死神延長戦

第24話? 死神の笑顔は崩れない

「死神はさ、なんで死神になったの?」


 私は、自分のことを死神だと言い張るこの男が嫌いだ。いっつもヘラヘラしてるし、性格悪いし、悪口ばっかり言ってくる。人間は愚かだとか言いまくってくる。重苦しいことばっかでめんどくさい。いちいち考える必要ないじゃんて思う。

 頭痛くなるし、意味ないし。人間はみんな生きてるだけで偉いんだから。死ぬことなんて、気にしてる方がバカバカしい。


 必死になって入試に受かって、ようやく楽しいスクールライフを送るはずだったのに、こんな変な奴に振り回されるとか、ほんっとさいあく。



「何ででしょうね~、物心ついた時には既に死神でしたからね。生まれつきみたいです」



 アハハと笑う死神。こっちは何にも面白くない。いい迷惑だ。



「それとさ、あんたはいつになったら消えるのさ」

「私はあなたが死ぬまで消えませんよ。それか他人の命を奪って、生きれるようになれば消えますね」



 にやにやすんな。ムカつく。命を奪うって、そんなのただの迷惑じゃん。しかも命取ったところで、取られた人には何の見返りもないのに。それに、誰がどれだけ生きれるかなんて分からないじゃん。もしかしたら次の日に事故で死んじゃったーなんてなったら。

 不老不死だってある訳じゃないし、それこそ神様とかにならないと……



「ねぇ、死神」

「何ですか?」

「あんたさ、一応神様の仲間なんだよね?」

「まぁ、死『神』ですから」

「死ぬ気持ちとか経験とかあんの?」

「ある訳ないじゃないですか。死神は拳銃で撃たれても死にませんし、寿命だって無限です。死ぬなんて概念最初からありませんよ」



 ケタケタ腹を抱えて笑う死神。何がそんなに面白かったのか。

 でも、やっぱり。死神は死なない。ってことは、生き続けるられる確実な保証があるってことだ。



「じゃあさ、あんたの寿命頂戴よ」



 根拠のない他人から奪うより、確実に生きる保証があるならそっちから奪う。死神なんてファンタジー、寿命が無限だっておかしくない。



「いいですけど、死神は? それでもいいんですか?」

「死ぬより全然マシでしょ。早くちょうだいよ」

「やれやれ、我儘なJKなこって」



 死神が私の手を握る。冷たくて血なんて全く通ってない。健康的な肌色を不気味に感じるほど、死神の手は人間のそれとは違う。目を閉じて何やらぶつぶつ呟き始める。はぁ、早くしてくれないかな。学校遅れるんだけど。





 ……途端、膝の力がいなくなり、崩れ落ちる。抜けたとか、入らないとかじゃない。筋肉そのものがなくなって、体を支えられているのが不思議なくらい。細い骨だけ足の中で感じて、それがどんどん上の方まで上がっていく。



「本当、の言った通りですね」



 中身が消えていく感覚が止まらない。怖いとか苦しいとか思ってる暇もない。死神を見上げる。退屈そうな、出会った時からずっと張り付いている笑った顔は、汚らしく見下すような屑の目をしている。



「死神の寿命、体力に際限はありません。つまり、私たちから寿命を奪おうと知れば、自ずと命を奪い続けることになります。無くならない未来。死ねない体。人間の規格を大幅に外れたあなたはもう人間ではいられません」



 なに…それ……どういう意味……



「命と体力はいちっぱしの死神なようですが、生憎あなたはワタシたちに向いていない。消えて見られなくなったまま、どこを彷徨うのやら」



 頭蓋の中が空っぽになる。脳みその重さも感じない。あんだけ辛かった悪寒も、瘦せるために鍛えた体も、線になって、動かない



「人間ではなくなったあなたをお迎えする必要は無くなりました。良かったですね。待ちに待ったお別れです。いやー目出度めでた目出度めでたい」



 眼球の輪郭が消える。死神の姿も見えなくなる。最後に残った、耳の感覚は、最後の音を逃さず、全て聞き取った。




「あなたは、真面に生き過ぎた」




 そして、文字通り何もかもが、そこかしこから消えてった。

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死神はいつも喜ばない はねかわ @haneTOtsubasa

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