shape seven 私の青空
今夜のリサはパジャマではなく、戦闘服、とはいってもジャージで深夜徘徊を始めた。
次怪物と出会ったとき確実に仕留める。リサの能力では事細やかに怪物のデータを集積することは出来ないと前回の戦闘で悟った。だからこそ、確実に倒す。
リサが探すまでもない。怪物は叫んでいる。今までにないほどの覇気を感じる。全動物が怪物から離れていく。リサだけが近づいていく。
高山がいる。リサは立ち止った。
「ほほう。今日はやけに気合入っているね。どうしたの」
「深夜のランニングを決め込んでいるわけです。高山さんこそこんなところ歩いていたら危ないですよ」
高山はにやりと笑う。
「ふふふ。お嬢ちゃん。これでも僕は国家に属する職員だからね。給料分の仕事果たすために必死なんだ。
今だってそう。遊んでいるように見えて結構必死なんだよ」
「それはよいことですね。私も学生の本分に従って生きていけるように努力しますよ」
「ふふふ。努力、ね。面白いことをいう」
リサは首を傾げた。
「おもしろかったですか」
「ああ。ただ生きているだけなのに、努めなければならない。矛盾。面白なくてなんなんだい」
「当たり前のことですよ」
リサは高山から離れていく。
「お嬢ちゃん。怪我だけは気をつけて。何処に落とし穴があるのかわからないからね」
リサは手を振って応答した。
高山の姿が消えたことを確認してから、リサは最大出力で怪物へと向かう。
先手必勝である。
光の槍のようにサーベルを突き立て、目標物に突進した。
今回の目標は対象物の抹消。
明日の朝起きてみれば、怪物が占めた空間のみが損失している。それ以外はなんにも変化していないそこはかとない違和感。
長引かせるつもりなど一厘もない。最短時間で決着付ける。
リサは怪物に突進した。手ごたえはあった。圧倒的なエネルギーが怪物に集約する。
しかし飛ばされたのはリサだった。一体どういう事だろう。何が起こったのだろう。手からサーベルが離れた。初手を誤ったのか。
空中で態勢を整えながら、怪物を確認する。目の前に怪物は迫っていた。
弾き飛ばされる。更に弾き飛ばされる。そして掴まれた。えぐり取られる。戦闘不能。
リサは目の前の怪物が今までと違うと悟った。もう遅い。リサは餌食となってしまった。
怪物は全く笑っていない。以前感じていた人間の偏った欲望を感じない。ただの生物として、本能の赴くままに動いている。
リサがここで死んだとして一体何が起こるだろうか。おそらく何も起こらない。工作員が一人、任務を遂行できなかっただけだ。
リサの頭に走馬灯が走る。まだ死んでいないのに、諦めてしまった。工作員として半人前にもほどがある。
頭の中で青い空が浮かんでいる。先輩が世界の悲しみを吐き出すように奏でている。美しい。素晴らしい。
妄想が打ち砕かれる。リサは地面へ落ちた。トランペットの音が響く。
怪物がもだえ苦しんでいる。本当に、演奏が、響いているのだ。
リサは目を擦る。耳を澄ませる。この演奏は幻でないのか。
……。音はやまない。遠くから聞こえる。少しずつエネルギーが肥大していく。
怪物は全身が焼けるように身体を震わせている。怪物自身の闇が耐え切れないようにぽとりぽとりと剥がれていく。
リサはただ怪物が苦しむのを見守るしかできなかった。
演奏はまだ止まない。神の旋律を聴いているようだ。
怪物の闇が浄化されたのか。大西エリの姿が露出する。大西は光を充てられたドラキュラのように肉を擦り切らせて、骨格を露わとさせている。その姿は哀れにもほどがある。
そして命を使い果たしたように、大西はこと切れた。コツッと地面に倒れた。
しかしそれをリサは見ていない。リサは旋律に心を奪われていた。
誰が演奏しているのか。なぜ演奏しているのか。
全てのことに興味を寄せられない。
旋律だけが全てだった。
全身が涙を流しているようだ。
全てが浄化される。
私の青空が心の中で輝いている。
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