第19話 あらたな村
預けた家屋は14日後に取りに来ることになり、俺たちは当初の目標であった西にあるという村を目指している。
パトリックと出会ったところまで戻り、馬車を元の大きさに戻してアーチが引っ張り、俺たちは御者台へ。
「兄ちゃん、僕、とっても楽しみだよ!」
「わたしも!」
アンゴラネズミのズズを背に乗せたパトリックを膝の上に乗せたアメリアが腕を前に出す。
パトリックもズズの背の上で中腰になって万歳のポーズを取る。
そうそう、パトリックもついてくることになったんだ。
一度、人間の村を見てみたいってことでね。俺とアメリアには特に断る理由もなかったし、人数が多い方が旅も楽しいしってことで彼の申し出を快く受けることにした。
「ねえ、エリオ。村ってどんなところなの?」
「んーっと。村の名前も分からないなあ。反対側にあったガロの村は結構な規模だったよ」
「へえ。どんなところだったの?」
「村人は500人はいたと思う。ちょっとした露天が毎日広場に集まっててな。そこで俺もアーチと一緒に物を売ったよ」
「すごーい! わたしもやってみたい!」
「そうだな。次の村ではポーションを売るといいんじゃないか?」
パトリックのために作ったポーションは結局使わなかったしさ。
せっかくだから鮮度のよいうちに売ってしまうとお金にもなる。
「じゃ、じゃあ。もっと作っておかなくちゃだね」
「うお。アメリア姉ちゃんー」
「ご、ごめんね」
今すぐ作ろうとしたのだろうか、腰を浮かせたアメリアだったが、膝に乗るズズとパトリックからしたらたまったもんじゃない。
転げ落ちそうになるところをすんでのところでアメリアが体の動きをとめ、事なきを得た。
「まあ、アーチの足ならすぐに到着するさ」
「だ、だったら、はやくつくらないと!」
「だああ。待て、アメリア。何も今日中に到着するとは言っていない。野営する時に作ればいいじゃないか」
「そ、そうだね。えへへ」
アメリアは頬に手をあてあせあせと首を傾ける。
ドールハウスの能力のおかげで、夜は一戸建てで寝ることができるしな。快適そのもの。作業だって村にいた時と同じように実行することができるさ。
道具も全てある。
――二日後。
思ったより遠かったなあ。だけど、ポーションの制作はバッチリだぜ。
アメリアがかなり張り切って夜な夜な作っていた。その分ほら――御者台でこくりこくりと船を漕ぐアメリアに向け、そっと毛布を被せる。
なので、ゴゴとパトリックは俺の膝の上だ。
「パトリック。もうすぐ村に着くと思う」
「そうなの!」
「うん。道が広く、踏み固められてきているだろ。よく人が通る証だ」
「へえ」
なんてパトリックと会話を交わしている間にも、村の入り口が見えてきた。
「アメリア姉ちゃん! 着いたよ!」
「ん、え。うん? ああああ! 村だああ!」
寝起きのアメリアは村の方を指さし、大きな声を出す。
その声が自分を呼ぶ声だと思ったのか、アーチが首をあげ吠える。
「うおおおん」
「よっし、アーチ。村まで少し速度をあげるか!」
俺の願いに応じたアーチが、足にぐぐっと力をこめ、速度をあげる。
みるみるうちに近づく村へ、パトリックとアメリアの期待が更に高まっているようだ。
村にいったらまず何をしようか。そうだなあ。
「ねえねえ、エリオ」
「ん?」
「わたし、とても楽しみなの。連れてきてくれて、連れ出してくれて本当にありがとう!」
「俺だって。一緒に旅をして楽しい。これからもよろしくな!」
「うん!」
アメリアと笑顔で頷き合う。
さあ、村に着いたぞ。
村に着いたら何をするんだっけ。
そうだ。村の名物を聞こう。もちろん、料理の。
門番はおらず、そのまま馬車をゆっくりと門を抜けたところで御者台からぴょんと飛び降りる。
「
一瞬で手の平サイズに変化した馬車を懐にしまいこみ、アーチの首元を撫でた。
おいおい。アメリアと彼女の胸に抱かれたパトリックがもう村の中へと入って行ってるじゃないか。
「おいおい。待ってくれー」
両手を振り、彼女らに微笑みかける。
さってと、まずは市場を目指すとしますか。
おしまい
※これにて完結となります。お読みいただきありがとうございました!
「ドールハウス」スキルで始める理想の街作り~老剣聖の元荷物持ち、町長に転職します~ うみ @Umi12345
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