第53話 正義崩れる
僕らはなんとか家に戻ることができた、その時にはジジイはヘロヘロだ。
家には、リヤイがいた。その表情はは若干青ざめていた。
彼はジジイを見るなりすぐに駆け寄った。
「じいちゃん!じいちゃん!大丈夫なの!?」
「ああ...うん...何とかな」
薬のおかげで一命はとりとめたが、身体へのダメージは結構ひどいものだった。
リヤイはすぐに手当てを施した。
「リヤイ....」
「なに?じいちゃん」
落ち着いた頃、ジジイがリヤイに口を開いた。
「あの手紙....見てくれたか?」
「う...うん」
ジジイの手紙....それはヤロリとジジイ一家の関係について書かれたものだ。
リヤイの父親はヤロリによって殺された。それがこの手紙で書かれていた重要な事実だ。当然、リヤイはショックを受けているようだった。
「お前はこれから....どうしたい?」
「あの人を...止めたいです」
殺すではなく”止める”、トンとは違って敵側にも事情がある以上、リヤイは殺すなんて言えなかったようだ。
「....そうか...ワシはもうこの通り奴にボコられたから直接は手伝えん。だからこれを...」
ジジイは一冊の本を、リヤイに手渡した。
「これは....」
中には、数々の技が図と共に詳細に記されている。
「お前に一番あった技が記された.....ワシが考えた七輪拳という拳法の本じゃ」
ジジイは何故かベットから立ち上がり、キセルを持った。
「ビリーさんどこ行くんですか?安静にしてないと.....」
思わず僕は声をかける。
「ワシはしばらく身を隠す。強くなれ、リヤイ。そして....すまなかった」
そう言って、窓から飛び出していってしまった。いくら薬の効果が効いているとはいえ大胆すぎる。
リヤイはジジイを見送った後、本を読み込み、荷物をまとめた。
「何処へ行くんですか?」
「山奥、そこで....この本の技を身に刷り込ませるんだ」
そう言って勢い良く家から飛び出していった。僕も後を追った。
山奥に着くと、まず3日かけて自宅にあった大小様々な大きさの輪っかが付いたつり革を吊り下げた建物を作り、そこで特訓を開始した。
特訓の内容は家でやっていた物とほぼ同じ内容だった。
そして二週間後、リヤイは森から木と藁を運び出し、僕にお使いで縄を持ってこさせた。
彼はそれらを使って何かを組み立て始めた。
「何作ってるんですかこれ?」
「カマキリです」
「カマキリ?」
聞くところによれば、ヤロリの蟷螂拳に対抗するにはカマキリと取っ組み合えばいいとのことだった。
僕は格闘家じゃないからよくわからなかったけど、彼が言うならこれが最善策なのだろう。
作ったカマキリの足や鎌は紐で括り付け、操作できよるようにした。
僕は実際のカマキリの動きを想像して操作し、リヤイと組み手を行った、最初のころは鎌がリヤイのどっかに当たって実践なら死んでたみたいな感じになってたが、次第に対応できるようになっていき、鎌、足を一瞬で破壊し戦闘不能にできるように成長した。
そして、2か月後、僕は街中にいた。一通の手紙を手に持って。
とある人を探していて、ある飲食店に入ると、その人が座っていた。
僕はその人の正面の席に座った。
「久しぶりですね」
「貴様...何しに来た」
その人とは、白い服の老人、ヤロリだ。
「大体わかってるでしょう、ヤロリさん」
「わしを殺しにでもきたか....それともビリーの居場所をいいにでも?」
「いいや、僕はこれを私にきたのさ」
僕は彼の前に一通の手紙を出した。ヤロリはすぐさま読むと、目の色を変えた。
「案内しろ」
「喜んで」
僕らはすぐさま店から出て、その場所へ向かった。
その場所とは、リヤイの修行場だ。
ヤロリは一通り修行場を見回すと。リヤイを呼んだ。
「リヤイ、いるのだろう?出てこい」
「ああ、もちろん」
リヤイが木の陰からスッと出てきた。
「リヤイ....もう全てビリーから聞いてしまったのか?」
「ええ、全てです、あなたの事情も、僕の父がどういう末路を辿ったのかも」
「そうか......」
ヤロリは俯いて、少し何かを考えているようだった。
「あなたは殺す気でいるのでしょう、僕も、じいちゃんも」
「.....リヤイ、ビリーの居場所を教えてくれ、そうすれば、君は見逃す」
「お断りします!」
リヤイは強い口調でいった。
「僕はこれ以上、家族が殺されるのを黙って見ていられません、だからここで、あなたを止めます!」
「わかった...」
ヤロリがゆっくりと歩み寄ってきた。リヤイもスッと構えを取る。
二人の距離がある程度縮まった時、火蓋は切って落とされた。
素早い拳の打ち合い、この戦いのは僕は介入できない、そう思はせるほど激しいものだった。
リヤイは背負い投げを決め、ヤロリを地面に転がすことができたが、さすがのヤロリ、寝たままでも強い。
逆に蹴りをくらってしまった。
その後も組合が続くが、やはりと言うべきか、ヤロリの方が一歩上手であり、徐々に攻撃が当たるようになっていった。
ヤバい....このままではジジイのように一方的な感じになってしまう。
僕はそう心配した。
が、リヤイは慌てず、つり革の建物内に移動すると、両手でつり革をつかみ、そこで回転して攻撃をよけた。
そしてそのままつり革を巧みに使って戦いを有利に行い、跳び蹴りを食らわせることができた。
ジジイが言ってた七輪拳とは、こういう技のことを言っていたのかもしれない。
そのまま上手く攻撃をかわしていきパンチを当て、つり革にぶら下がった勢いでそのまま両足で蹴りを当てた。
するとヤロリが本気になったのか、蟷螂拳の構えをとった。ここからが本当の闘いである。
蟷螂拳の威力は高く、一撃くらった後のリヤイは苦しそうにしていた。
まただんだん動きを読んできたのかぶら下がったリヤイを叩き落す。しかも二度。
そして叩き落した後は二度とぶら下がれないようにするためか、つり革の紐を切り始めた、リヤイが立ち上がって妨害しようとするも、いなされ、結局全て切り離されてしまった。
だが、リヤイは決してあきらめようとはせずに、構えを取った。
その構えは...蟷螂拳のものだった。
「それは...蟷螂拳の構えか」
「ええ、あなたに少し教わったものを自分流にアレンジしたものです」
「そんなまがい物では勝てぬわ!」
再び打ち合いが始まった、お互いに引けを取らない打ち合いが続いたが、先にあてたのはリヤイだった。
しかもそのすぐあとに蟷螂拳で一発当て、ヤロリを地面に転がした。
その後も、リヤイが優勢だった、不思議である。
ついに、リヤイの蟷螂拳でヤロリの腹から出血が起こった。
ヤロリはハッとした表情を見せた、彼も驚きが隠せないようだ。
だが、彼はあきらめなかった、顔と腹に拳を当て、根気を見せる。
そして追撃を食らわせようとしたが、よけられて足を引っ張って倒され、そこから立ち上がろうとして一撃をくらい、そのすぐあとに両足で蹴られた。
出血は二、三ヶ所増えた。もはや立ち上がるのも一苦労の状態だ。
だがリヤイは追撃の手を緩めない。そしてついに、リヤイは喉に指をかけた、もうトドメがさせる状態にきたのである。
だが、リヤイはすぐに刺すことはしなかった。
「これで終わりです...先生」
「......強いな、リヤイ...お前の勝ちだ....トドメを刺せ、格闘家たるもの、相手に成長させる機会を与えない為に、殺せっ....!」
「........」
だがリヤイは、トドメを刺さない。
「どうした!ワシは、父親の仇だぞ!悪人だぞ!刺せ!」
リヤイはゆっくりと、ヤロリの喉から指を話した。
「僕は...僕はあなたとは違う....復讐鬼でもないし、悪人は殺さない!だから....もう止めるんだ。あなたにだって正義の心はある。改心してください」
そう言って、リヤイはそこから去ろうと、背中をヤロリに向けた。
その時だった。
ヤロリが最後の力を振り絞って、リヤイの背中を蹴った。僕はすっかり油断していたからこの攻撃にびっくりした。
追撃を加えようとしたのかよくわからないが、バランスを崩したリヤイにつかみかかったヤロリ。
だが逆に気が動転したリヤイから首元に一撃を入れられた。
トドメが、入ってしまったのだ。
「今更...気が変えられるか馬鹿者が...一度道を間違えたものは.....」
ヤロリはここで息絶えた。
「先生!どうして...先生!!!」
リヤイは怒鳴るように死体に訴えた、だがもう答えない。
リヤイは途方に暮れたような表情で、鳥がさえずる森の中、力なく座っていた.....。
運に左右される魔法でも無双したいんだが A00913 @kamikaze555
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。運に左右される魔法でも無双したいんだがの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます