私は柴犬になりたい

エモエモの実を食ったエモ人間になっちまったよ 『あなたとわたしの時間が止まるまでは』

【作品情報】

『あなたとわたしの時間が止まるまでは』 作者 私は柴犬になりたい

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896792279


【紹介文】

 なし


 エスと呼ばれるカルチャーがありまして。基本女学生同士の親密な間柄であったり、強い絆の結びつきを指す隠語なのですが、現在の百合の走りと云いましょうか、今となっては百合というジャンルの中でなおひそやかに息づいている──というのがエスに対するわたくしのイメージでございます。

 さて、今回ご紹介致しますこの作者様、以前に『蔦と宿木は絡み合う』という小説を書かれているのですが、こちら現代の百合小説というより多分にエスを題材とした少女小説を意識した内容であったものですから、『あなたとわたしの時間が止まるまでは』のタグに「ガールズラブ」「夏」「花火」の文字を見つけました折、私は「現代が舞台の"少女小説"なのかしらん」などと思いを馳せながら、作品タイトルにカーソルを重ね、クリックした次第にございます。

 ──ここからいつもの口調に戻ります。しんどいので。

 ところが──ところがですね。蓋を開けてみると現代の少女小説じゃなかったんだコレが。


 きちんと現代の百合小説だったんだコレが。


『蔦と宿木は絡み合う』の方はね、くどいくらいに比喩が連なる、まさしくエスをテーマにした少女小説特有のどこか毒気のある耽美さみたいなものが表現されていたと思うのだけれど、『あなたとわたしの時間が止まるまでは』はね、もう一回云うけどきちんと現代の百合小説なのよ。表現に関しても、どこかポップ・ミュージックの歌詞を彷彿とさせる軽やかさがあるんだよ。

 これはあくまで私の主観なんだけど、あまりにジャンルの違い過ぎるモノを書き分けるのって実はそんなに難しいことじゃないんじゃないかなって思うわけでして。ただ、こちらはね。あの時代の少女小説と現代の百合小説の書き分けなのよ。これができてるのってヤバくない(著しい語彙力低下)? これがまず特に良かったポイント一個目。

 次にすっごく個人的なエモポイントなんだけど、もう一回この作品のタグを確認してほしい。「夏」と「花火」ね。大抵の人が夏祭りとか花火大会を題材にしたときって花火の描写頑張りがちなのよ。コレ、別にそこに心血注ぐのが悪いって云ってるわけじゃなくて、ただそういう傾向にあるよねってだけの話ね。作品によってはその花火こそが重要なキーを握っているのかもしれないし。

 で、この作品の打ち上げ花火なんだけど描写がすごいシンプルなんだよ。このね、花火の"そっちのけ"感がいいんだ。だって、夜空に火の花が咲いては散る間、「あなたとわたし」が何してるかって云ったら──もうね。もうねっ! この描写の程よい匙加減よ。


 こちとら気分はもうエモエモの実を食ったエモ人間だよ。


 エスやら百合というジャンルに馴染みがないっていう人はね、ぜひ今作と『蔦と宿木は絡み合う』を読み比べてほしい。どちらも文字数は少なめなので。そして、同じガールズラブではあるけれどなるほど確かに何か違うねっていうのを感じてほしい。

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