第7話 新型03号機、戦場に立つ?

 太陽光発電を兵器の動力源とする場合、最大のネックとなるのは何枚もの受光用パネルを展開しなければならない事だろう。

 ケーニヒグレーツにおいて人型兵器が開発されてこなかったのは主にそのためである。たとえその全身にパネルを貼りつけたとしても、およそ半分のパネルは日陰になり、全てに太陽光を浴びることはできないからだ。


 そのため、ケーニヒグレーツでは巨大戦車が主力となった。扁平な車体の上面をすべて太陽光パネルで覆い、砲塔すらその下に潜ませているのである。

 大口径の主砲を6門備えるこの戦車は他国からは『ドロガメ』と呼ばれ、軽蔑されながらも恐れられていた。


 ☆


「あれ。何だか変わりましたね、03号機」

 クレアが機体を見上げて首をかしげた。

「う。やはり分かりますよね。くっそー、ギドのやつ。わたしの03号機を」

 あきらかに不機嫌なユーモは、専属整備士の方を殺意に満ちた目で見た。

「そうだよね。これじゃ脇腹にお肉がついたみたいだもんね」

 あはは、と無邪気に笑うミーティア。


「笑い事じゃないよ、もう」

 ユーモは愛機を見上げた。パイロットと同じくスレンダーだった機体の両脇腹にあたる部分に、ぽっこりとした補助パーツが取り付けられている。

「これじゃ、中年太りのおばさんじゃないかあ」

 ぶー、と口をとがらせる。


「おう、ひもパンツの貧乳パイロットじゃねえか。どうだ格好良くなっただろ」

 得意げな顔で専属整備士のギドがやって来た。

「うるさい、今日は普通のパンツだわっ! いやそんな事はどうでもいいんだよ。何よこれ、何を余計なものを取り付けてくれちゃってるの!」


「へへ。よく聞いてくれた。あれは最新型の大容量バッテリーだぜ」

 決してユーモへの嫌がらせではないようだった。

「はあん? じゃあつまり、今以上に行動可能時間が伸びたってことなのね」

 それにしても費用対効果ならぬ、見た目対効果が悪すぎる気がするが。


「うーん、そういう訳じゃねえけどな」

 違うのかっ!

「分かったよ。おい貴様、そこ動くな。機関砲の餌食にしてくれるっ!」


 03号機に乗り込もうとするユーモを、クレアとミーティアが慌てて止める。

「ギドさん、では何のメリットがあるんですか。あの、お腹のぜい肉に」

「クレアさんも、ぜい肉って言っちゃってますよ」


「なんでい、忘れたのか。おい貧乳、お前がこのクレア姫の01号機みたいな、すげー新兵器が欲しいって言うから付けてやったんだぜ」

「だけどギドさんって、ユーモちゃんとクレアさんの扱いが違いすぎですよね」

 いつからクレアさんが姫になったんだ。


「おう、ちびガキ、てめえも居たのか。ちっこいから気付かなかったぜ」

「あなたが、あたしの整備士でなくてよかったです」

 頬をぴくぴくさせながらミーティアが呻く。


「それにお前ら、見るところが違うぜ。もっと他に変わったとこがあるだろーが」

 言われて三人はもういちど03号機を見上げる。

「どこが変わっているのでしょうか」

「胸のパネルがさらに引っ込んだような気がするよ」

「やめてよ、ミーちゃん。本当にシャレにならないよっ」


「ちっ、だから素人と話しても時間の無駄なんだ。背中だよ背中」

「ほう?」


 そう言えば発電翼の枚数が増えているようだ。背中側と外側の二列になっている。

「やっと気が付いたか。あれは二重反転翼といってだな、強化したプロペラの駆動トルクを相殺するために前後プロペラを左右逆回転させて……って、聴けよお前ら!」

 三人は、熱弁を振るうギドを放り出し、休憩するところだった。


「だって話が長そうなんだもん。ちょっとお茶してくるから、わたしたちに構わず続けてて」

「うん。あたしもそういう小難しい話、あんまり興味ないしさ」

「本当にごめんなさいね、ギドさん。お話が終わった頃に、また戻ってきますから」


「いえ、クレア姫がそうおっしゃるなら、文句など有ろうはずがないです」

 急に変わったギドの態度にユーモは舌打ちした。


「でも、新兵器ってなんだったんだろう」

 ……ま、いいか。それよりお茶だ。ユーモは小走りでふたりの後を追った。


 ☆


「攻撃目標はやつらの電力計量設備だ」

 ハリファ・セイバー大佐は地図上の一点を拳で叩いた。以前ユーモたちが偵察した、キアリィス国境に設置されたケーニヒグレーツの重要拠点である。


「はあーぁ、今日も格好よくていらっしゃいます♡」

「いっそ大佐の〇〇で、あたしを攻撃してーっ!」

「落ち着けクレアさん、ミーちゃん」


「ふふっ、相変わらず困った仔猫ちゃんたちだね」

 それに気付いたセイバー大佐は投げキッスを飛ばす。


「うぎゃー、大佐っ!!」

「わ、わたくし、もうだめです」

 今回もふたりは卒倒寸前だった。こんなので作戦ブリーフィングになっているのだろうか。ユーモは首を傾げざるをえない。


 ☆


「それでは皆さん、用意はよろしいですか」

 01号機のクレアはユーモとミーティアに声をかけた。

「はーい、02号機準備完了です」

「え、その……」

 とユーモは口ごもる。03号機ごと、もじもじしている。

「どうしました、ユーモさん?」

「行くよ、ユーモちゃん」


 う、うう。

「わたし、もう少しダイエットしてから行きますっ!」

 03号機は格納庫の奥に駆け込んでいった。やはり脇腹のお肉が気になる。乙女はこういうとこが気になるものなのだ。


「ギド、やっぱりこれ外して。恥ずかしいよ!」

「うるせーバカ。とっとと出撃しろ!」

「やだよー、こんな格好じゃどこにも行けないよう」


「あらら、またケンカしてるよ。どうする、クレアさん」

 はあっとクレアは額を押えた。やがて顔を上げると、ぎろり、と目を光らせる。

「ミーティアさん。あのおバカさんたちにミサイルを撃ち込んで下さいませんか」


 まんざら冗談でもない口調でクレアは格納庫のふたりを睨みつけた。

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