なぜ人は理想を追わないの? の科学【やりたかったことVSやるべきだったこと】

・死の直前、人間が一番後悔することって何?

・作業感の強い簡単なタスクVS興味のある難しいタスク 先にやった方がいいのはどっち?


 答えが気になるあなたは、読み進めていただければ幸いにござい。


 コーネル大学の社会心理学者トーマス・ギロビッチ先生が、人間はどういうことに後悔しやすいのかを調べる実験をしておりまして。具体的に「これをすると後悔しますよ」というお話ではなく。そればかりは、人によって違うと思いますので。

 件の実験では後悔を二種類に分けております。一つは「理想への後悔」でもう一つは「義務への後悔」です。前者は、たとえばなりたい存在になれなかった、素直な自分になれなかったとか、仕事と家庭を上手く両立できなかったとか、そういう類でして。後者は、社会的な役割を果たせなかった、ルールを順守できなかったとか、そういうのです。


 簡潔に云えば、やりたかったことVSやるべきだったことですかね。


 実験の内容は省くとして結論から申し上げますと、数百人の参加者のうち七六%が「人生で一番の後悔は?」と訊かれて「理想への後悔」に言及しました。

 今、このエッセイをお読みになっている九割の胸中を云い当てたい。


 ──当たり前じゃね?


 そう、私たちってわざわざ検証されるまでもなく、理解しているはずなのですよ。人間が今わの際に後悔するのはコレです。やりたいことをやらなかったことです。

 で、この実験ユニークなのがここからでして、ではなぜ私たちは当たり前だとわかっているのに理想を追わないのというところまで掘り下げてくれているのです。

 それは「達成に至るプロセスが曖昧」だから。たとえば義務的な目標って目処が立つじゃないですか。〇曜日までにこの資料を仕上げようとか、〇時までには返信しないととか、内容によって難易度に差はあれど、まずはここから始めようという第一歩が粗方想像つくじゃないですか。

 対して理想に通じる目標って、その一歩がわかりにくいのですよ。「素直な自分になりたい! えっ、素直って何?」「仕事と家庭を両立させたい! ──"両立"とは?」みたいなね? さらに人間って悪いことによくわからない問題ほど後回しにしがちなので。気付けばやるべきでないタスクまで義務として背負い込んで、理想の追求に割く時間を圧迫している。

 

「人間は常に省エネで生きたがる」を念頭に置いておくだけでも時間の使い方変わると思うのですよ。


 楽を追求すること自体は良いですよ? 頭使って楽に生きる方法は、この時世積極的に模索していくべきだと私は思いますし。ただ、人間は常に「脳のリソース最小限に抑えたい」という欲求が働いているからこそ、理想に向かう第一歩を中々具体化できないでいるのです。


 これに対してギロビッチ先生は「理想を追う人ほどひらめきを待ちがち。とりあえず動け」というありがたいメッセージを残してくださっています。


 理想を追求する人ほど、なんかすごい第一歩が頭に浮かぶ日を待ってしまいがち──ということですね。この熱いお言葉が、論文に記載されているという点がまた面白いと思います。

 若干話は逸れますが、この「脳のリソース最小限に抑えたい」欲求って自覚しておかないと結構危険でして。たとえば、「中国人はみんなこう!」「アメリカ人はみんなこう!」っていう差別・偏見もアレどこから来ているかと云いますとここ由来なのですよ。あのカテゴリーに属する人たちは皆こういう性質を備えていると判断した方が、脳のリソースひかえめで済むじゃないですか。「いや、皆が皆そうじゃないよ。一人ひとり違うんだよ?」という至極当たり前を人間の脳は基本「ダルい」と判断するのです。


 そう、差別・偏見の温床って"ここ"なのですよ。


 さて、予定だと人間よくわからない問題ほど後回しにしがちつながりで「作業感の強い簡単なタスクVS興味のある難しいタスク 先にやった方がいいのはどっち?」に続く予定でしたが、案の定長引いたので続きはまた次回。ではまた~。

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