第52話 憎しみ
ヤロリと再び別れた後、僕らは相談して一旦家に戻ることにした。
ヤロリの下で力を手にしたリヤイ、これからどう力を使うのかを爺さんとしっかり話していきたい。彼はそう言っていた。
家のぼろい扉を開け、中へ入ると、そこにはちゃんとジジイがいた。僕らを見るや否や吸っていたキセルを置き、若干ムッとした表情で近づいてきた。
「久しぶり....じっちゃん」
悪いことをした自覚があるのか、控えめなあいさつをするリヤイ。ジジイは無言でげんこつを食らわせた。何故か僕にも。
「全く...どこいっとんたんじゃ....てっきり修行が嫌で逃げ出したのかと思ったぞぉ」
腕を組みながらため息を吐くように言った。
「実は外でバリバリ修行をした来たんだよ、きっと前よりも強くなってるね!」
リヤイは椅子に座りながら言った。
「では見せてもらおうか、その成果をな」
得意げな顔をして言うジジイ、リヤイはすぐに立って構えを取り、ヤロリに教わった型をやり始めた、以前よりも綺麗でしなやかな動き、僕はそれを見て関心していたが、ジジイの方は目を見開いて驚いていた。
「い....いったん止めてそこへ座れ....」
ジジイの様子は、明らかにおかしいものだった。
「どうしたの?」
戸惑いながらも、リヤイは椅子に座った。
「お前...自分で考えたり...こいつに教わったわけじゃないよな、誰か別の人に、教えてもらったんだろう?」
ジジイは明らかに慌てた口調で言っていた。
「ああ、うん、そうだよ....僕実はヤロリっていう人に色々教わったんだ」
それからリヤイはこれまでの体験を色々ジジイに語った、ジジイは前のめりになって真剣に聞き、だんだんと顔が青ざめて言った。
「そうか....あの男...変わっていないな」
全ての話を聞き終わった後、ジジイはそうまとめるように言った。
「じいちゃん、あの人のこと知ってるの?」
「ああ...いやというほどな..ああ...あの話、ここでお前に打ち明けることなるとは」
「え?」
するとジジイは懐から手紙のような物を取り出した。
「直接話すのはいやじゃからな、その手紙を開けてみておくれ」
「な...なんで....」
「いいから、ワシはちょっと外に出る」
そう言って、外へ出て行ってしまった。
リヤイは手紙をじっと見ていた。僕はジジイのことが気にかかったので、後を追う事にした。
家から出てすぐそこに、ジジイが歩いていた、行く先は人気のないところだった。
僕はなんとか追いつき、訳を聞くことにした。
「ビリーさん!」
「うわ.....貧乏神がきたか....」
「うっさい!!...じゃなくて、さっきの手紙はどういうこと何ですか?あなたとヤロリに一体何が....」
ジジイは無言で俯いていたが、静かに語り始めた。
「昔、わしとヤロリは同じ町に住む冒険者で、チームは別だったんじゃが、同じ格闘家同士親交が深かったんじゃ.....」
ヤロリとの関係を語るジジイ、まとめるとこうだ。
友達となった二人は長い付き合いとなり、互いに家族を持った後でも親交があった。だがある時ジジイの二人目の息子がヤロリの息子の家で盗みを働いた。ヤロリはそれをひっとらえはしたが、ビリーの息子だったこともあってか、役所にはもっていかず許すことにした。
だがその三ヶ月後、その息子はまたもや盗みを働き、ヤロリの家族も殺してしまった。この出来事から狂ったヤロリは、悪人本人を殺すだけではなく、その家族まで殺すようになってしまったとのことだった。
「奴は狂った正義を振りかざすようになってしまった、ワシのせいだ、リヤイの父親も奴に殺された、これがさっき話さなかった事実だ。とても、あの子に話せんわい....」
僕はジジイに同情した、人を狂わせた罪人というのは僕も同じなのだから、話せないという気持ちも、よく分かった。
「まったくだな」
突然、最近よく聞いていた声が聞こえた、声の主はヤロリだ。
「久しぶりだな」
何故ここにいるのだろうか。
「ああ、お前のことだからリヤイをつけていたんだな」
「もちろんだ、あいつの型がお前に似ていたんでな、つけて見たらやっぱりだ」
どうやらリヤイの型がジジイに似ていたことに気づいてつけていたらしい。あの時、別れたのに飲食店であったのはそういうことだ。
「さあ、決着をつけようか」
「ここで死んでたまるか、生き残るのはワシじゃ」
互いに構えを取る、ヤロリは蟷螂、ジジイはその辺にあった木の棒で立ち会う、ヤロリが仕掛けた、ジジイはその連撃をかわしたり、いなしたりしている。
だが棒を両手で捕まえられ、背負い投げの容量で投げられるが、綺麗に着地、だがその瞬間背中に隙ができ、そこを蹴られた。更に立ち上がりの瞬間にもけられ、棒はこれでどっか飛んで行った。
更に立ち上がった後も動きが若干悪く、回し蹴りがヒット、完全に不利な状況だ。
「ええい、こうなりゃ格闘家のプライドなんざくそくらえだ、こいサカグチ!」
ジジイは僕に援護を依頼した、空気を読んで黙って突っ立っていたがこうなりゃ参戦せざるを得ない、ヤロリは僕たちから見て狂っている。
僕はすぐに唱えた。
「ボッカス・ポーカス!!」
なんだかひさびさに感じるこの魔法、出てきたのは、真っ赤な液体が入った瓶.....これは、デス・メディスン、飲んだら、いや触れるだけでもかなりやばい薬だ。
僕はすぐさまヤロリに向けてそれを投げてみた。が、キャッチされ、投げ返された、瓶は僕にあたり、中の液体もかかった。
皮膚に触れただけでめちゃめちゃチクチクするし、目にも入ったせいで一瞬失明した、とにかく地獄だった。
「愚かな....」
ふたたびジジイ対ヤロリ、視界がぼやけていたのでよく見えていなかったが見た感じ一方的だ。ジジイがボコられまくりでヤバい。
なんとか棒を拾って打ち合うがへし折られた。
僕は薬のせいでフラフラだったが、ふたたび唱えた。
「ボッカス・ポーカス!」
出てきた物はまたもや液体が入った瓶、だが今度の物はきれいな水色でいかにもいい効果がありそうなものだった。
これは...行ける。
「ビリーさん!これ!」
僕はジジイ目掛けて瓶を投げた、一旦距離を取っていたジジイはとんちんかんな方に行った瓶をなんとかキャッチし、ヤロリの攻撃をかわしつつなんとか飲んだ。
飲み終えた瞬間、目が突然光出す。
「おお!こいつはいいぞ!」
若干ヨレヨレだったジジイの動きはキレを取り戻し、優勢に立ち回れるようになっていた。
いける...僕はそう思っていた。だが、ヤロリはそれさえも上回っていた。
腕を取り、蹴りを何発も浴びせるヤロリ、絶望した。
「あっ、駄目だこれ逃げるぞ」
なんとか逃れたジジイは僕を抱えて逃走を始めた。
あの薬は体を鎧のように固くし、力が倍増する最高の薬だったはず。
それを飲んだ人間を圧倒するとは......。
「クソ....奴はどうやらワシの遥か上を行っとるようじゃ...お前の薬がなかったらぽっくりだったわい」
「でも....どうするんですかこれから、ビリーさんじゃもう無理ですよね」
「ああ...だから、リヤイに希望を託す!!奴の憎しみを...若さで打ち破ってくれるはずじゃ!」
僕は驚くと同時に不安に思った。あの強さだ、無事で済むはずがない、ジジイの顔を見たら、僕と同じようなことを若干思ってそうだった。
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