登場人物考察 09~11

◆早川 理杏

 十六歳。無感動チェーンソーガール。無表情・無口・無愛想というわけではない。

 生産性の傀儡。携帯電話のメモに日付と時刻しか記入しないのはそれを見れば何があったかを思い出せるから──ではなく、そもそも思い出す必要性を感じないから。「こんなことを頑張ったね」「あんなことを達成したね」という振り返りに興味はなく、成し遂げたその瞬間瞬間にのみ価値を見出せる特質。


 当人曰く、事績を記帳しているときが「一番生きているように感じる」とのこと。


 とはいえ、毎日コツコツ積み重ねること自体は紛れもなく良いことなので。その表面的な誠実性の高さに惹かれた人たちが集った結果、主要登場人物の中では最良と云っていいレベルで人間関係に恵まれている。"それ"は与えられたら喜ぶものであると、この状況下ではこういうリアクションが最適解であると、逐一学習しつつ構築した早川理杏という役柄を演じ、それなりに満たされた日々を過ごしていたが、エンジンの始動からガタが生じ始める。

 ちなみに周囲に溶け込む努力に関しては「攻略」と称した末、「有意義である」と断言している。この辺りが、同じ類の努力に息苦しさを感じていた透とは異なるところ。というか、この二人同じクラスなのだが、互いの存在を認知していたのだろうか。

 舞台監督曰く「大人ぶった子どものような、あどけなさの残る大人のような、何だか──目を背けたくなるような声をしている」とのこと。多分、歌とかうまい(小並感)。

 主要登場人物中最初の覚醒者。"劇"の進行とともに、悪辣さが加速する仕組み。

 余談。

 作中で理杏が行っていた読書術──知らない単語を探して、都度意味を調べるという「単語探し読み」だが、こちらカーネギー財団が百六件のライティングと読書スキルに関する研究をメタ分析した結果、理解力の高まる読書術のひとつとして証明されていたりするので。

 難解な単語や専門用語のみをピックアップした読書ノートは、作ってみても良いかもしれない。

 キーとなる要素は「舞台」と「チェーンソー」と「テセウスの船」。


◇比嘉 譲次郎

 十六歳。空手バカ一代。

 自分の頭にある情報をそっくりそのまま発信しても、事態が好転し得るケースはあるのだと理杏に学ばせた男。作者がこんなことを云うのはなんだが、この四角四面な男が自ら理杏に告白するという絵面があまりに想像しづらい。彼の好意を早期に見抜いた理杏が、告白しやすい状況をセッティングしたのだろうか。

 空手の道場に通っている。バス停で、人目がないとわかるやついシャドウをやってしまう、筋肉の火照りで中々寝つけぬ夜が誇らしくて堪らない程度には空手に夢中だった。空手を習いはじめたきっかけは明かされていないが、多分ケンカが強くなりたかったとか、そういう十代らしいものではなかろうか。

 あそこまで追い詰められておいて、「ゆっくりやっていきたいんだ」と手をとって宣誓できる紳士。ただ、理杏の「ちょっと、すぐに動けそうになくて」からどのような妄想を膨らませたのかは不明。個人的には、二人の交際を知っているだろうつむぎからどう見られていたのかが気になるところ。

「12『To Do』」で放った上段回し蹴りは、彼の五体が持ち得る能力の最大値であり、まさしく成果だった。

 キーとなる要素は「空手」。

 

◇奥平 つむぎ

 十六歳。物書きの端くれ。

 平素は痛いところを突かれると文字通り頭を隠すナイーブガールだったが、理杏の"予言"によって一時的にメンタルオリハルコンガールと化す。姉との関係性など、わりかし当時の作者と関わってくる部分が多いので、返って語ることが少ない。

 姉の物書きとしての才能に憧れる妹──という立ち位置だが、酷なのはその姉が物書きとして大成するルートではなく、自分なりにもっと心血を注げるルートを見つけてしまったことである。

 自身の憧れであり、嫉妬の対象でもある人が、と見越していた領域で大成するのは、まだ幸せなことであると私は思っていて。

 本当にきついのは、憧れの人が憧れでなくなってしまうことではないかと。

 しかも、挫折ではなくポジティブな方向転換なのである。きっと、そのルートは物書きなんぞよりもっと多くの人の支えになってしまう、他者貢献に繋がるルートなのである。自分が「あの人の才能はここで輝くに違いない」と信じた舞台は、もうその人にとって然して魅力がないのである。


 ──本当は、"お前"なんかよりずっと将来のためになるものを見つけたい、時代の最先端を走るような、多くの人の助けになるようなもののためにこれを捧げたい。


 の部分原作だと「青春」と書いて「青春これ」だったのですが、解りやす過ぎない? と思ったのでこう表記しました。

 なので、つむぎは脳内お花畑で小説が好きな女の子だったわけではなく、本当は筆を折りたくて折りたくて仕方がなくて、けど折れないからこんなことになってんじゃねぇかよチクショウが! というタイプの物書きだったりする。

 何だかんだで語ることあったなと思いつつ、この娘に関してはここらで留めておく。何と云うか、下手に掘り下げることで返って持ち味が薄まるような気がするので。

 キーとなる要素は「小説」。空には、全長七〇メートルを超えるドラゴンとでっかいエクレアが飛んでいる。

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