ノベルゼロの廃刊とサラダマックの失敗に共通する「綺麗なウソ」とは?
結論から申し上げると、今回のお話にオチはありません。悪しからず。
ノベルゼロという名のラノベレーベルをご存知でしょうか?
まあ二〇一九年四月を最後に新刊の発売が途絶えている、実質廃刊したも同然のレーベルなので。ご存じありませんよ~という方が圧倒的多数派なのでしょうが。
ノベルゼロのコンセプトは「大人の生き様」──カッコいい大人の生き様を描いたハードボイルドな作品が読みたい! そんな大人たちをターゲットにしたラノベレーベルでした。
──はい、カッコいい大人の生き様を求める読者層はそもそもラノベに手を出さないと思うのですがそれはという最大の疑問はさておき。
ターゲットを大人に絞っただけあって、ノベルゼロの装丁はかなり独特。本体にカバーはなく、ついているのは幅広の帯のみ。そこに作品タイトルやらイラストやらが全て集結している──というデザインでした。
思うに「いかにもなイラストでゴチャゴチャしている表紙を見られるのが恥ずかしい!」という層に配慮したデザインなのでしょう。事実、帯を外したときの見栄えはシックで、ぱっと見ラノベレーベルから刊行されているそれとは思えません。
そんな我が道を往くノベルゼロには、裏のコンセプトがありました。
それが、アンチ異世界転生。
現にノベルゼロが開催した『第1回大人が読みたいエンタメ小説コンテスト』では、異世界転生要素を含む作品を公募禁止にしていたくらいなので。何としても異世界に転生させてなるものか──という強い意志を感じます。
一方で、当時の受賞作品にフツーにチート要素が含まれていたりと、結局何を排除したかったのか、思えばこの時点からすでに信念のふわふわ感が否めないレーベルだったわけですが。
さて、このノベルゼロ──読んでいる方も薄々お察しでしょうが、はっきり云って売れませんでした。
「このままではマズい!」と判断したのか、途中から流行りのラノベと似たようなテイスト──萌えや過激なエロ路線に舵を切る(初期は基本挿絵すらない仕様でしたが、この路線変更辺りから挿絵もつき始めました)のですが、それが「硬派なコンセプトだからついていったのに!」という貴重な層を蹴落とすかたちとなってしまい、コンセプトのふわふわ感が加速。結局、今の廃刊状態に陥ってしまったわけです。
ちなみに、そんなノベルゼロの中で恐らく一番売れたと云われている作品は鏡遊先生の『セックス・ファンタジー』でした。うーん、創刊当初のコンセプトから思えば何と云う皮肉。
ただ、件のレーベル──誕生の背景にあった意図はなんとなーくわかります(と云うか、このエッセイを読んでいる人ならなおのこと、わからない人などいないのではなかろうか)。
軟派な作品がノッている今だからこそ硬派な作品を! 消費される流行りものではなく、本当に面白い作品を世に広めたい! そんなフレッシュな理想を感じずにはいられません。
同時に読者の声を反映した部分もあるのでしょう。今の流行りはテンプレで中身もスカスカ、もっと硬派で時流に逆らうような作品が読みたい! というご意見はそれこそYoutubeのなろう系レビュー動画のコメント欄を覗けば、今だってなくはないわけで。よっしゃ、じゃあご要望に応えて出したろ!! と売り出した結果、しかし驚くほど売れなかった。何故なのか。
個人的に、この辺りはサラダマックの失敗と似ているなーと思っておりまして。
サラダマックというのは二〇〇六年五月にマクドナルドで発売された商品でして、マクドナルドにしては珍しい健康志向のメニューだったのですが、まあ先に「失敗」と述べました通り、程なくして発売終了に至りました。
いや、そもそも健康的な食事求める層がファストフード行くわけなくて草──と今だからこそツッコむことができますが、何もマクドナルド側とて単なる思いつきからサラダマックの発売に至ったわけではありません。
「ヘルシーなサラダが食べたい」「ヘルシーなメニューがないマクドナルドには行かない」といった消費者側の意見を取り入れた結果、そこまで云うなら出すわと発売に至ったわけです。で、売れなかった。うーむ。
今回の話にオチはないと事前に書きはしたけれど──。
強いて云うなら、お客様の意見に耳を傾けるって大事だけど、だからって鵜呑みは良くないよね、自分をちょっとでも良く見せるためについた綺麗なウソであるケースがあり得るもんねとかそんな感じでしょうか。
個人的にはノベルゼロが「このままではマズい!」とあそこで路線変更しなければ今ごろどのようなレーベルになっていたかが気になります。どのみち同じ末路だったのでしょうか、はたして。今回はそんな感じ。ではまた~。
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