EP2:俺の彼女が吸血鬼なのに俺の趣味に興味深々すぎる

 俺、南雲昼真は典型的なオタク趣味である。本屋に行けば漫画とラノベのコーナーにいりびたるし、休日の大半はソシャゲの周回に費やしてると思う。暇を持て余せばずっと動画あさってるし。深夜アニメのチェックで気付けば朝、なんてこともザラだ。


 一方で俺の彼女、白河夜空はキラキラのJKである。いわゆる陽キャというやつだ。

 俺みたいな俗にいう『陰の者』にとって、この陽キャという人種はいっそ天敵といってもいい類のサムシングである。教室で本読んでたりすると急に近づいてきて「オタクく~んなに読んでんの?」とか聞いて来る。そんでそいつに真面目に答えるとげらげら笑うわけだ。ふざけていやがるぜ。


 だいたいなんなんだあいつらは。全体的に距離が近すぎるし詰めるのが早すぎる。パーソナルスペースをなんだと思ってるんだっつーの。

 そのくせこっちから踏み込んでいくと拒絶する、よっぽど陰キャおれらよりもコミュニティの輪が狭いのだ。

 思い出したらなんか腹立ってきたな。等価交換の法則ってのを知らないのか奴らは。いや多分関係ないけど。


 そういう意味で夜空は、どっちかっつーと特異な陽キャなのかもしれない。サブカル女子、とでもいうのだろうか。陽の者が好みそうなジャンルのものから、俺たちが好きそうなものまで幅広く好んで摂取するんだよな……わりとコアな作品知ってたりするから、ときたまオタクトークに花が咲いてしまう。

 というか実は俺たちが絡むようになったきっかけもその辺だったりする。いやぁまさか十年前のマイナー名作アニメの話ができるやつがクラスに、それも女の子でいるとは思わんだろ。しかもその子が今や彼女と来た。人生何があるかわかったもんじゃねぇな。人間かと思ってたら吸血鬼だったし。


 言葉に毒っ気がないのもプラスに働いてるのかもな。夜空になら「南雲くん、なに読んでるの?」て聞かれても素直に答えられそうだし。

 あとシンプルにかわいい。クラスの陽キャ共の度を越したケバさみたいなのが夜空にはないからな。


 もともとある程度コアな作品までたしなむ子だから、オタク適性自体はあったんだと思う。求められるままに色々と漫画やらなんやらを貸していたら、積極的に自分から買いにいくようになって、知らんうちにジャンルによっては俺より詳しくなっていた。適性高すぎない?


「今週の週刊少年ステップの読み切り読んだ? わたしぼろっぼろ泣いちゃって……一か月分の涙使い切ったかもしれない」

「めちゃめちゃ泣くじゃん。お前そんな涙腺弱かったっけ」

「感動もの系の展開ほんとダメなの。三秒で泣いちゃう」

「はっっっっや」


 そんな夜空だが、今日も今日とて俺の部屋でごろごろしている。今日は黒タイツじゃなくて水色と白のストライプ柄靴下だ。ぱたぱた足を振る挙動だけでもうかわいい。なんだこいつ。ほんとにこの世の生き物か?


 でもベッドに寝っ転がるのは止めてほしいんだよな。香水の匂いと女の子特有の甘い香りが残ってるせいで、色々と想像しちまってダメだ。

 色々ってなんだって? そりゃお前、思春期の男女が布団の上ですることといったらひとつ――いやなんでもない。


「あー、思い出したらまた涙出てきちゃった」

「そんなに?」

「そんなに。もうマジで最高だから読んで」

「買ってねぇんだよなステップ。読み切りだと単行本も出ないしなぁ」


 まつ毛の長い瞳のふちに、うっすら涙が溜まってる。

 吸血鬼、感情表現豊かだなぁ。こいつと付き合いだす前は冷徹な怪物、って印象が強かったけど、全然そんなことなかったわ。

 

 世間一般のイメージが変わったわけじゃないし、社会混乱を防ぐためにも、俺たちは夜空の正体を隠し続けなくちゃいけない。

 でもそれは、夜空が楽しく毎日を送っちゃいけない、なんて意味じゃないわけだな。むしろ存分に楽しく生活してほしいまである。人ん家の屋根飛び移りながらうちに来るのは止めてほしいけどな!!


「南雲くんは絶対好きだよあれ。ファンタジー気味でちょっとしんみりした学園ラブコメなの」

「なるほどなぁ、『ラクリモーサ』みたいな感じか」

「なにそれ」

「十年ちょい前のギャルゲ。R-15。対応ハードはプレイPスタジオSツー

「うーん、相変わらずその辺はわかんないかなぁ」


 困ったように頬をかく夜空。是非もないね。いかに夜空がサブカルチャーに興味津々とはいえ、男性向けの、それもたいしてメジャーじゃないゲームにまで造詣が深かったらびっくりだ。

 俺も夜空が好きなような漫画全部に詳しいわけじゃないし……ラーメンマニアが地方の隠れ家的名店について意外と知らないのと似たような感じ。


 今年の頭に買ったばかりのデスクトップPCの画面を動かして、公式サイトを立ち上げる。うぅん、インターネット老人会が開けそうな感じの懐かしいレイアウト。

 魔法学園を舞台に繰り広げられる、心温まるファンタジー恋愛シミュレーション。ジャンルがジャンルだけに知ってる人は限られるけど、プレイしたひとからの評価は軒並み高い。


 全然関係ないけど夜空がファンタジーっていうとすげぇ違和感あるな。こいつの存在そのものがファンタジーみたいなもんなのに。


「たしか去年の末だったかな。アニメ化したんだよ。あんまり話題にはならなかったけど」

「あれ、そうなんだ。ちょっと興味出てきたかも」

「ファンサービス的な意味も強いアニメ化だったし、クオリティは保証できる」


 リリース十周年記念とかそんな感じだったような気がする。深夜の変な時間帯にやってた上に、そもそもの作品の知名度が低いから、SNSのトレンドには入ってなかったけど……俺としては絶賛したい出来栄えだった。

 

 いやぁ……スタッフさんたちの『感謝』と『執念』って、画面ごしに伝わるもんなんだな。ほんの僅かな映り込みに至るまで描かれた丁寧な作画。原作のそれを現代風にアレンジしたBGMの数々。そしてリアルタイム勢からすれば懐かしいシナリオに、新規参入向けのオリジナル展開を加えた物語。

 どれを切り取っても『最高』の二文字に尽きる。語彙力がない? だまらっしゃい。


「触りやすいジャンルにまで進出してると、布教がしやすいよね」

「俺としては原作にも触れて欲しい主義だから複雑だけど……」

「あー、分からなくもないかも。漫画読んでから『こっちから入ればよかった~』って思うこと結構あるし」


 夜空はアニメ派だからなぁ。

 実際、彼女くらいのライトオタク陽キャ――正直彼女は既に『ライト』ではない気がするが――で原作漫画・小説・ゲームから入ってきた! っていうひとはほんの一握りなんじゃねぇかなって思う。


 なんであれ楽しみ方は人それぞれだ。オタク趣味とはそういうもので、そしていつ別の路線にシフトしてもいいものである。


「ね、良かったら鑑賞会しない? キミ、その手の配信サービスの会員だったよね」

「えぇ? いいけど……こないだアニメはひとりで静かに見たいって言ってなかったっけ」


 吸血鬼が暗い部屋でひとりアニメ見てる光景想像して真顔になった記憶がある。だってほら……シュールじゃん………? 三角チーズの上に玉ねぎを乗せたオブジェくらいの謎さがあると思う。かわいさが段違いだけど。目の前のキラキラJKの方が十二倍はかわいいね。賭けてもいい。

 

 そんな俺の疑問に、夜空は苦笑気味に答える。


「そうなんだけど……今回のは面白い、ってキミが言うし、折角だから、すぐに感想共有できるひとが欲しいの。途中でグダってきても隣に誰かいれば最後まで見れるし」

「それはあるわな」


 このご時世、感想の共有自体はネットで簡単にできちゃうけど、やっぱり生の声ってのは趣が違うもんな。顔つき合わせて『エモい』を吐き出し合う……オタク趣味の醍醐味だと思う。


「じゃあ見るかぁ。今日はいくらなんでも遅いから、今週の土曜でどうだ」

「わたしは一晩中キミの家にいても構わないけど?」

「君が構わなくても俺が構うの。人間は夜行性じゃねぇんだよ普通」

「それは仕方ないね。おっけ~、じゃぁ土曜日の予定、開けておくね」


 キミも開けておいてね、と念押ししてくる夜空。俺、一週間で一番大事な予定を忘れる男だと思われてるのん……?



 ***



 というわけで鑑賞会当日。大手通信会社Docodemoドコデモが運営してるアニメ配信アプリを立ちあげながら、夜空が訪ねてくるのを待つ。

 時刻は朝の九時半。おうちデートとしゃれ込むにはちょっと早い時間な気がする。いやまぁ世間一般のカップルがどうしてるのか良く知らないけど。

 吸血鬼である夜空にとっては尚更『早い時間』だ。しかも休日。平時ならこの時間帯までに電話するとめちゃめちゃ眠そうな夜空と会話ができる。もうなんか意識の覚醒もおぼつかない感じで、ノリと反射で喋ってますーみたいな受け答え。あれはあれでかわいいんだけど、たまに「うん……うん……。南雲くん、好き……」とか言ってくるから不意打ちで殺される。あいつ前世はアサシンかなにかだったんじゃねーかな。


 そんなこんなで、この時間は二人にとって適正だ、って話だ。むしろもうちょっと遅くてもよかったまである。

 でもなんかやたら気合入ってたんだよな……「絶対早起きする!」とか言って握りこぶしまでつくってたし。ちょっとマスコットキャラみたいで可愛かったな……ミニキャラとかにしたらそのままストラップにできそうだ。

 LIZEライズに「いま家出た!」って来たの五分前だし。


 まぁもうちょっとは時間かかるだろ。今のうちにコーラの用意でもしといてやるか……なんかそんなこと言ってると今にも突入してきそうだな。


「おっはよ~!!」

「ちくしょう案の定だった――ッ!!」


 だから何の脈絡もなくダイナミックお邪魔しますするのやめろっつってんだろ!! 俺がまだベッドの上にいたらどうするつもりなんだ! 吸血鬼よぞらはまだしも人間おれは正面衝突したら死ぬっての。


「窓から! 入ってくるなと! あれほど!」

「いいじゃんちょっとくらい」

「最終的に困るのは君なんだっつーの。何回話せばわかるんだほんと」


 彼女が窓から彼氏の部屋に入ってくる。お隣さん系のラブコメでよく見るシチュエーションだ。なんか距離が近い感じがして俺も好きだ。


 けど夜空のやってることは、そんな可愛らしいもんじゃない。

 諸事情から高校進学をきっかけにひとり暮らしをしている俺だが、幸いなことにかなりいいアパート(というより最早マンションに片足突っ込んでるかもしれない)に住まわせてもらっている。七階建てで、俺の部屋があるのは五階。つまり常人のとり得る方法じゃ、「窓から入ってくる」ことは不可能なんだ。

 

 近くの建物から飛び移ってくる。

 もしくは、裏庭から壁を駆け上がってくる。

 どちらにせよ、普通の人に目撃されたら誤魔化しようがない。


「とかなんとか言って、いつも窓の鍵開けててくれるのはどこの誰でしょーうかっ」

「……」

「んふふ、そのひと、きっとめちゃくちゃ優しいんだろうな~」


 くそ……やっぱりバレてたのか……。さも鍵をかけ忘れてるだけかのように見せかける作戦は大失敗である。照れ隠しはするもんじゃねーな。余計に恥ずかしくなるわ。


 一方の夜空はいつにも増して上機嫌だ。黒銀色のロングヘアに手櫛を入れて、スマホのカメラを鏡代わりにしきりに髪型をチェックしている。鼻歌まで聞こえてきた。音程が完璧なんだよな……夜空と最初にカラオケにいったときの衝撃のエピソードはいつか話したいと思う。


「随分楽しそうだな」

「あ、わかっちゃう? 一週間楽しみにしてたんだー。今日が生きがい! って感じで」

「そんなに気になってたのか」


 いちファンとしてうれしいな、それは。神作に触れる人間は多ければ多いほどいい。いや夜空は吸血鬼だけど。そういう意味じゃなくて。


 というか夜空、その意味ありげなまなざしはなんだ。ちょっと呆れが混じってるあたりから自らのプレミを悟る流れ、なんとかしたいなって思ったまま二か月くらい経った気がする。いまだになんとかなってない。


「それもあるけど……誰かと一日中一緒に、こうやってアニメを見て楽しめる、っていうのが嬉しくて。しかもそれが好きなひとキミなんだよ? 楽しみにならないわけないじゃん」

「……お、おう」


 ……ひ、ひとりの男として嬉しいな、それは。うん。

 言えねぇな。こっちの方が嬉しかったなんて言えねぇな。言ったらしばらくいじられる。間違いない。そしてこれが存外に恥ずかしいんだまた。


「また赤くなってる。わかりやすいなぁほんと」

「うるせっ」

 

 三秒でバレるのなんとかなんねぇかな……。


「よーし、コーラとお菓子の準備はOK! 見よ見よ!」

「近い近い近い。タブレットで見る以上ある程度は仕方ないと思うけど」

「んふふ、腕とか組みながらにする? 映画館のカップルシートみたいな感じで」

「緊張感で俺のこと殺すつもりなのお前」

「しーっ、静かに。始まるよ」

「散々こと暴れといてそれは自由過ぎない?」


 猫か何かか君は。いや吸血鬼なんですけども。

 そういや、なんで吸血鬼と関連付けられる動物ってコウモリのイメージが強いんだろうな。一番メジャーなやつが悪魔の子ドラキュラなんて呼ばれてたからか? 専門家じゃないから全然わからん。


 というか元々はドラキュラって単語も「ドラクルの子」とかそんな意味なんだっけ。それが敵国の文化やらプロパガンダやらで貶められて、『ドラキュラ』が書かれるころにはすっかり変わってしまった、と。

 イメージ戦略にしてもやり過ぎな感は否めないけどなぁ……流石に悪魔とまで言わなくてもよかった気がする。


「……」

「――」


 ……たしかに、悪魔的可愛さではあるけどさ。

 PCの画面を見つめる夜空の横顔は、なんというか、こう……「目が離せなくなる」感じの、ふしぎな魅力がある。

 吸血鬼には魅了の力がある、なんて設定はお約束だけど、実は夜空にもあったりするんだろうか?


 その夜空だが、最初の方は「女の子可愛くない? こんな子が片想いしてるのに気付かない主人公くんどういう感性してるの?」「えぇ~、今のは乙女心が分かってないよ~」とか言ってたんだが後半になるにつれすすり泣く声が聴こえだし、最終回となる十二話のエンドロールを終えるころには声を上げて泣いていた。エモい感じのシーンが来たときにマジで三秒で泣いてびっくりした。早すぎない?


「よかっ……よ゛か゛っ゛た゛」

「想像の五十倍くらい泣いてる……」


 もうぼろっぼろだった。拭っても拭ってもあとから真珠みたいな涙が湧いて来る。この表現ぜったいこんなギャグみたいな場面で使うためのものじゃないよな……。もうちょっとこう、それこそ感動するシーンで使うべきな気がする。


 しかしアニメ版『ラクリモーサ』すげぇな……吸血鬼にもぶっ刺さるんだな……。エモは年代どころか種族も越えるってことか。

 夜空はすんすん鼻をすすると、ふと何かに気が付いたように、あわてて顔を隠す。


「やば……メイク崩れちゃう……」

「外じゃないし多少はいいんじゃないの」

「ばか。キミにかっこ悪い顔みせたくないの」


 急にぶっこんで来るの多分一生慣れない。心臓がいくらあっても足りねぇや。


 ティッシュボックスを貸してやると、夜空は一気に五枚くらい取り出してちーん、と鼻をかむ。それでようやく落ち着いたか。ガーネット色の瞳をひときわ真っ赤にして、ふあー、と気の抜けるような吐息をひとつ。


「すごい作品だね、これ。ひとの感動ポイント的確に押さえてるというか、我慢してても泣いちゃう」

「所謂『泣きゲー』の類だからな、原作。人生って呼ばれるタイプのゲーム」

「マジで人生だった。なんかもう一生終えた気分」

「想像もできないくらいの時間が気分の中で消費されてる……」


 人間の三倍長いって言ってたじゃんお前の一生。

 というか吸血鬼の平均寿命ってどのくらいなんだ……? 少なくとも人間より長いのは確かだろう。前に聞いた話じゃガチの不老不死な個体もいるらしいし。


「メインヒロインルートのアニメ化だから、必然的に『幼馴染みとの恋愛』になるのがまた人生レベル高めるよなぁ」

「それね。ほんとそれ。いっしょに生まれて、いっしょの長さの毎日を生きて、いっしょに死ぬって……こんなに素敵なことだったんだなって」


 夜空のぬくもりが少しだけ近づく。吸血鬼の体温って低いもんだと勝手に思ってたけど、彼女の体は湯たんぽみたいに暖かい。春先の室温じゃあついくらいだ。

 その熱のせいなのか。それとももっと別のあつさのせいだろうか。

 至近距離から俺を見上げる彼女の瞳は、ついさっきまでの涙とは無関係に潤んでいて。


「南雲くんは、わたしと同じくらいの長さの人生、いっしょに過ごしてくれる?」

「……夜空」


 ――吸血鬼には。

 これ、と見染めた相手のことを、自分と同じ吸血鬼にしてしまう、そんな力があるらしい。そんでその相手は、長い生涯の中でひとりしか選べないんだそうだ。いうなれば『血の伴侶』だな。

 

 ヒトよりも長い命を持つ彼女が、「同じくらい長い人生を生きてほしい」っていうことは、つまりそういうことで。


 さ、ささささすがにその辺の話題はまだ早いかな! だって俺たちまだ十七歳……!


「ま、まぁその辺はおいおい……」

「あれ、即決してくれないんだ。悲しいなー、いつかお別れするつもりがあるってこと?」

「ねぇよ」

「こ、こっちは即答……」


 おお……夜空が動揺するとは珍しい。貴重過ぎて十二枚くらい写真撮りたい。スマホの壁紙にして月一で切り替えるわ。シンプルに気持ち悪いな俺、って言ってから思った。


「どんな一生を送るか決めるのはお前だよ。俺としてはお前に、まだその選択肢を持っててほしい。それで俺を選び続けてくれるなら、それに越したことはないし……うん、最終的には、選択肢俺オンリー、みたいなことになったら嬉しいけど」

「……主人公の告白シーンの真似?」

「バレてる……」

「いまやわたしもファンですから」


 ネタの共有ができてると、名言だけで会話できるっていう楽しさの反面、意図まで簡単に読まれちゃって恥ずかしいな……。いやもともと夜空はコミュ力オバケの副次効果なのかこっちの意図汲むの異常に上手いけど。マジで隠し事が意味を成さない。初めてこの部屋に呼んだとき、三秒でアレな本の場所看破されたときには「吸血鬼ってスゲー!」と素直に思ったものだ。あんまり種族関係なかったけど。


「そっかー。キミはそういうつもりでいてくれてるのか。そっか~」

「聞かなかったことにしてくれ。急に恥ずかしくなってきた」

「んふふ、やーだよ~」

「うおあああああああ」


 頭を抱える。この世の全てから目を逸らす勢いで、地面に向かって大咆哮。『王様の耳はロバの耳』にこんなシーンあったようななかったような。多分なかった。


「ね、他にオススメないの? まだまだ泣き足りないんだけど」

「今から!? 正直な話、同じレーベル原作のやつは全部オススメなくらいなんだが……この調子で見てたら朝になるぞ」

「明日は日曜日だよ? ちょっとくらいの夜更かしは基本だよ。それに言ったじゃん、わたしは一日中キミの家にいても構わないって」

「だから俺が構うんだってば!」


 数時間家に夜空がいただけで変な気分になってくるのに、一日中いられてみろ! くそ、このキラキラJK対人関係に警戒心ってもんを持ってなさすぎる。俺だって男なんだぞ一応。


 ……まぁ、無邪気に俺と同じ趣味、同じ時間を共有してくれてる彼女に、そんな邪な想いをぶつけるのもどうかと思うけどな。


「よーし、見るぞー!」


 おー! と腕を振り上げ、勝手にマウスをホイールする夜空。こいつ今日一日で一年分くらい泣くんじゃねぇかな……なんて思いながら、俺もまた、次のオススメ作品のタイトルを告げるのだった。

 ちなみに結局、夜空はティッシュボックス一箱使い切る分泣いた。そんなバカな……。

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