第25話 ライト・スピード・ウェポン
ロベルトと共に、街の隅っこにある、窓のない倉庫の中へ入る。
倉庫の中には、大量の新小銃と少数の機関銃、臼砲の他、架台に人の背丈程もある鏡を取り付けたものが整然と並んでいた。
初期の前装
しかし、この紙薬莢、安く製造が容易という利点の他、軍用としては欠点が無数ある。まず脆い、そして油紙を用いているとは言え、水、特に湿気に弱い。
その上、発砲後にまぁまぁな量の熱を小銃へと押し付ける。薬莢一発ならまだ良いが、3分でも全力で撃てばもうその小銃は
残念なことに、まだ我々にクロームメッキ技術は無い。
更に、薬室内で直接紙が燃える以上、そのカスが薬室から銃身にかけてベッチョリとへばり付いて色々と悪影響を及ぼす。ただでさえ火薬は燃焼した際に燃えカスが残るのに、その上薬莢そのものも燃えカスとして薬室から銃口までをベトベトに染め上げるのだ。気が狂う。
一方、金属薬莢銃では、金属によって強固に発射薬・雷管がシールされる上、発射薬は薬莢の中で燃焼し、かつ、カスの大部分は薬莢ないし弾薬の底部にへばり付く。つまり、撃発しても薬室はキレイなままのだ。
更に、薬莢に柔らかい金属、例えば真鍮や軟鉄を用いれば、撃発した瞬間に薬莢が
その上、撃発の副産物として生じた熱の大部分は薬莢に押し付けられるから、コレを適当な場所、例えばその辺の地面や雑嚢の中にポイッと捨ててやれば、後は勝手に外気に冷やされる。小火器用の弾薬に、薬莢を利用する利点は大変に多いのだ。
今回、我々の
小銃ならば、最悪、一人二丁ぐらい充当して交互に撃てば『倍』撃つことができる。しかし、機関銃を実用化したいとなると、どうしても金属薬莢を実用化しなければならなかったのだ。
「なんとか所望の時期に間に合いました」
「偉いぞ」
サンドロその他技術屋の濃いクマと臭いシャツは、数十年の技術的進歩の安い代償だ。
「しかし、良く機関銃の設計なんか起こせましたね。
「あー……アイデアはあったんだよ」
今回我々が用いる機関銃は、いわゆるチェーンガンというやつである。
普通機関銃というものは、反動だとかガス圧だとか、要するに発射薬の力を用いて連続的に弾丸をバリバリと発射するものであるが、今の我々には、弾薬に安定的な品質と高い信頼性を期待することができない。
であるならば、
ここで大体二つの選択肢が残る。ガトリング方式か、チェーンガン方式か。
ガトリング方式は、ご存知の通り、複数の銃身が円状に束ねられ、撃発・排莢・装填が連続的に行われるモノだ。
構造的には、円状に束ねられた銃身の周囲を前後斜めに取り囲むように固定された楕円状のレールと、作動機構に連結されたカムとが噛み合い、銃身の回転に伴ってカムがレール上を走って作動機構を前後させ、それぞれの『銃』が機能すると大体説明できる。
つまるところ、一つの機関銃をこしらえるためには薬室と銃身を沢山用意しなきゃいけない訳だ。機械的な利点としては、冷却や機械的摩耗が複数の機械的構造に分担されることにより、『一門』あたりの寿命が伸びたり、機械力を接続すれば発射速度をべらぼうに上げることが出来るというモノがあるが、重い、そして高い。
特に今回、機関銃には
ポリゴナルライフリングとは、銃身内部へ螺旋状に溝を掘るのでは無く、銃身内部の空間そのものを
通常のライフリングと比べて銃身と銃弾との間の摩擦が小さいことから熱を持ちにくい上に寿命が長く、その上清掃が容易だ。これは無煙火薬を実用化していない我々にとって、大変ありがたい特性である。
欠点は
となると、構造上銃身を複数本要するガトリング方式は不採用とせざるを得ない。
そこで、チェーンガン方式を採用することにした。連発銃が動作するためには、作動機構が前後しなければならないのは既に述べたが、それをチェーンでガチャコンガチャコンとやる訳だ。発射速度はガトリング方式よりも遅いし、冷却の問題もあるが、コレは現地で水をジャケットにブチ込むことで解決したことにした。どうせそこまで大量の弾薬を全丁に配当することは出来ない。(この理由で、リボルバーカノンは一瞬しか候補に上がらなかった。そもそもアレは陸上運用に向いていない)
今回、機関銃は『側防火器』として用いることにしている。
最悪の場合、コイツで『真っすぐ突っ込んでくる』敵を撃墜せんとバリバリ撃つことにしていたが、専ら鉄条網やら何やらの障害の前で一瞬停滞した敵を横から撃つことを予定している。何故横から撃つか? 簡単だ。ピアノの鍵盤を横から見たら一直線に見えるでしょう? つまり機関銃で一連射してやれば、
問題は、三次元的に機動する敵
レーダーと計算機、そして
まぁ、地球文明の場合は、対空技術の進歩と航空機、空対地攻撃技術の進歩は相互に影響し、かつ同じ技術的土台に乗っていたようなモノだったので、ようやく『当たる』対空砲が普及したときには超音速
しかし、我々には、現代的な地対空戦闘で必須となる
つまり肉眼で見える範囲内の対空脅威しか発見し得ないのだが、幸いにして一番厄介な『識別』をしなくて良い。きっと、空を飛ぶものは全部敵だからだ。旅客機や友軍機を誤射する心配はしなくて良い。
という訳で、空を飛ぶものには小銃を一斉にぶっ放したり、臼砲弾を空中炸裂させてビックリさせたりというのを期待することにしたのだが、一つだけ、一応はその有効性を期待しているものがあった。大量の鏡がソレだ。
「一応、準備は出来てますが……使いもんになりますかね?」
「何らかの影響を行使できるってのはめちゃくちゃ大事なんだよ」
突然だが、『アルキメデスの熱光線』をご存知だろうか?
アルキメデスの熱光線とは、彼の故郷、シュラクサイがローマの攻撃を受けた際にシュラクサイ側が用いたとされる対舟艇兵器だ。
原理は至ってシンプル。鏡で太陽光を敵の船へ収束させ、炎上させるというものだ。一応、原理的には可能であるとされているものの、非現実的であるとされていた。
しかし、それは飽くまでも「対舟艇兵器としては、火矢とかの効率的な兵器がある」というだけの話で、日光を鏡で集中させ、そのエネルギーを活用するというのは収束太陽光発電やソーラークッカーなど、『再生可能エネルギー』としてよく利用されていた。
これは、ワイバーンを『撃墜』することを目的としてない。
嫌がらせをし、以てその影響、効果を減損させることを目的とするものだ。
目的自体は、昔の対空砲と一緒だ。
問題は、これが如何に効果的かという点である。
一応、見込みはあった。ワイバーンも上に乗るエルフも、生き物だ。ヒュンヒュン小銃弾が飛んできて、かつ、地上からキラキラと照らされたら流石に『嫌』ではあるだろう。それでブチギレて攻撃侵入してきたら、機関銃やら小銃やらの有効射程に入る可能性が高まる。
人事は尽くした。天命には――期待するしか無い。
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