RELOAD

『瑕R255G255B255』のあとがきめいたもの。タグの「どこから読んでもイイのよ」に大いなる偽りあり。まあ、今にはじまった話でもないが。

 件の作品を書き終えたとき、「しまったな」と思ったのである。何を隠そう、これで弾切れだったので。呻吟しんぎんしている人を前にしたとき、多くの見守る勢初手自身の身に起きた不幸語りがち──というのは『瑕R255G255B255』の中でも述べた通りだが、あれは初手であると同時に哀しいかな最終奥義なのである。ギリシア神話の神・ゼウスで云うところのシケリア・ストライクみたいなものである(エトナ・ストライクだったとする説もあり)。

 だから──次弾はもうない。さて、弱ったぞと頭を抱えたところではたと気付く。自分は今如何様いかような思いで、ここまで弱り果てているのかと気付く。

 実のところ、あのときした返信では少しだけ嘘をついた。私は、あの応援コメントを見て初めてあの言葉が思いついたかのような云い回しをして見せたが、正直あの一発は応援コメントをもらう前から私の手の内にあった。より正確に云えば、件の作品を書き終えてから程なくして手の内に生まれた。わざわざあんな云い方をしたのは、のちにこうやって自分からバラすくせ嘘をついたのは──まあ私は私で重いと見なされることを避けたかったのやもしれない(というより、私が私をそんな重い奴であると認めたくなかったと云った方が適切か)。

 思い詰めている誰かに手を差し伸べるという行為は善いことで──ただ、差し出す側と差し出される側がある以上、どうしてもお互い心のどこかで上下を意識してしまうきらいはある。だからこそ──と続けていいものかどうか、兎角とかく寄り添うということは、相手と同じ高さに立つということは、いざやろうとすると案外難易度が高かったりする。

 相手の鬱屈とした気持ちを僅かでも軌道修正できないかと、唐突に身の上話なんかしちゃってみたりして、それ自体は決して悪手ではないのだろうが、個人的に初手として繰り出すのはやっぱり違うんじゃねぇかなぁと思っていて。


 見守る側は、案外「あなたがいなくなると寂しい」とか「あなたがいないと哀しい」とか、そういう当たり前を口にしない。


 頭の片隅でこんなにも真摯しんしに向かい合っているのだから、云わなくたって伝わっているでしょうって、だからそういう当たり前を端折って、私の場合や俺の場合を訥々とつとつ語りはじめてしまう(一応念押ししておくが、これ自体悪手であると私は断言しない)。もちろん手を差し出される側だって、目前の相手にどう思われているのかくらい、ある程度心得てはいるのだろうが──。

 

「あなたがいなくなるとしんどいです」と。


「だから、こんなに頭を抱えているのです」と。


 改めて言葉にされることで、まあ変わるものだってあるだろう。

 まあ、何がビックリって私は四、五年前に書いた自作の中で「沈んでいる相手と同じ高さに立つために、まずは沈んでいる相手を前にしてあなたがどう想っているかを伝えよう」とかいう至極当然のことをすでに表現していたのだが、『瑕R255G255B255』を書き終えるまですっかり忘れてしまっていた(ここで挙げた作品がもうちょっと万人受けする内容であれば、リンクでも張ったのだが、生憎とそうでもないのでそれはしない。所謂"魔境"なので)。「作者が自分より頭の良い登場人物を書くことは実質不可能」などと云うが、どうやらそうでもないらしい。それとも、これはアレか? 四、五年前の私の方が今よりいくらか利口だったとそういうことなのか?

 さて、もう弾切れだと諦めていたところ、ふとした拍子にその存在を思い出した弾丸まで撃ってしまったので、もう正真正銘「EMPTY」なのだが──にもかかわらずタイトルを、そしてキャッチコピーを何やら愉快な感じにしてしまったのは、これといって根拠もないくせ何かまだ撃てそうな気がしているからである。

 もちろん相手のことを思えば、そんなものなど必要がないに越したことはないのだが、それでも何が起こるかわからないからねと自分でも納得いくようないかないような云いワケをして、私はいつかまた必要になるやもしれぬ、新たな弾丸の開発にマイペースながら勤しんでいる。

 案外──重たいのはこっちなのではなかろうか。

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