Ninth Chapter...7/27

計画の後任

 翌日の学校でも、当然の如く永射邸の火事が生徒たちの話題を独占していた。

 ただ、子どもたちの方がむしろ状況を冷静に分析しているようで、鬼の祟り云々よりも、誰かが邸宅に火を放ったと考えるのが妥当、という見方が大勢を占めていた。

 玄人はどうやら昨日、瓶井さんの家に招待されていて、鬼の伝承について詳しく聞かされていたという。その帰り道に、永射邸の火事を目撃し、間近で様子を眺めていったのだとか。

 私と八木さんが見ていたあの野次馬の中に、ひょっとしたら玄人がいたのかもしれない。

 虎牙からの連絡はこの日もなく、双太さんも何一つ情報を聞いていなかった。佐曽利さんは昨日、双太さんへ連絡を入れたと話していたが、それは嘘だったわけだ。

 正直なところ、私たちも全面的に信じてはいなかったが。

 佐曽利さんまでが一緒になって、虎牙の行方を分からなくするのは何故なのだろう。あの人が虎牙の不利になるような行動をとることは、なさそうだけれど。

 もう一度、お見舞いという体で佐曽利家へ押しかけてもいいのだが、結果は多分、昨日と変わらない。あの頑固な佐曽利さんだから、何だかんだで私たちを帰らせるに違いないのだ。

 待つしかないのだろうか。もどかしい気持ちを押さえつけながら。

 永射さん亡き今、電波塔の計画については満雀ちゃんのお父さん、貴獅さんが引き継ぐことになったようだ。これは八木さんの読み通り。恐らくはその後も八木さんが話していたように、新しい人がくるなりするのだろうと思われる。

 いずれにせよ、代わりの人は必ず現れるということだ。

 試験への熱意は、とうに冷めていた。埋められない問題は無かったのだが、それでも日に日に点数は落ちているという自覚はあった。

 この事件が解決するまでは、他のことになど身が入らない。私たちはすっかり、事件の触手に絡めとられてしまっているのだった。

 試験の間の準備時間に、見てみようと思っていた図書室へも行ってみたのだが、結局収穫は何もなかった。予想通りというべきか、短い本棚に並んでいたのはお決まりの児童文庫や昭和の漫画だけだった。元々、さほど期待はしていなかったけれど、実際に収穫ゼロとなると気持ちはそれなりに沈むものだ。

 まあ、切り替えていかなくては。

 下校時間になったころ、教室の窓から外を見やると、いつの間にやら雨は止んでいて。

 せっかくだからもう少し情報交換をしたいと思った私は、玄人に秘密基地へ行かないかと提案をしてみた。

 それを耳聡く聞いていた満雀ちゃんも、


「本当? 私も行きたい」


 とせがんできたので、双太さんに遊ぶ許可を貰って、十二時頃になるまで秘密基地で話し合うことにした。

 久しぶりの秘密基地。ムーンスパローの整備もしておこうと考えたところで、私は三日前のことを思い出す。そう言えば、部品を買いに出たつもりが、八木さんの話に夢中になったせいで買いそびれていたのだ。


「ちょっと寄ってく場所があるんだけど、構わないわよね?」


 玄人と満雀ちゃんにそう確認しておいて、私たちは途中、秤屋商店へ立ち寄った。


「あら、玄人くんに龍美ちゃん。……満雀ちゃんも? 珍しいわね、いらっしゃい」


 友人と買い物に来る、というシチュエーションは滅多にないので、千代さんに驚かれつつ、私はムーンスパローの部品を探す。玄人が千代さんとお喋りに興じている間に、何とか目当ての品を見つけることができた。

 小さなパーツながら、値段は千八十円。基本的にムーンスパローの製作費は割り勘だが、私や玄人が多くお金を出す傾向にある。この日も満雀ちゃんはお金を持っていなかったので、私と玄人で半分ずつ支払いをした。


「このところずっと、何か作ってるみたいだけど。順調?」


 千代さんに近況を聞かれ、私は上手くいってますと返答する。

 そこに慎重派な玄人が、


「手痛いしっぺ返しがなきゃいいけどねえ」


 とコメントするのに、千代さんは対照的ねと笑った。


「ふふ、頑張ってね。青春は一度きりだぞ」


 青春は一度きり、か。

 ここに移り住み、平穏で幸せな青春をようやく送れそうだというときに、こんな事件が起ころうとは。

 早く全てが終わり、一度きりの青春とやらを心おきなく満喫したいところなのだが。

 部品調達を終え、私たちは秘密基地へ向かう。雨が止んだとは言え、地面はまだぬかるんでいるので、足の悪い玄人には少し負担だ。気を付けるよう声かけしながら、私たちは山道を進んでいく。

 到着した基地内部は、風雨の影響で物が倒れたり、転がっていったりしていたので、まずはそれを元通りにする作業から始めなくてはならなかった。蚊帳を張っているので、基地の外まで飛んでいったものはなかったけれど、もっと強い台風なんかが来たら、流石に怖いかもしれないな。

 整理が済むと、私たちはムーンスパローの改良作業を行いつつ、集めた情報の共有を始めるのだった。

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