第2話 戦闘の準備は整いました?
「おい、紐パンツ女。もちろん動かし方は分かってんだろうな!」
「うるさいっ、ひもパン言うな!!」
下からメガホンで呼び掛ける整備士のギドに、ユーモは地声で怒鳴り返す。
「まったくもう。あたしだってこの半年間、ちゃんとシュミレーションやってきたんだから。動かせるに決まってるよ」
ユーモはぶつぶつ言いながら、次々にスイッチを入れていく。
「ばーか。シュミレーションじゃねえ、シミュレーションだ」
「くっそー、何で聞こえてるの」
口が悪いうえに地獄耳とは。救いようがない、やな男だ。
更には右脚部に装着した特殊合金製ブレード。刃渡り3メートルほどの大剣だ。でも『R-DO Ⅱ』が持つと、ただの短剣にしか見えないけれど。
連装砲を装備した左腕を前に突きだし、ユーモは操縦桿の引金を引く。カシャン、カシャンと音がして砲身が回転した。
「残念。弾が入ってたら……」
そういって甲板上のギドを見下ろす。
「てめえ、自爆装置を起動させっぞ、このブス」
ちっ、勘まで鋭いとは本当に厄介な男だ。ユーモは舌打ちした。でも。
「なに自爆装置って」
隣では、01号機のクレア、02号機のミーティアが順調に調整を進めている。
「なるほど。少しずつ仕様がちがうんだね」
連装砲は同じだが、01号機はやや細身で、剣の他に長い十文字槍を装備する。02号機の連装砲は両腕。脚には3基ずつのミサイルランチャーという重武装だ。おまけに死神みたいな大鎌を持っている。うーん、どっちも格好いい。
「あたしも槍がよかったな」
「あほ。お前があんな長いもん振り回したら、すぐに背中の発電用プロペラをブッ壊しちまうだろ」
「それは確かに」
これはユーモ自身、認めざるをえない。
なぜならば。
「あたしは、いつも前しか見てないからね」
自慢できる事なのかどうかは分からない。
最終調整も終わり、ユーモたちは格納庫に戻った。こうやって三機の鋼騎兵が並んでいるのは一種壮観だ。
よく見ると01号機と02号機、背中のプロペラが一回り小さい。長い武器を使いやすいように設計されているのだ。
「発電量が少ない分、バッテリーやジェネレータが大きくなっているんだ」
01号機の主任整備士、アミオ・ルーテシアが説明してくれる。01と02の胸部パネルが膨らんで女性的な形状なのはそのせいらしい。
「だから充電に時間がかかるんだよ、あの2機は。それで新型の03では即応性を考えてプロペラを大きくしたのさ」
「納得したけど、何かくやしい」
どうしても外観で負けてる気がする。せめて胸からミサイルが出るようにしてもらえないだろうか。
「そんな希望をされるパイロットは初めてですよ」
02号機の整備士、ミスティル・バッジャーが苦笑した。
「03号機も良い機体ですよ。新型バッテリーとジェネレータを搭載していますから、他の2体では出来ない状況下でも長く活動できます」
「へー、それは凄いです」
あ、だけど。
「それって、一番こき使われるってこと?」
☆
機動要塞の一室は作戦指示を伝えるブリーフィングルームになっている。室内には
「では現況について説明する」
ハリファ・セイバー大佐はこの機動要塞の司令官だ。壁に映し出された作戦ボードに向かおうとした彼は、熱い視線に気付く。視線の元は鋼騎兵のパイロットたちだった。
「なにあれ。すごく格好いいんですけど」
「知らないんですか、ユーモちゃん。あの人が、2年連続で抱かれたい士官の第一位に輝いたセイバー大佐ですよ。わたしここの配属に決まって、超うれしくて!」
「ほら、こっちを見ていらっしゃるわ。やだ、どうしましょう」
セイバー大佐はすっ、と金髪をかき上げた。端正な顔に苦笑をうかべる。
「ふっ、困った仔猫ちゃんたちだな」
甘い声でささやくと、投げキッスをとばす。
「ぎゃーっ、大佐!!」
「もう、もう、わたくしダメですぅ」
「ああっクレアさん、しっかりして!」
「だまれ、貴様ら!」
どすの効いた声がブリーフィングルームに響き、一瞬で室内が静まり返った。
長身に腰までの黒髪。鋭い目つきの女性士官が、短い鞭を手のひらに叩きつけながら正面に歩み出た。
セイバー大佐も顔色を失い、かろうじて愛想笑いを浮かべる。
「こ、これは、サークーフ少佐。じゃ、じゃあ早速、戦術解説を少佐にお願いしようかな」
彼女は、
「はあん? 前段の説明はどうするんです。まさかそれも私にしろと?」
そういえば戦況について、まだ何の説明もしていなかった。
「すみません。忘れてました」
えへん、と咳払いしてセイバー大佐は国境の状況について説明をはじめた。
☆
ユーモたちの住む故郷『キジルバーシュ』は地熱発電と温泉による観光で潤っている都市国家だ。その豊かさゆえ周辺国から狙われることも多い。
この度侵攻して来たのは西方の『アクシリア』だった。
広大なアーク河のほとりに在る大国で、水力発電を主なエネルギー源としているが、最近は旱魃によって河の水量が減り、エネルギー不足が起こっている。
そのため、安定的に電力を供給できる地熱発電を持つ『キジルバーシュ』に手を伸ばして来たのだ。
「そこで今回の作戦だ」
セイバー大佐に代わって、サークーフ少佐が説明を始める。
「敵の機動要塞は1基。それを我らは5基で迎え撃つ」
「ちょっと卑怯な気もするよね」
小声で言うユーモに、うんうん、とうなづくクレアとミーティア。
「やかましい、小娘ども! アクシリア機動要塞1基あたりの搭載戦力は我が軍の3倍にのぼるのだ」
5基集めて、やっと互角以上の戦いができる。そしてこれがキジルバーシュ西部方面軍の総戦力だった。
「他の機動要塞と連携をとり、包囲殲滅作戦を実行する。決して油断するな、強敵だぞ」
サークーフ少佐の鋭い目が三人の少女に向けられた。
「生きて帰れるなどと思うな」
ユーモは、ごくりと唾を飲み込んだ。
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