊第843飛行隊所属、リューク・イリューシン曹長。汝の卓絶した飛行技術と東回り航路での船団護衛での功績の数々において、我がガルガンドーラ共和国に多大な貢献あり。よって、ここに汝をナイト・コマンダーに叙任し、オーダー・オブ・ザ・ガルガンドーラ・エンパイアを授与し、またこの場をもって汝を王立海軍少尉に任官する」


 青々しく清々しい夏空の下、セシリア・アレキサンドラ・ガルガンドーラは高らかに宣言し、サー・リューク・イリューシンは一つ階級が上がり、下士官から士官となった。


 叙任式が終わると、侍従が再びセシリアの脇に立った。侍従はセシリアから儀礼刀を受け取ると、慎重に鞘に納め、後ろへ下がる。リュークが立ち上がると、そっとセシリアの手を取り、アルゴーの島のような艦橋の前に設置された演壇へとエスコートをする。その後ろを第一海軍卿が付いて行った。セシリアが壇上に上がり、リュークと第一海軍卿はその右後ろの一段下がったところに直立した。


「まず始めに、先の大戦で散った名も無き200万の戦士と、武器を持たずとも、家族を守り、国に尽くして最後を迎えた1100万もの勇士たちに追悼を。異なる国家、人種、地位にありながら、戦い、等しく主の元へと旅立った勇敢なる者たちに等しき救いを願います」


 セシリアの演説が始まる。セシリアの澄んだ声がさざ波と共にマイクを通してアルゴーの艦内スピーカーに、スキーズブラズニルの艦内スピーカーに、この海域に集った全ての艦艇と航空機の無線機に、航空無線、船舶無線、その他の周波数を通じた、中央海に存在する全ての無線機に平文で流れた。


「先の大戦の遺恨に、遺産に世界は苦しんでいます。憎しみが憎しみを呼び、悲しみに明け暮れる内に新たな悲劇が生まれ、魂の慟哭が砲声にかき消された。先の大戦で王立陸軍に従軍した詩人、ヒューイは『涙が泥と混じり、固まり、魂を固めた』と残しています。悲劇と苦しみに消耗し、魂を削り取ったこの大戦の中で、ヒューイは銃創を負い、その後に野戦病院で病死しています。彼の遺品を整理していた一等兵によってヒューイの従軍手帳に雑多な字で書き連ねられた数々の詩が見つかり、出版されました」


 セシリアの演説に、その場にいる全ての者が聞き入った。先の大戦の様相は、この場にいるすべての者が知っている。ここにいる新兵は少年時代を戦争と共に、連日の報道を聴きながら育った。そして、ここにいる古参兵のほとんどは先の大戦で従軍している。


 詩人ヒューイの遺した詩は、彼らが見てきた、体感してきた戦場そのものであり、戦場を目にした全ての人間に追悼と共に受け入れられてきた。


「ヒューイの詩は多くの人の胸を打ちました。そして、あの地獄を、人間性を削りきった獣性のぶつけ合いを繰り返してはいけないという決意を刻み込みました。そして、人々は明日へと踏み出そうとしたのです。しかし、世界は先の大戦で弱り切っています。敗戦国では重すぎる借金と不経済が、戦勝国でも大規模な緊縮による大量の失職者、先の大戦で国費と資源を使い果たしてしまったことによる貧困に喘いでいます。国民たちは明日の日を見上げることができず、日々を食いつないでいくだけで精一杯だと聞いております」


 演説の最後に迫って、セシリアは祈るように空へと手を上げた。


「全ての人々が等しく、困窮から抜け出すため。この世界が明日へと向かうため。すべての国家が、その枠と垣根を取り払って悠久の和平を繋ぐため。……私は、この翼をこの空に捧げましょう。この自由で青く深い、広大な空を人々が見上げ、明日の日を見て歩むことができるように。ここに、『オペレーション・ギガント・マキアー』の開始を宣言します」


 セシリアが演説を終えると、アルゴーの飛行甲板上は静寂に包まれた。誰もがセシリアの演説に聞き入り、その願いを空へと向けていた。


 しかしその直後、その静寂を食い破る轟音が空を引き裂き、海を割った。見やればガルガンドーラ王立海軍の戦艦、アブナーの三連装の40.6cm主砲9門が一斉に火を噴き、砲身下の海面がまるで穿たれたガラスのように割れ、巨大な円形のクレーターが3つ、一瞬でできあがった。雷の声と聞き紛うほどの豪声と共に大質量の砲弾が放たれ、未踏域の遠く北の地へと向かって飛んで行った。


 アブナーに続いてシーザーが主砲を斉射した。摂津が続き、ビッグ7の6隻全艦がその超大口径の主砲を圧巻の咆哮と共に斉射した。


 まるでセシリアの演説に向けられた祝砲であるかのように、二列縦陣を組んだ戦艦達の主砲が次々と吼える。


 派手な演出となったギガント・マキアー作戦の第一段階に、その場に集まった将兵たちが歓声を上げる。それに応えるかのように、戦艦たちは主砲を撃ち続けた。


 今、この瞬間、中央海の外、未踏域手前の北海の夏空に、男たちの歓声と耳をつんざき、腹に響き、その前に立つ者全てに畏怖を植え付ける野獣の咆哮のような砲声が鳴り響く。


 雷の声は遠く200キロメートル離れたエリミネア大陸最北に位置するブリタノの領土である離島からも聞こえ、この砲撃によっておよそ1000体以上もの巨人が倒されたということが、進撃した連合軍によって報告されたという。

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