箸休め はえですよろしくおねがいします ②はえのおでこはふくらみます

 文末に今回の「まとめ」を掲載しています。

 お時間のない方は、一番下まで画面をスクロールさせて下さい。


 題材の関係上、気持ち悪い話が多めです。

 お食事中には読まないほうがいいかも知れません。


 嫌われ者のハエを紹介している今回のシリーズ。

 前回はノミバエの幼虫が、どこにでも棲んでいることを取り上げました。


 ◇ハエはサナギになる


 ハエの幼虫であるウジは、よくも悪くも有名です。

 しかしサナギから成虫になることは、あまり知られていません。


 そもそも昆虫には、サナギになる種類とならない種類が存在します。


 先に現れたのはサナギにならない昆虫たちですが、現在は少数派です。

 進化しているのはサナギを作るほうで、昆虫の大多数を占めています。


 最も種類の多い(約39万種)コウチュウもくは、サナギを作るグループです。

 他にもチョウもく、ハエもく、ハチもくと、ベスト4がサナギを作るグループに独占されています。


 昆虫界のベスト4は、どれも10万種を超えるグループです。


 一方、サナギを作らないグループで10万種を超えているのは、カメムシもくだけです。

 このあたりは後のシリーズでまとめるので、気長にお待ち下さい。


 ◇ハエのご先祖さまはカ(蚊)?


 早い話、ハエは進化した昆虫ですが、昨日今日現れたわけではありません。

 現在発見されている最古の化石は、約2億6000万年前のものです。


 ただし最初に出現したのは、カ(蚊)の仲間でした。


 第1回で紹介した通り、ハエもくにはカやアブもぞくしています。

 大きなカ(蚊)と誤解されがちなガガンボも、ハエもくの一員です。


 ◇ハエもくは二つのグループに分けられる


 これらの昆虫は、大きく二つのグループに分けられています。


 一つ目が、カやガガンボのぞくする長角亜目ちょうかくあもく(カ亜目あもく)です。


 長角亜目ちょうかくあもくの昆虫は、12以上のふしで出来た触角を生やしています。

 ざっくり言うと、名前の通り「長」い触「角」を持つのが特徴です。


 ◇名前はハエだけど、カの仲間


 トイレやお風呂でよく見るチョウバエは、長角亜目ちょうかくあもくぞくしています。

 また以前紹介したヒカリキノコバエ(ツチボタル)も、長角亜目ちょうかくあもくの昆虫です。


 ヒカリキノコバエ(ツチボタル)について知りたい方は、こちらをごらん下さい。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883436079/episodes/1177354054883451598

 URLをクリックすると、該当する回に飛びます。


 ◇カ(蚊)がハエになった


 最も原始的なハエは、長角亜目ちょうかくあもくと考えられています。


 彼等は数千万年掛け、多様化を遂げていきました。

 そして約2億年前から1億8000万年前になると、第二のグループが出現します。


 それが、ハエやアブのぞくする「短角亜目たんかくあもく」(ハエ亜目あもく)です。


 ◇ハエとアブのグループ


 短角亜目たんかくあもくの昆虫は、長角亜目ちょうかくあもくより「短」い触「角」を生やしています。


 より具体的に言うと、彼等の触角は三つのふしで出来ています。

 三つのふしはそれぞれ形が異なり、先端の一つは感覚器官を備えています。


 ◇ちょくほう? かんぽう?


 短角亜目たんかくあもくの昆虫は、「直縫短角群ちょくほうたんかくぐん」と「環縫短角群かんぽうたんかくぐん」に分けることが可能です。


 何だか難しい言葉ですが、前者はアブ、後者はハエのことです。


直縫ちょくほう」や「環縫かんぽう」とは、サナギにく穴のことを指しています。


 ◇アブは普通にサナギを作る


 アブとハエはよく似ていますが、羽化の仕方は全く別です。


 アブの幼虫は普通の虫のように脱皮し、サナギになります。

 また羽化する際にはサナギの背中を割るため、「直」線状の穴を残します。


 ◇ハエのサナギは二重構造!?


 一方、ハエの幼虫は何もかもが独特です。


 彼等はある程度育つと、外皮がいひが硬化します。

 見た目はサナギのようですが、本物は硬化した外皮がいひの中です。


 きれいに囲まれていることから、専門的には「囲蛹いよう」と呼ばれています。


 また「囲蛹いよう」を包む殻には、「囲蛹殻いようかく」という名前が付いています。


 ◇ハエのおでこは膨らみます!


 多くのハエは、囲蛹殻いようかくを割るのに「額嚢がくのう」を使います。


 名前の通り、「額嚢がくのう」は「ふくろ」状の器官です。

 ハエの額に存在し、体液を使って膨らませることが出来ます。


 羽化する際、ハエは額嚢がくのうを風船のように膨らませます。


 すると囲蛹殻いようかくの一部が押し出され、先端に環状かんじょう(丸い)の穴がくと言う仕組みです。

 囲蛹殻いようかくには元々裂け目があり、穴がきやすくなっています。


 ◇ハエを捕まえても、おでこは膨らみません! でも重要です!


 羽化が終わると、額嚢がくのうはしぼんでしまいます。

 そのため、飛んでいるハエを捕まえても、額に袋はありません。


 ただし、額嚢がくのうがしぼんだ後には、額嚢線がくのうせんと言う溝が残ります。


 額嚢線がくのうせんは種類によって異なり、ハエを見分けるために使われています。


 ◇額嚢がくのうを持つハエは新しい


 今でこそ標準装備ですが、太古のハエは額嚢がくのうを持っていませんでした。


 彼等が額嚢がくのうを手に入れたのは、今から約6500万年前のことと考えられています。

 その証拠に原始的な種類のハエは、額嚢がくのうを持っていません。


 専門的には額嚢がくのうを持つハエを「額嚢節がくのうせつ」、持たないハエを「無額嚢節むがくのうせつ」と呼びます。


 最初に「多くの」と言った通り、ほとんどのハエは額嚢節がくのうせつです。


 ただし前回紹介したノミバエは、額嚢がくのうを持っていません。

 また花畑で見掛けるハナアブも、無額嚢節むがくのうせつの一員です。


 長くなったので、今回はここまで。


 次回はアブなのにアブじゃないハナアブに迫ります。


 ◇今回のまとめ


 ☆サナギになる昆虫は、ならない昆虫より圧倒的に多い。


 ☆最古のハエの化石は、約2億6000万年前のもの。


 ☆最初に出現したのは、カの仲間。


 ☆ハエもくには触角の短い「短角亜目たんかくあもく」(ハエ亜目あもく)と、触角の長い「長角亜目ちょうかくあもく」(カ亜目あもく)がいる。


 ☆カ、ガガンボ、チョウバエ、ツチボタルは長角亜目ちょうかくあもく


 ☆ハエとアブは短角亜目たんかくあもく


 ☆サナギの背中に「直」線状の穴を残すアブは、「直縫短角群ちょくほうたんかくぐん」と呼ばれる。


 ☆ハエの幼虫は、外皮がいひがサナギのように硬化する。その後、硬化した外皮がいひの中に本物のサナギを作る。


 ☆ハエのサナギは「囲蛹いよう」、硬化した外皮がいひは「囲蛹殻いようかく」と呼ばれる。


 ☆ハエの額には、体液で膨らむ袋がある。羽化する時は、これを風船のように膨らませて、囲蛹殻いようかくを破る。囲蛹殻いようかくには「かんじょうの穴が残るため、ハエは「環縫短角群かんぽうたんかくぐん」と呼ばれる。


 ☆ハエが羽化すると、体液で膨らむ袋はしぼんでしまう。ただし、袋のあった場所に溝が残り、ハエの種類を見分ける材料になる。


 ☆ハエが体液で膨らむ袋を手に入れたのは、約6500万年前。現在、ほとんどのハエは体液で膨らむ袋を持っている。


 ◇参考資料


 ハエ学 多様な生活と謎を探る

 篠永哲・嶌洪著 東海大学出版会刊


 蠅たちの隠された生活

 エリカ・マカリスター著 桝永一宏監修 鴨志田恵訳

 (株)エクスナレッジ刊


 ビジュアル 世界一の昆虫

 リチャード・ジョーンズ著 (株)日経ナショナル・ジオグラフィック社刊


 徹底図解 昆虫の世界

 岡島秀治監修 (株)新星出版社刊

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