第3話 ノラ猫小隊、出撃
砂塵を巻き上げ、キジルバーシュ第25機動要塞は予定戦場へと進む。
機動要塞を駆動させるための燃料は、主として都市で発生したゴミをペレット状に固めた再生燃料である。
もちろん石炭、木炭あるいは樹木を伐採してそのまま燃やすこともある。とにかく燃えればいい。
そして、その熱で蒸気タービンを回して得られる動力と電気により、全長数百メートルに及ぶ巨大な要塞を動かしているのである。
主要兵装は大口径砲だが、一発あたりの単価が非常に高い割に効果が少ないため、現在では決戦の最終段階の他には、あまり使用されなくなった。
結局、戦争の帰趨を決めるのは人間同士の近接戦闘ということになる。
そして、それと併用されるのが人型機動兵器だった。
「いい風が吹くといいね」
ユーモは甲板に座り、3機並んだ『R-DO Ⅱ』を見上げた。
クレアとミーティアも並んで肩を寄せ合っていた。真ん中に座るクレアに両側から寄りかかる。
クレアは三人のなかではいちばん年上で、小隊のリーダーも務めている。おっとりした性格で、ユーモとミーティアのお姉さん的な存在だ。
そんなクレアだが、すでに東部方面で戦場に出て、かなりの激戦をくぐり抜けてきたらしい。軍務経験でも先輩だった。
「クレアさんもやっぱり抽選で軍に入ったの?」
ミーティアはユーモと同じ、年末大抽選会で当選した口だった。だがクレアは少し困った顔でミーティアの方を見た。
「いえ。わたくしは違うのですけれど」
「え、じゃあ志願?」
ユーモは驚いた。中にはそんな人もいるとは聞いたことがあるけれど。でも、だいたい仕事にあぶれて仕方なく、とか経済的な理由が多いらしい。
クレアはそんな感じには見えないが。
「いえ、そうではなくて『貴族枠』で……」
ノーブレス・オブリージュ。高貴な身分の人間は率先して義務を負わなければならないという考え方によるものだ。貴族階級に属する子弟に対し、強制的に軍への入隊が求められるのだ。
「えーっ、クレアさん。お貴族さまだったんですか?!」
「そんなユーモさん。バートル家は貴族などと呼ばれるのは、おこがましいくらい普通の家ですから。恥ずかしいですわ」
でも、中庭には大きな温水プールがあるらしい。
ユーモとミーティアは顔を見合わせた。
☆
「兵役に就くと高校の入試が免除になるでしょ。あたしにとっては、それはちょっとラッキーだったかなぁ」
ミーティアは冗談とも本気ともつかない口調で言った。
「へえ、受験生だったんだ。ミーちゃん」
そりゃ、若いはずだ。肌つやもいいし。ユーモは少し羨ましい。
「ところでユーモさんは、どういった経緯で入隊されたのですか」
訊かれても、特段、話すほどの事情はないのだが。
「うん。友達とテレビ見ながらワイン飲んでたら、当選だって分かって」
「え、ワイン? ユーモちゃんも充分、貴族っぽいじゃん」
「そ、そうかな」
お酒をのめないミーティアからすれば、そうなのかも知れないが。
「こう、グラスとか持って、執事さんと一緒に『はっぴーにゅーいやー、はっはっは』とかやってたんでしょ」
ミーティアの貴族観って、どんなんだ。
「え、違うのクレアさん。貴族ってそうでしょ?」
「違います」
☆
アンティオキア平原に集結したキジルバーシュ第21から第25機動要塞群は、左右が突出した半円形に陣形をとった。その最も奥の中央には、ユーモたちの搭乗する第25機動要塞が位置している。
そこへ轟音を響かせながらアクシリアの機動要塞が接近して来る。
「でかいな。やはり」
味方の要塞と比較しても倍以上の大きさだ。ハリファ・セイバー大佐が呆れたように声をあげた。
隣でサークーフ少佐が舌打ちして、セイバー大佐の尻を蹴り上げる。
「感心してどうする。敵の
「あ、はいはい。……各機動要塞に伝達、全地上部隊発進!」
大佐はお尻を押えながらマイクに向かい絶叫した。
「ユーモ。いま追い風5メートルだ。これなら発電しながら戦える!」
ギドが風力計に目をやって、不愛想な声で伝える。
「了解。じゃあ、行ってくるわ」
ユーモは笑顔で片手をあげると、コックピットのハッチを閉める。
「絶対、帰ってこいよ。ユーモ」
普段の悪口癖はどこにも無い。コックピットを見上げてギドは呟いた。
「えー? 何か言った、ギド」
もう一度ハッチを開けてユーモが顔を出した。ギドは真っ赤になった。
「な、な、なんでもねえよ。てめえは死んでも、絶対に03号機を壊すなよ。分かったな。これ以上俺の仕事を増やすんじゃねえぞ、このブス!」
「へへ、分かったよ。じゃあ本当に行ってくるね。03号機、ユーモ・ファーンボロー、行きまーす」
「01号機、クレア・バートル発進します」
「待ってくださいよぅ。02号機、ミーティアも出ますぅ」
続いて他の二人も発進していく。
こうして、3機の
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