葉桜琴乃には○○がいる。
第9話目です。ついに最終回!
甘さ控えめかもしれません。
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可愛い小動物系女子。職場のアイドル。超人気者。
実家から離れ、同棲している俺、
高校も大学も無事に卒業し、就職して働いている。
付き合い始めてから9年ほどが経った。
俺たちの関係は良好だった。喧嘩しつつも、仲良いカップルだったと思う。
しかし、ここ2,3カ月、琴乃の様子がおかしい。コソコソしているし、誰かと連絡を取っているらしい。四六時中スマホを手放さない。俺の前ではオシャレをしなくなった。露出を避けている。夜の生活も皆無だ。レスだ。
金曜日の夜。働き終わった俺は、暗い夜道を歩いて帰宅している。
琴乃にメッセージを送ったが、一向に返信はない。
「はぁ……もしかして、アレなのか?」
疑いたくはない。でも、どうしても疑ってしまう。
「浮気……してるのか?」
琴乃の行動は、浮気をしている人の行動にピッタリと一致する。
まさか琴乃が……。でも、琴乃は綺麗で可愛い。職場で超人気で、男からもモテるらしい。イケメンから言い寄られたら、俺なんか霞んでしまうよな。
「はぁ……嘘だといいけどなぁ」
ため息をついたその時、ピロリン、とスマホが音を立てた。すぐさまメッセージを確認する。
『京! 見て見て! お母さんたち新車買ったの! どやぁ!』
俺は、一瞬で母さんからのメッセージを消去した。顔は感情が抜け落ち、無表情だったに違いない。
ため息をつきたい気持ちを堪え、星空を見上げて声を荒げる。
「心底どうでもいいわ!」
俺は一人でトボトボと帰宅する。
玄関を開けると真っ暗。明かりが消えている。テーブルの上にはメモが置いてあった。
『体調悪いから先に寝るね。起こすな! 愛しの琴乃より♡』
琴乃は、明かりを消した寝室のベッドの上でスヤスヤ寝ていた。可愛い寝顔だ。
ここ最近、体調が悪いと言ってベッドに引きこもることが多かった。
疑いたくはないが、一度疑念を持つと、心の中で消えずに燻ってしまう。
俺は一人で寂しく夕食を食べる。
▼▼▼
次の日は土曜日で、俺と琴乃の仕事は休みだった。
のんびり過ごそうかと思っていたが、どうやら琴乃は出かけるらしい。軽く化粧をして、スマホの時間をチラチラと確認している。
準備が終わった琴乃は、荷物をもって、玄関で敬礼する。
「わたくし、葉桜琴乃は出かけてきます!」
「了解であります!」
「行ってきまーす!」
「へーい。行ってらっしゃい」
俺は笑顔で琴乃を見送り、玄関のドアが閉まった瞬間、すぐさま行動を開始した。
何の行動かって? もちろん、尾行に決まっている!
軽く変装して、バレないように琴乃の後をつける。
5分ほど歩いた琴乃は、周りをキョロキョロとする。すると、停車していた車がクラクションを鳴らした。知らない車だ。
ニッコリ笑顔を浮かべた琴乃は、手を振りながらその車に近づき、慣れた様子で助手席に座る。
俺からは運転手が見えない。確認したいが、近づくと琴乃にバレてしまう。
けれど、琴乃があんな笑顔を浮かべるなんて、相当仲が良い人間だ。例えば、浮気相手とか。
夢であって欲しい。嘘であって欲しい。足元が崩れ落ちる感覚に陥る。心が空っぽになる。
「マジかよ……琴乃……」
呆然と立ち尽くす俺は、琴乃が乗り込んだ車を、ただ見送ることしかできなかった。
▼▼▼
「おーい。京? どうしたの? 元気ないよー?」
琴乃が心配そうに顔を覗き込んでくる。小柄な琴乃の小さな手が、俺の頬を挟み込むのように触ってくる。額に手を当て、熱を測ったりもする。
浮気の決定的現場を目撃した俺は、いつの間にか家に戻っていて、気づけば数時間が経過していた。今日は何もやる気が起きず、ボーっと過ごし、夕方ごろに琴乃は帰ってきた。
二人で夕食を食べたのだが、もちろん俺には食欲がなく、機械的に無理やり胃に流し込んだ。
「ねえ? 大丈夫? 気分悪くない?」
「……大丈夫だ」
「本当? 彼女に浮気された彼氏、みたいな顔になってるけど」
「うぐっ!?」
なんだ? 俺に探りを入れてきたのか!?
琴乃の顔はただ心配そうなだけ。これは演技なのか? コイツならあり得る。よく揶揄ってくるから。
俺は琴乃が好きだ。大好きだ。でも、琴乃が別の男を選ぶのなら、俺は諦めよう。琴乃の幸せが一番だ。
覚悟を決めて、琴乃と向かい合う。真剣に琴乃の綺麗な瞳を見つめる。
「琴乃……俺に隠してることがあるだろ」
「……えっ?」
「話してくれ」
一瞬、琴乃の瞳に浮かんだ動揺の光を見逃さない。誤魔化そうと顔を逸らし、作り笑いを浮かべようとしたが、すぐに諦めて肩を落とした。小さく呟く。
「……そっか。気づいてたんだね。仕方がないか。ちょっと待ってて」
琴乃は、寝室に向かい、何やらゴソゴソといろいろなものを持って来た。書類が多い。
スッと俺に差し出してくる。
「まずはこれを書いて。話はそれからだよ」
「……わかった」
俺は言われるまま、書類の欄を埋めていく。氏名や生年月日、その他いろいろ。
心が空っぽの俺は、脳が働かず、内容が頭に入ってこない。
全部書き終わり、琴乃が満足そうに内容を確認する。笑顔で頷いている。
「よし! オーケーだね!」
「……それ、何だったんだ?」
「ふぇっ? 何も見ないで書いたの? ここにバッチリ書いてあるじゃん!」
琴乃が、書類の一番上を指さす。そこには、デカデカと文字が書いてあった。
「ズバリ! 『婚姻届』です!」
「は?」
「明日一緒に出しに行こうね! パパ!」
「えっ?」
えーっと、全然状況が理解できないんだけど。
俺が書いたのは婚姻届? それって、結婚するときに書くやつだよね? えっ? なんで? 別れ話になるはずじゃ……。
「琴乃?」
「なーに?」
「他に好きな人がいるから俺と別れるんじゃ……」
「あ゛っ?」
笑顔の琴乃の顔から、スッと感情が抜け落ちた。物凄くドスの利いた声で、俺の身体が震える。滅茶苦茶怖い。
無表情の琴乃が、静かに近づいてきて、俺の頬を容赦なく引っ張る。
「変なことを言った口はこれかな? かな?」
「
「私が京以外の男が好きで別れる? そう言った口はこれかな? かなー?」
「
「どうしてそんなこと思ったの! ばか! ばか京!」
ぷくーっと頬を膨らませて、琴乃がプンプン怒っている。俺は、引っ張られて赤くなっているだろう頬を撫でながら、もごもごと小さな声で話し始めた。
「だって、ここ最近琴乃の様子がおかしかったから。俺に隠れてコソコソしてたし、スマホはずっと持ち歩くし、俺の前でオシャレしなくなったし、体調が悪いって夜の誘いも断ってさっさと寝るし、男の車に乗ってどこかに行くし……」
「ちょっと待って! 最後のだけはよくわからない!」
「今日のことだよ!」
思わず声を荒げてしまうが、琴乃はキョトンとするだけだ。理解が出来ない様子で首をかしげている。
「今日? 今日は京のお母さんとお出かけしただけだよ」
「へっ?」
「新車に乗せてもらったの。新しかったよぉ。それでね、婚姻届けを貰いに行ったり、ベビー用品のお店を見て、いろいろ教えてもらったりしたの」
えっ? あれっ? お出かけの相手は男じゃなくて俺の母親? そう言えば、昨日、新車買ったってメッセージが来ていた気が……。
「コソコソしてたのは、京のお母さんに相談に乗ってもらってたから。スマホを持ち歩いてたのはそのせい。オシャレをしなくなったのは、身体を冷やさないため。体調が悪かったのは本当。でも、私はあまり酷くならない体質だったみたい」
「……マジか。疑ってごめん」
「本当に疑ってたの!? だから落ち込んでたのかぁ! 私が浮気したと思って? そんなことするわけないじゃん! 早とちりしすぎ!」
「…………良かった。滅茶苦茶安心した……」
「もう! 私を信用してください! 何年一緒にいると思ってるの! あぁ~あ。私の心がちょっと傷つきました。傷ついちゃいました! これは一生償ってもらわないとダメですね。というわけで、結婚しよっか!」
「そうだな……」
俺はつい反射的に答えてしまい、そして少しの間、琴乃の言葉を考える。
「は? ちょっと待って! いきなりすぎてついて行けない! 結婚!?」
急展開過ぎる!? た、確かに、今婚姻届けは書かされたけど!
結婚!? というか、プロポーズ!? 琴乃から!? せ、折角俺もいろいろ考えていたのに……。ムードも何もないな。
琴乃が、椅子に座る俺の太ももの上に座ってきた。慣れた様子でキスをしてくる。
「京は私の夫になって、私は京の妻になるの。異論反論認めません」
「どこかで似たようなことを聞いたな」
「異論反論認めませんが、不満は言ってもよろしい! ありますか?」
昔から変わらない悪戯っぽい笑顔を浮かべる琴乃。大人になっても可愛い。愛おしい。
浮気を疑うなんて、俺は馬鹿だった。琴乃が浮気なんかするわけがない。
これから一生尻に敷かれそうだ。今も敷かれてるけど!
「不満なんかあるわけないさ。琴乃、結婚しよう。一緒に幸せになるぞ!」
「うん!」
俺と琴乃は、誓いのキスをする。
幸せすぎて身も心も蕩けていく。誓いのキスはしばらく続いた。
ゆっくりと顔を離すと、瞳を潤ませ、頬を朱に染めが琴乃が微笑んでいた。嬉しさや恥ずかしさが伝わってくる。
「京大好き」
「俺も琴乃が大好き」
俺と琴乃は結婚するのか。そうかそうか。何と言えばいいのだろうか。やっと夢が叶う、みたいな気持ちだ。
「結婚するなら、親に挨拶しなくちゃダメなのか。うわぁ。緊張するなぁ」
「あっ、それならもう済ませたよ」
「は?」
「私が先に挨拶しといた」
ちょっと待て。目の前でニコニコしているこの子は何を言っているのだろう?
もう済ませた? 先に挨拶した? 意味が分からない。
「ウチの両親にも、京のご両親にも『結婚しまーす。京を貰いますねー』って、先週言ったよ」
「先週!? 一人で!?」
「うん。そしたらさ……」
琴乃が何故か途中で言い淀んだ。どうしたんだ?
「なんだ? 『いいよー』って軽くオーケーされたのか?」
「ううん、違うの。『えっ? まだしてなかったの?』って本気で驚かれた。もう既に結婚していると思ってたみたい」
「あぁー……」
そういうところあるよね、ウチの両親と琴乃の両親。正月とか普通にお互いの実家に行くし。その度に『孫はまだか』って言われてた。なるほど。だから『結婚はまだか』って言われなかったのか。
「『じぃじ』や『ばぁば』になることも喜んでたよ」
「そうかそうか。でも、俺も挨拶に行きたい……って、んっ? 『じぃじ』や『ばぁば』? どういう意味だ?」
「どういう意味っておじいちゃんとおばあちゃんって意味だよ。ちなみに、私がママで、京がパパ」
「……んっ?」
ごめん。全然話について行けない。急展開過ぎ。
ニコニコ笑顔の琴乃が、俺の手を自分のお腹に誘導する。琴乃のお腹は温かい。
笑顔であっさりと重大なことを暴露する。
「妊娠しちゃった!」
その瞬間、俺の周囲を流れる時間が凍り付いた。
「ニンシン?」
「3カ月だってさ。避妊してたけどさ、避妊具が無くなっちゃった日が一日だけあったじゃん。一日だけなら大丈夫でしょって言ってたら、見事に子供が出来ちゃいました。いやー運が良かったねぇ。あれだけ求められれば出来ちゃうか。あはは!」
にんしん。ニンシン。にんしん。ニンシン。
こども。コドモ。こども。コドモ。こども。
脳が処理能力をオーバーしてしまって、状況が理解できない。
「避妊はちゃんとしましょうってことで、京はパパに、私はママになります! そろそろ理解できた?」
「えぇ……えぇええええええええええええええええ!?」
俺の叫び声が部屋中に響き渡った。そんな俺を見て、琴乃はケラケラと笑っている。
結婚かと思っていたら、妊娠して子供がいる!? 出来ちゃった結婚!?
再び俺は叫んでしまう。
「これから忙しくなるよー! 幸せの覚悟をしてよね、私の旦那様(笑)」
琴乃は、悪戯っぽくウィンクして、むぎゅーっと抱きしめ、チュッと優しくキスをしてくる。
俺の妻になる葉桜琴乃。彼女に浮気相手はいなかったが、お腹に俺との子供がいるらしい。
<完結>
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お読みいただきありがとうございました。
読者様の『続いて!』というお声が多く、何度も心が揺れましたが、これにて完結とさせていただきます。
高校時代や大学時代に起きたイチャイチャは、読者の皆様が好きにご想像ください。
『長編に!』というお声も頂きましたが、琴乃と京はダラダラと長く続けさせたくありませんでした。
私のただの我儘です。
新たな長編ラブコメ作品の設定を考え始めました。
主人公は、京と琴乃の子供にしようと思っています。
現在は、いろいろ大変なので、いつ書き始めるかわかりませんが、二人はいつか再び登場します。
夫婦になってもイチャイチャしていることでしょう。
読者の皆様、本作品を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
2020/5/19 作者:クローン人間
葉桜琴乃には彼氏がいる。 ブリル・バーナード @Crohn
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