巧緻な筆致で、されど軽やかに綴る"抗い難いもの" 『ミルセフォルフィナ様と騎士レイデン』
【作品情報】
『ミルセフォルフィナ様と騎士レイデン』 作者 宮澄あおい
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894042028
【紹介文】
天然で天真爛漫な騎士見習いの少年・レイデンは、父の宰相に命じられ、女王のミルセフォルフィナと、ともにくらすことになる。
女王様は学者肌で研究室で毒草を栽培するのが趣味という変わった方だった。
けれど、政争渦巻く混乱した国は、二人の穏やかで平和な日々を、許すことなく。
外が地獄だろうと、せめて二人の時だけは、平和に過ごしたいと願った学者肌の女王と、わんころ騎士の穏やかでささやかなる甘い日々(十話くらいまで甘々ホイップですが、十一話あたりからビターが濃くなってきます。二十一話からはカカオ90%になってきます)。
「確かに恋だった(http://have-a.chew.jp/)」のお題からとった、女王(年上)と騎士(年下)の、箱庭物語。
【三人称・複数視点】【読みごこち:お花畑の中に爆弾仕込みました】
目次
完結済 全40話
2020年11月25日 22:49 更新
◇読者を逃さない冒頭
第1話から少年騎士レイデンと女王ミルセフォルフィナが華やかな日々を送る「過去」、宰相となったレイデンであるエウリュイア侯爵がミルセフォルフィナのいる(であろう)首都に攻撃を命じる「現在」。
ギャップある二つのストーリーが、かつてレイデンの書いた手紙を転換点に進行する、読み手を逃さない作りになっています。
一応補足しておくと、何も「どうしてこうなった」と云わざるを得ない後の展開を冒頭からチラ見せしておけば読者を惹きつけられるとか、そういうお話ではなく。たとえば「神の視点」から語られる「斯様な未来の訪れをこのとき誰一人として知る由もなかった」みたいな一節は、余程腕に覚えのある書き手でない限り、概して大事故を起こしがちです。
本作の場合は、「レイデンが父に宛てた手紙」という転換点がとても巧く、過去と現在のギャップで読者をそわそわさせる一方、「この手紙を転換点にしばらくは二つの物語が進行してゆくのだろうなぁ」という安心感を与えてくれます。この場面転換のわかりやすさも、読者を逃さないポイントの一つではないかなと。
◇命の平等
ある出来事を境に、第31話からミルセフォルフィナは暴君と化してしまうのですが、ここでメタ的な読みを明かすと「ああ、もう彼女を安易なハッピーエンドに落とし込む気はないのだな」という作者の強いこだわりというか、覚悟めいたものを感じました。
さて、この"ある出来事"──ミルセフォルフィナにとって大事なある人物の死が関わっているのですが。この人物の死が中々に印象的でして。と云いますのも、まともな遺言の一つも遺せていないのです。創作において、それ自体は特段珍しいケースでもないのですが、この"立ち位置"で遺すことを許されないというのは──「残酷」「容赦がない」「リアリティがある」。色々と解釈する言葉はあるのでしょうが。
個人的には「平等」という言葉がしっくりくるのかなと。
立ち位置によって今際の際が大いに変わる、一方の人物の命を露骨に重く見過ぎている作品ってあるじゃないですか。多分ドラマティックに退場するんだろうなと思ってた人が案の定ドラマティックに退場するみたいな。そういう命のお約束を踏襲する作品が一概に悪いと云うつもりはないのだけれど、私はちょっとだけ首を捻ってしまう質でして。
だからこそ、本作の平等加減はいいなぁと思って読みました(笑)
小説を語る上で描写と説明を並べたとき、何となく説明が貶められがちな空気ってあると思うのですが、説明の方が読み手により強い印象を与えるケースもあるのですよね。本作では一部登場人物の死が描写ではなく簡潔な説明で終わっているのですが、これこそ好例と云いますか。あえて説明で片付けることによって、伝わる痛切さはあるよなと。
◇巧緻な筆致で、されど軽やかに綴る"抗い難いもの"
本作、恐らくは読み手によって「この作品の山場ってどこ?」という質問に対する答えが異なるのではないかなぁと思います。まさにグラウデン王国という仮想国の年代記だったので(しかし、決して年代記に記されることはないのだろうなぁという矛盾)。前述した人物の死に様も含め、良い意味で創作めいていないのです。「これがこの結末を招いた」でも「度重なる過ちとすれ違いの積み重ねがこれ」でもなく。
各々今ある立場を守りつつ最良を尽くした結果がこれ──なのですよね。
所謂「神」から失策を強いられ、悲劇に走らされたわけではない。だから、そういう抗い難いものを描きたかったのかなぁと。なので、この恋の顛末も含めてハッピーエンドかバッドエンドかを語るというよりは、書き手の凄まじく力強い「これが好き」「こういうものが描きたい」を巧緻な筆致でまざまざと見せつけられた──というのが、正直な感想。
ちなみに私も「これは好き」です。
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