第78話 士官
7mm 0 2 型 自 動 小 銃
7mm
この小銃は、通常、近接対人戦闘において使用され、自動機構のはたらきにより、照準を維持したまま、至短時間に多量の射弾を正確に集中できる特徴がある。また、照準眼鏡を装着しての中遠距離に対する射撃及び小銃てき弾の発射、軽易な対空射撃を行うことができる……
「戦訓及び資料を検証した結果、魔法徒歩兵に於いては至短時間に多方向から多量の射弾を集中することが集団戦に於いて有効であることが判明しました。そこで歩兵火器全部の自動化を具申致します」
長々と様々が書いてあったが、要は「強力な一撃を与えるか、多方向から連撃を与えて『滑らせる』か、間合いを詰めてしまえば良い」とのことだった。
そこで、小銃手全員に自動小銃を配って機会があれば瞬間的には機関銃組に準ずるぐらいの火力を発揮できるようにしよう。なんなら無反動砲組にも、というのが軍の言い分だった。
「コレだと分隊に配る軽機関銃増やした方が良いんじゃ無いか? 部隊としての発揮火力は手動小銃と大して変わらんし」
だが、資源は無限では無い。
実は自動小銃と手動小銃で持続発揮火力は大して変わりがない。当然、単位時間あたりの投射量は全然違ってくるが。
「それでは運用単位数は現行のままとなります。本施策の主眼は運用単位数の増加です」
「下士官・士官が足りるのか? それに動員時に予備役が自動小銃を使えるのかとか、そういう問題もある。それに
問題は、歩兵は骨幹部隊であって特殊部隊じゃねぇということである。
全ての軍隊の活動は、極論すれば所望の時期・地域を歩兵に占領させることにある。
その歩兵、ひいてはその主武装である小銃をどうしようかな、というのは軍隊のあり方を決める根本的問題となるのだ。(尤も、最早我々の骨幹火器は機関銃ないし砲となっているのだが)
「自動小銃は至近域での白兵能力を増強します。
前世はどうだったか。という問題からは最早離れつつある。
社会情勢も、想定敵も、想定環境もまるで違う。
「現行の編成は陣地防御や突撃には適しますが、将来想定される市街戦等の柔軟な戦闘には不向きです。それに、運用単位数の増加は分散配置にも適します」
「機関銃組と
国家市民軍は、今まで守りの軍隊であった。
それが、外征能力を得ようとしているのだ。
地上軍の検討は続く。
「4コ
「最低限、コレぐらい無いと
「理想を言えば2コ
今のドーベックは、3コ旅団・1コ師団制を目指している。
北、西、南の各主要道路を1コ旅団で管制しつつ、中央部に拘置した師団を鉄道機動させて内線作戦ないし任意の正面へと外征を敢行するというのが当時の国家市民軍の『夢』だったのだ。
大量破壊兵器を使って、敵野戦軍をボコボコにして。
それで何がしたいのかと言うと、土地を占領したいのである。火力のみでは敵を制圧・撃破することしかできない。
幾らサリンをバラ撒いても、そこに現出した地獄を誰かが銃剣で以て制圧しなければいけないのだ。
じゃあ、誰がそれをやるのか? 何を隠そう。歩兵である。
分隊長、
小隊長、小隊陸曹、通信手、
という訳で、上に列挙した歩兵部隊達が陸軍の骨幹部隊となる訳だが、これを士官・下士官数で並べるとこうなる。
こうして概観すると、幕僚機能を持ち始める連隊から必要となる士官数が増大するのが分かる。士官が脳、下士官が骨、兵が肉という言い方を良くするが、徒に兵を増やしても指揮する者が居なければソレは烏合の衆だ。
今問題となっているのが、この士官・下士官をどのように養成しようかという問題である。
兵は、予備役の動員で確保できるし、最悪の場合数週間の訓練で養成することができる。ドーベックの人口は、4コ作戦単位に必要なだけの豊かな人的資源を提供している。
しかし、士官や下士官は違う。彼らはプロで無ければならない。
そして1コ作戦単位を超える規模となると、これまでのように兵や技術者から選抜するという方式ではどうしても限界がある。
だが、幸いにしてリアムはコレのプロであった。
****
ドーベックは良いところだ。そう思う。
この街には自由がある。
父に連れられてドーベックに来たとき、まだ電気も水道も無かった。
それからダムが出来て、水道が整備されて、地面は耕されていった。増大する人口に対応して港は大きくなり、工場は濛々と煙を焚き上げている。
特に何も考えないまま、精錬工場で働いていた。
炉の傍で働いて、港の近くにある酒屋で飲んで、良い気分で帰る。
酒屋の看板娘と良い感じになって。精一杯キレイな格好をして、上司の時計を借りて。
噴水の周りの市場を巡って、貯金を叩いてネックレスを買って。
それまでの人生で一番ドキドキして、彼女と恋人同士になって。
翌日に酒場で恥ずかしそうに、嬉しそうにする彼女。冷やかしつつも祝福してくれた同僚。
幸せだった。暖かかった。
彼女が妊娠したと聞いたときの喜び。
全部、空襲で吹き飛んだ。
警察官の制止を振りほどいて、瓦礫の前に崩れ落ちる
その次の記憶は、遺体安置所での『一応ご確認を』という声だ。
「死因は挫滅です」
次もあるんだ。そんな風な感じで警棒に手を添えて立つ警察官が、こちらに一瞥もせずに発した、そういう声。
「所持品はトレーに纏めてあります。どうぞ、お受け取り下さい」
トレーからネックレスを手に取ると、脂と血とで滑っていて、白いトレーの上にチェーンが残したドス赤い跡があった。
「ご遺体はこのまま埋葬して構いませんね?」
これが人間なのか? これが人間の最期なのか?
二人。二人の人間がこんな風になってしまうのか?
悲しみと絶望、無力感の中、答えの出ない問いがグルグルと回る。
その晩に義父は自殺した。ただ一人の家族であった一人娘を俺に預けてくれた彼は、孫をたいそう楽しみにしていた。
ハーフリングの刑事が気を利かせて二人を並べて安置してくれた。
人間って臭いんだな。と何故か冷静に思ったのを覚えている。葬式も経ず、二人は翌朝に合同墓地へと埋葬された。
後に、彼女は赤ちゃんを守ろうとして、キッチンの奥まったところでクッションを抱えていたということが分かった。
だから、ネックレスはその原型を留めていたのだ。
その後、敵が攻めてくると聞いて、最初に湧いたのは怒りであった。
まだ、俺から奪うのか? これ以上?
募兵所に行ったが、経験も無く、予備役に登録されていない俺は門前払いを食らった。
なにか無いか、必死に報復のための手段を探して、勉強して。防警団に入った。
でも、足りない。夜中街を廻って、こそ泥を捕まえるのは確かに街のためになっているが、もっと直接的に報復したい。
戦勝に浮かれ、工場の操業が再開した後、上司から一枚の紙を渡された。
国防大学校 第一期学生募集
これだ。求めていたものは。
「ロテール・ヴァン・メアラ。国防大学校学生に任ずる」
その日、戦争犯罪者として歴史に名を残す悪魔が、そのキャリアの一歩目を踏み出した。
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