霊(みたま)となりて、なお目映く。 『ミキヒロ・ライジングサン』

【作品情報】

『ミキヒロ・ライジングサン』 作者 辰井圭斗

 https://kakuyomu.jp/works/16816700427520864058


【紹介文】

 何話か続きます。


 結末のみを切り取ればミキ兄ことミキヒロは「絶対助ける」の誓いを果たせなかったわけで、一見すると作者様の言葉通り「救いがない」本作なのですが──。云うて、ならバットエンドかと云うと一概にそうでもないよなぁと判断し得る要素があったゆえレビューの体で書き留めてみる次第。


 件の作品、純然たるタイムリープモノではなく「時間が逆行する異世界に偶々放り込まれた主人公に、死んでしまったヒロインを助けられるかもしれないチャンスが偶々訪れる」ところがミソだと思うておりまして。例えばタイムリープモノならヒロインを助けたとき未来が変わるかもしれない、確証はなくとも行動次第で運命は変わるかもしれないという予感が、主人公にも読者にもあるわけです。


 ところが、件の作品にはこの予感がありません。舞台はあくまで「主人公の目標を達成をしたところで、恐らくはそのまま逆行を続けるであろう異世界」に過ぎないのです。アズサを助け、逆行を"完走"したところで、結局もう彼女のいない現実に戻されるだけではないのか、最悪また遡る世界の振り出しに戻されて、アズサを助けることはできないのだという運命を再三再四突きつけられるだけではないのか。主人公も読者も先行き不透明な不安を抱かざるを得ない構成になっています。


 と、ここまで考えて思ったのが、逆行を"完走"したとき何が起きるのかということでして。前述した「最悪」のパターンが訪れると想定した場合、ミキヒロはその都度大切な人が非業の死を遂げる瞬間に直面し続けるという地獄に陥る羽目になります。


 しかし、物語はそうはなりませんでした。幼い頃の君ではなく「高校生の君が立って手を振って」送り出してくれたから、ミキヒロは手を振り返して、朝日が昇る八月五日──もう彼女のいない現実に帰還を果たします。


 このように、件の作品はミキヒロの立場からすると異世界に迷い込んでなお大切な人を助けられなかったまさしく救いのない物語なのですが、みたまとなったアズサの立場からすれば運命を変えられない自身の無力さに直面し続けるという停滞の地獄からミキ兄を助けることができた──とも取れるのではないかと(「4」にて心霊という材料が提供されたため、ここでは死後も永久的に存続する個=霊という概念を躊躇なく用いる次第)。


 もしも決して前に進むことのない世界からミキヒロが脱け出せなかったら、アズサの死を見届け続ける他ないループに陥るとしたら。いずれミキヒロはアズサの身代わりになるか、彼女と共に千切れ飛ぶという選択を取り得るやもしれない。その"もしも"からアズサはミキヒロを助けた。光へと向かって走るミキヒロのせなはアズサを癒した。


 よって、救いはなくとも光るものはあっただろうというのが個人的な解釈。


 ──君は少し目を見開いて、光るように笑った。


 みたまとなりて、なお目映く。

 観測している星の光が実はもうそこに無いかもしれないように、失われてなお届く光があっても良いのではないでしょうか。

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