練習試合を申し込む
【注意】前話とはつながっていません。本編21話↓を読んでからご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893337449/episodes/1177354054896403752
※前話は一人称でしたが今回は三人称です。ややこしくてすみません。
「ひめひめひめひめひめー!!!」
金髪のツインテールを乱した女子高生が更衣室に飛び込んできた。
ちょうど制服のワイシャツを脱ぎ捨てたところだった姫――こと
彫りの深い顔立ちと二重の大きな瞳に意思の強そうな眉は”姫”と呼んで差し支えない美少女の
「騒がしいぞ、のぶ子」
ギャルを自認する比嘉のぶ子は地団駄を踏む。
「っだぁ!! だからくっそダサい本名呼ばないで! それよりも大変なの、例の『ゆうと』の学校が分かったの」
「なんだと!?」
のぶ子の肩を掴んでゆさゆさと揺らす。バスケ部員ながらのすさまじい握力だ。
「いだ、ひめ、いだい」
「どこだ! ゆうとはどこにいる!?」
「あ、こ、これ……」
あまりの圧に潰されそうになりながらスマホを差し出す。碧は無言で奪い取ると画面を見つめた。
「兄貴から。たぶん
痛みから解放されたのぶ子が蚊の鳴くような声で指をさす。
碧の表情が険しくなった。しばし眉根に皺を寄せていたが、ふぅ、と息を吐いてスマホを返す。
「顧問に掛け合ってくる。練習試合をお願いしたいとな」
上半身ほぼ裸のまま更衣室を出ようとする碧の前でのぶ子が腕を広げた。
「ちょっちょっと! 場所は県外だよ。練習試合するなら一日がかりになるし、相手がバスケ部員なのかも分からないんだよ!?」
「なにを言う! バスケ部に決まっているだろうが。昨年の全国大会に姿を見せなかったのは……たぶん、なにかの間違いだ。バスケはひとりでするものではないからな」
「とにかく落ち着いてよー。まずは上着きて。スミレ扉ガードお願い!」
「はいですっ」
指名を受けた180センチ越えのセンター、おかっぱ頭のスミレが扉の前でがっちり身構えた。
「そうくるか。ならば力づくで……!!」
碧はますますやる気になった。
カッと目を見開いて右に抜けようとする。すかさずのぶ子が体重移動すれば左へ。本番の試合さながらのフェイント合戦を繰り広げる。
「……でもねぇ」
わーわーと騒ぐふたりを前にその場に居合わせた女子部員たちは困惑顔を浮かべていた。
「かりにバスケ部員だったとしても相手は男バスでしょう。わたしたちだけが行くわけにはいかないよね」
「月波ってどのレベルなんだろ……へぇー、女子は県大会進出がやっとか。男子は地区大会一回戦負けだってよ。めっちゃ弱いじゃん」
「全然相手にならないじゃん。男バスいやがるだろうな。うちらもヤだけど。弱いとテンション下がるんだよねー」
県外へ遠征するとなると費用がかかる。当然それに見合ったものがなくてはいけない。彼女たちはいずれも青嵐高校の一軍メンバーであり、いまは大事な時期だ。いくらキャプテンの希望であってもおいそれとは頷けない。
「てかキャプテンってあんなに熱い性格だったんだ」
「クールビューティーかと思ってたよね」
「あたし結構好きだけどなー」
「その『ゆうと』ってどんな人なんだろうね」
一軍であっても女子だ。嬉々として恋バナに花を咲かせている。
一方の碧はというと――、
「わたしは絶対……絶対に『ゆうと』に会うんだ!」
一瞬の隙をついてのぶ子を抜いた。
「やばい、スミレ!」
「任せてですっ!」
碧はまっすぐ突き進む。
「どけスミレ! わたしの思いはだれにも邪魔させない!」
「来いですっキャプテン」
一対一の真剣勝負。
その結果は……!!
※
「で? 女子更衣室の扉を壊したって?」
碧とのぶ子とスミレは体育館の床で正座させられていた。
顧問は元ヤンと噂される佐伯。巻き髪をもてあそびながらおそろしく冷たいまなざしで三人を見下ろしている。
「申し訳ありません」
「ごめんなさーい」
「すみませんです」
スミレのもとに突っ込んだ碧。あまりの勢いに押されたスミレのお尻で扉が歪み、修理が必要になった。
罰として他の部員が練習する前で正座させられることになったのだ。一軍レギュラーの三人からすればこの上ない屈辱である。
「先生。すべてはキャプテンであるわたしの責任です。ふたりはどうか練習に参加させてやってください」
深々と頭を下げる碧を見てのぶ子もさすがに気の毒になった。
「キャプテンはただ会いたい人がいただけなんですよー。それがちょっと変な方向にずれちゃって……どーか許してあげてください、このとおりです!」
のぶ子も床に頭をこすりつける。スミレもそれにならう。
「――……仕方ないねぇ」
ため息をついたのは顧問だ。
「月波高校だっけ、連絡しておいてあげるよ。来週そっち方面の高校と二軍が練習試合をする予定になっているから寄るってね。あんたたちも連れて行ってあげる。意中の男子がいるかどうかは知らないけど部員のひとりくらいは連絡先知ってるんじゃないの」
厳しい顧問にしてはこれ以上ない恩情だ。たまらずのぶ子が顔を上げる。
「やったね姫!」
「やりましたねキャプテン」
ふたりに両肩を叩かれた碧はじわじわとこみ上げる喜びをかみしめた。
「ありがとうございます先生。この御恩は必ずや――」
「お礼なんていいから罰として校庭二十周走っておいで」
「「「はい!!」」
それくらいの罰は罰でもなんでもない。
(やっと会えるんだ。ゆうとに)
オレンジのリストバンドを彼は覚えてくれているだろうか。
期待は高まる一方だ。
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