今あなたを魅了して止まないそれの根底にあるもの 『サドリの物語』

【作品情報】

『サドリの物語』 作者 辰井圭斗

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054892362229


【紹介文】

 もし千年に一度の才能というものがあるのならば、それは一人の人間の人生など容易く飲み込み、世界を巻き込み、呪いとして機能する。高校生高井悠理はまさしく才能に呪われた人間として、知らぬ間に魔術師たちによる世界的な争奪戦の渦中に放り込まれた。


 父の死後送ってきた十年間の生活が偽りに満ちていたことに気が付き逃走を図った悠理は、その最中一人の少女と再会する。その少女は魔術師として圧倒的な力を見せつけ、悠理にある契約を持ちかけた。


 稀代の才能を抱えた高校生と傷ついた最強魔女の現代青春魔術ファンタジー。


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「百年の檻」改稿後の修正点

 ①物語の舞台が京都であることが明文化されました。

 ②アラン・スミシーの所属する魔術機関の名前がガーディアンになりました。

 以上です。大筋に変更はありません。


 好きな作家のデビュー作(っぽい位置付けのそれ)が好きなのです。随所に見える試行錯誤の痕跡。読んでいると、まるで物語の編まれるプロセスを目の当たりにしているかのような楽しさがあるのです。


 辰井圭斗と云えば、今や『デルギ・ハンの大叛乱―皇孫アリンの復讐―』と『俺達ルームシェアしている友達と何が違うんですか』の二作品が(少なくともカクヨムにおいては)代名詞と化しています。二作品の魅力については、多くの方が応援コメントやレビューといった形でその想いをしたためている通り。もはや言わずもがなでしょう。


 しかし、あなたを魅了してやまないそれらの作品は、いきなり何の“根底”もなく生じたわけではありません。あなたの心をしかと掴んだそれは、この作品なくしては形にならなかったかもしれないのです。


「注目された作品」と「注目されなかった作品」は、全く無縁の別モノと云うわけではありません。「注目されなかった作品」があったからこそ「注目された作品」を書けるに至ったのです。個々の作品は離れ離れであるようで、その実地続きなのです(まさしくひとつなぎの大秘宝)。


 今あなたを魅了してやまない作品の“根底”に触れれば、その作品のこれまでとはまた違った面白さに出逢えるのではないでしょうか。


 個人の見解ですが、デビュー作(っぽい位置付けのそれ)は一番作者の“顔”が透けて見える作品だと思います(この物語の静謐な幕引きを目にしたとき、私が最初に抱いた感想は何故か「この作者さんらしい締め括り方だなぁ」でした。これが初めて読んだ辰井圭斗作品であるにもかかわらず)だから、ファンには堪らないのだろうなぁ──などと考察してみたりするのですが、いかがか。


 追記(2020/12/25)

 一年前読了したときはそこまで色濃く感じなかったのだけれど、改めて読み返すと結構ヒロイン要素強かったなって。第19話、悠理から「僕にこの家にいて欲しい」理由を尋ねられたときの3つめの答えなんかが特に。


 以前結構読み込んだつもりでいたのだけれど、案外要所要所忘れているもので。たとえば第21話以降の展開「何で悠理単独行動やったんやっけ?」と思ったら「ああ、そっか時間制限があったな」と。


 あとは、スミシーの一部の台詞こんな"親切"だったかとか(笑)ただあの手の"親切"な台詞は、ファンタジー要素を含む作品にとって最早お約束であり、ぶっちゃけ件の作品の読者層が求めているものなので。あれが最適解だとも思う。というかスミシー自体が「強ポジから手の内を明かしたがる」キャラ付けなので。あの"親切"まで含めてキャラの血肉と云っても過言ではない(だから、所謂説明台詞を脳死で叩くのは些か早合点だよとここに記す)。


 憶えた気になっていた箇所が埋まってゆくこの感覚は存外面白くもあり。なので、気に入った作品は改めて読み返してみると発見というか、何かしら新鮮な感覚があるかもしれない。


 さて、悠理くん激昂時の言葉選びといい流石に真っ直ぐ過ぎる──と思う一方、こういった一面がサドリの云う「見ていられない」にかかってくるわけで。


 思うに私らが真っ直ぐ過ぎる人を見ていられないのって、どこかで"それ"を置いてきたからであって。どこかで折り合いをつけて、目の届かない所に置いてきたから「お前はいつまで"それ"を持ってるんだ」的な意味で見ていられないという感覚を覚えるのかな──と。そう考えると、心配って度を越すとやっぱ足枷なんやなと思ったり。


 脱線御免。つい先ほど気に入った作品は読み返すことで新たな発見があるかも──と云ったばかりだけれど、こうして一年ぶりに読み返したくなる作品があるということ自体、すごく幸せなことだと思う。


 私は小説にしろ音楽にしろ、誰かの救いになる作品なんて存在しないと思っている質なのだけれど、ふとした拍子「あれ、どんな話だったっけ?」と。

 人を何かしらの行動に結びつける、現世に繋ぎ止める文章の集合はあり得るし、あり得ていいと思っているので。


 別段これを書いている私に"そういった念慮"は(今のところ)ないが、「ふと読み返したくなる」という生きたいがあってもいいなと思った。


 そんな気づきのきっかけを与えてくれた「見ていられない」お話。


「これからさ、全部これから」

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