shape next stage 蒼穹は胸の中で

「それではご武運を祈ります」

B村での任務を終えたリサは次の指令を受けた。休む暇もなく、任務へあたる。誰とも別れを告げることはない。某国の国民としての義務を果たす。それだけが重要だった。

リサは駅舎へ消えていった。おじいさんは見送る。

「いやあ、なかなか掻きまわしてくれましたよ」

樹の影に高山は立っている。扇子を振り、暑そうだ。

「しかし、あなたにも都合がよかったのでは。対処に困ってきた素材を処理できたうえに希望していた通りに物事を運べたでしょう」

高山は愉快そうに笑う。

「未来は開けています。薄白い空でさえきっといつか青空になるでしょうからね」

「まあ、あんたは陰から出れることを始めなければな」

「いいのですよ。私は陰にいます。陰から、陰に落ちそうな者を陽へと促す。それが私の仕事」

おじいさんは笑う。

「勝手にせい」



死者が何人も出たと村のあらゆる場所で警察が動いている。同級生も何人か死んだらしい。あの憎たらしかった大西エリも。

それだというのに、まったく意に返さないと学校の屋上でトランペットを吹いているやつがいる。しかも、憎たらしいことに心が晴れ渡る旋律なのだ。

ユカコはカナタの背中で耳にしている。

カナタはもう大丈夫だ。生まれ持った才能を発揮していくことだろう。

私はこれからどうしようか。

やっぱり、某国に行きたい。行きたくてたまらない。

そのために、少しでも長く勉強しよう。

いつか訪れるチャンスを逃さないために。



電車の窓から空を眺めている。F国の空はどこまでも白かった。

リサは胸の中で思う。F国の偉大指導者も某国民も先輩も。誰だって、この国に関わった人間はこの空を青に染めたくて戦ってきたのだろう。だって白い霧の向こうに青空はあるのだから。

カナタやユカコ。彼女たちのようにF国にもこれから先、青空を願って戦い始めるものはいた。

リサは、彼らのような存在が将来へと道をつなぐ橋になることが出来ればと思う。先輩が世界中に振りまいた青空への願望の萌芽。リサはそれに水を与えるために産まれてきたのだ。

電車は行きとは真逆で、進めば進むほど人が増える。もうどの会話も耳に入らない。

車掌がおしくらまんじゅうを押しのけて、進む。もうすぐ目的地だ。

次は一体何が待っているのだろう。

これから先、ちゃんとこなせるのだろうか。

不安だ。

でも、がんばる。

青空はいつだって心の中にある。

だから、生き抜いてやる。

誰でもない、自分自身のために。

それが結果的にみんなの青空になるだろうと期待して。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の青空 喜多健介 @kitaken0916

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る