必要なのは嘘でもいいから前に進んでいるという感覚 『恋する自動販売機』

【作品情報】

『恋する自動販売機』 作者 もり ひろ

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054894698837


【紹介文】

 自動販売機と話したことはありますか。

 彼らは言葉を発しません。ただそこにじっと佇んで、ぶいんと唸るだけ。

 そうやって紳士的に悩みを聞いたり、弱音を受け止めるのが自動販売機なのです。

 人生に迷ったら、自動販売機に打ち明けてみてください。


「あ~、私心身ともに疲れてるわぁ」って実感する瞬間ありません? たとえば地下鉄の席に腰を落ち着けるや「あ~、いい湯だぁ~」って呟いちゃうとか、自動販売機に話しかけちゃうとか。あと──自動販売機に話しかけちゃうとか。


 端的に云うと、飲み会帰りの"私"が自動販売機に胸の内を吐露する話なのです。


 この胸の内と云うのは、失恋の痛みとも言い換えられるのですが。そう、"私"は今年入社した──今日出会ったばかりの女性に恋をし、その想いを伝える間もなく玉砕してしまったのです。──えっ、なの? 長年大切に温めた想いとか、そういうのではないの? はい、そういうのではないのです。今日芽吹いて、今日萎凋いちょうした恋なのです。

 先ほど「想いを伝える間もなく」と書きましたが、そもそも"私"は彼女に声をかけてさえいません。やったことと云えば「向こうから話しかけてくれないかな」と期待し、飲み会の席でわざと目立つような振る舞いをしてみただけ。それを経てからの──小銭を自販機の下に落としてからの「嗚呼、ちくしょう」なのです。それは──あまりにしょっぱ過ぎやしないか。


 しかし、そんなしょっぱさもひっくるめてジハンキパイセンは受け止めてくれるのです。


 読めば、あなたもきっと自動販売機の下を覗きたくなるはず。そして、何だか前に一歩進んだような感覚が味わえるはず。そう、必要なのは嘘でもいいから前に進んでいるという感覚。

 人生の意味はてんでわからないけれど、「人生ってなんか意味ある感じがするよねー」というぼんやりとした感覚は、されど確かに芯として強くあって。生きていく上で改めて"意味感"の大切さを教えてくれたジハンキパイセンは、やはり深い。

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