「私、貴方のことが好きなんです!」と俺に告白してきた後輩の愛がなんだか重い。

惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】

「私、貴方のことが好きなんです!」と告白してきた後輩美少女の想いが重い。



「先輩っ! 私、貴方のことが好きなんです!」



 放課後の高校の屋上。茜色の夕陽が差す中、俺はある一人の女子生徒から告白を受けていた。


 事の発端は今朝。登校して眠たげに下駄箱を開くと、中にラブレターという今時珍しい古風な伝達手段が内履きの上に置かれてあったのだ。


 もちろんはじめはただの悪戯なのかと思った。でも封止めしているシールが桃色のハートの形をしていることや、手紙の裏面には俺の名前が記載、便箋二十枚を超える文面が『貴方が好きです』といった俺への好意がぎっしりと詰まった文章、『今日の放課後に屋上に来て下さい』といった約束が書かれていることから、差出人の名前は無かったがこれは相当本気なラブレターなのだと認識。


 俺の様子がいつもと違うことに仲の良い友だちや大人し目な目隠れ系幼馴染に心配されながらも、なんとかこのことを話さずに放課後まで乗り切った。


 恥ずかしながら高校二年生になっても恋愛経験が皆無な俺。女性への耐性は実は美人な幼馴染でついているとはいえ、まさか高校内でアオハル的なイベントともいえる『ラブレターによる呼び出しで屋上告白』を経験するとは思わないだろう。すごく嬉しいことには間違いなかった。


 ―――そして、高鳴る胸を抑え付けながら今に至るというわけだ。



「えっと……気になることがあるんだけどさ、訊いても良いか?」

「は、はいっ! なんなりとどうぞっ!」

「どうして俺なんだ? こう言ってはなんだけど、俺は特に何も秀でたところが無い普通の男子高校生なんだが……」



 俺、明坂 睦月あけさか むつきの目の前には長い茶髪をポニーテールにした、二重がぱっちりとした活発そうな美少女が顔を赤らめながら告白してくれている。身長は俺よりも頭一つ分低く、豊かな胸と綺麗にくびれた腰つきをした、スタイルも抜群な可愛い女の子が、だ。


 正直、俺なんかにはとても勿体無い女の子だ。初見ですぐに容姿が優れていると分かる魅力的な可愛い子なのだから、もっと他のカッコいい奴に告白すればすぐにオッケーを貰えると思うのだけれど……。



「え、えっと……その……」

「?」

「ひ、一目惚れっ、だったんです……っ!」



 俺が問い掛けると、彼女は恥ずかしそうに俯きがちに理由を答える。今にも真っ赤で、夕陽では隠し切れないほどの頬の紅潮さを見せていた。

 その声音は、訊いている俺まで彼女の緊張が伝染して思わず身体が火照ってしまいそうになるほど。


 彼女は頬を赤くさせたまま言葉を続ける。



「わ、私、この高校に入学してからすぐ財布を落としちゃったんです。中にはクレジットカードや百万円を入れていたんですが……」

「あっ、もしかして前に学校で拾った財布の持ち主って!」

「そ、そうです! それ私です!」



 思い出した。授業終わりの放課後にジュースを買いに行こうと、自販機がある購買に行こうとしたんだよな。そしたら近くのテーブルの下になんか大きく膨らんだ財布があって、どうしてここにと思いつつも拾ったんだ。財布なんて貴重品を落として困っているに違いない、もしかしたら学生証が入ってるかもしれないと思い仕方なく財布を開いたんだ。


 すると、中にクレジットカードと共に百万円の分厚い札束が入ってたからびっくりして凄い印象に残ってる。


 もちろん怖くて職員室にすぐ届けたのだが、それの持ち主が今目の前にいる後輩の少女……?

 え、何この娘もしかしてお金持ち?



「あ、遅ればせながら私、先輩より一年後輩の朱堂すどう佳那子かなこと言いますっ! その節はありがとうございました!」

「は、はぁ……朱堂さん」

「朱堂だなんて他人行儀な呼び方ではなく、是非とも私のことは気軽に佳那子かなこと呼んで下さいませ!」

「い、いやぁ、流石に初対面の女の子を下の名前で呼び捨てにするのはちょっと……。このまま朱堂さんでいいか?」

「もう、やはり先輩ったら恥ずかしがり屋さんですね……。ま、今はそれでいいです」



 そう言って朱堂さんは赤らめた頬に手を当てながら身体をくねくねとさせた。後ろに結んだポニーテールがぶんぶんと揺れるが、彼女はそのまま言葉を続ける。



「お恥ずかしながら、お財布を無くしたのをマンションに帰宅してから気が付きまして……。慌てて家の者に連絡したら、数分後に私のところに届けてくれたんです。それでどちらにあったのかを訊ねたところ、親切な二年の先輩が職員室まで届けてくれていたというではありませんか!」

「あー、あはは……確かにそんなこともあったなー」



 言えない。正直一、二枚くらい抜き取ってもばれないだろうな、でもこんな大金持ってる人なんだからもし抜き取ってもあとで怖い黒服の人とかに拉致されたら怖いからそのままにして職員室に持っていこうかな、とか結構グレーなことを葛藤しながら職員室に届けたことなんて言えない。



「ち、因みに財布の中は無事全部入ってたか? 一応そのまま届けたんだが……」

「あぁ! 家の者が確認したところ、何故かたった十万円だけが無くなっていたみたいですが、届ける際の報告でちゃんと処理した・・・・・・・・と言っていました!」

「しょ、処理!? なんの!?」

「? え、お金ですよ? 渡されたときしっかり財布の中に十万円補充されてましたし」

「お、おう。そうなのか……」



 ……ほ、本当にそれだけか? その家の者が人が"処理した"っていう言葉に犯罪臭がプンプン漂うのは気のせい?


 今年赴任してきたばかりの三十代男性教師が一身上の都合とかである日からぱったり学校にこなくなったのはそれと関係がある訳じゃないよな!? な!?



「そもそも補充することを処理って言わなくない……?」

「先輩? どうして震えているんですか?」

「イヤ、ナンデモナイデス」

「ふふっ、そんな先輩も可愛い……!」



 なんとなく突っ込んではいけないような気がすると思った俺は視線を彷徨わせる。朱堂さんは綺麗に、朗らかに笑うと自然に言葉を続けた。


 そう、まるで当たり前だといわんばかり自然に。



「それで―――調べることにしたんですっ!」

「……え?」

「先輩の名前、容姿、血液型、身長、体重、誕生日、交友関係、好きな物、苦手な物、趣味趣向、得意教科……あとは身体を洗う時どこから先に洗うのか、シャンプーは何を使っているのか、どういう女性が好みなのかとか、それに―――」



 表情をキラキラさせた彼女は、まるで歌うように可愛く指を折りながら数えていく。そのどれもがすべて、調べ上げたであろう俺のことに関すること。


―――自分の部屋の間取りや置いてる家具や物。

―――直近一週間に自分の口に入れた食べ物の事細かな詳細。

―――前におもしろ半分で数えた自分の身体の黒子の数。


 彼女の口から出る一言一句、俺に関することすべてが当たっている。


 ……まて、待て待て待て。


 ぞわり、と途端に血の気が引くような感覚が身体を襲う。俺や俺の身近の人くらいしか知らないことをどうして目の前の初対面の女が知っているのか。


 何故、どうしてという疑問が頭の中を錯綜する。告白かな嬉しいやったーと思って屋上に来たのに、思いがけない事態に頭がぐるぐる回ってしまって俺は固まるしかない。


 彼女が話しているのをよそに、俺がようやく口をひらけたのは一言だけだった。


 

「どうして……」

「どうして?」



 言葉を中断した少女は微笑んだまま首を傾けると、困惑した俺の瞳をジッと見てこう続けた。



「好きな人を知りたいと思うのは当然じゃないですか」

「だからって、それはやりすぎだろ……」

「やりすぎ? いったいどこがですか?」

「…………は?」



 彼女の返事に対し理解が追い付かず、十分な間を空けてから俺の口からは間抜けな声が洩れた。


 そして、この目の前の少女は先程とは変わらぬ笑みを見せながら言葉を紡ぐ。



「一般的に一目惚れは軽いイメージを持たれがちですよね。でも私が先輩を好きになったのは事実なんですから私たちの将来を見据える上で先輩を知るのがやりすぎだとは決して思いません。あ、そういえば先輩って甘い物が好きなんですね。監視カメラや盗聴器で分かりましたがよくお家ではクッキーやチョコを食べているようですし、先週の土曜日には駅前のカフェで生クリームがたっぷり乗っているチョコファッジパフェを注文して美味しそうに召し上がっていました。ふふふっ、もう先輩ったら鼻の先にクリームを付けちゃって可愛かったです。でもあんなに食べたら太っちゃいますよ? まぁ私は痩せていようが太っていようがどんな先輩でも愛する自信がありますが。あ、それでですね先輩、話は変わりますが子供は何人欲しいですか? 勿論先輩が望むならサッカーチームが作れるくらい産むつもりですが私の理想は男の子二人に女の子一人ですね。きっと先輩との子供なら格好良く、そして可愛らしく育つに違いありません。えへへ、それに実はもう名前も考えてあるんです。何人でも産んで良いようにノート5冊分ほどぎっしりとその名前を書き込みました! 先輩の未来の妻なのですから今のうちに先輩との将来設計を立てるのは当然ですよね。先輩の情報を調べて、日常を観察して、先輩の新たな一面を発見した時にはすごくドキドキしてすっごく嬉しい感情が胸いっぱいに広がったんです。こんな気持ち初めてでした。これは私が先輩のことを本気で好きっていう証ですよね? 絶対そうです。そうじゃないといけないんです。運命、そうこれは運命なんです! 先輩が私の財布を拾ってくれて私が貴方を好きになったときから、いいえこれはもう私と先輩が生まれたときから赤い糸で繋がっていたといっても過言ではないでしょう! 先輩、先輩先輩先輩! 好きです大好きです先輩私じゃ駄目ですか私にしておきましょう!? あぁすみません取り乱しました、落ち着きましょう私。でもでも自分でも言うのもなんですが私って可愛い方だと思うんです。運動も勉強もこれまで一生懸命頑張ってきたおかげか成績は学年一位ですし実家だってお金持ちなので将来的に先輩に迷惑を掛けることだってない。他の男から言い寄られたことは何度もありますが微塵も興味が無く、勿論誰とも付き合ったことが無いので処女です! それで、その……結婚はいつ頃しましょうか?」



 口早にそう言って恥ずかしげに頬を染めて潤んだ瞳でこちらを見つめる少女だが、一方の俺は口をぱくぱくと開閉するだけで戸惑うしかない。


 いつの間に自宅に監視カメラや盗聴器を仕掛けられていたのか、いつから監視していたのか、そもそも付き合う過程をすっ飛ばして何故いきなり子供や結婚というワードが出てきたのか。それ以外にも気になる点はあるが、なにより快活な性格が伺える彼女から紡がれる重い愛情表現というギャップに驚きを隠せないのである。


 気が付くと、じっとりと汗を掻いていた。人生初の女の子からの告白と浮かれていた熱は既に鳴りを潜め、むしろ心の奥に冷たい鉄球を押し込まれた様な鈍くて苦しい感覚に襲われる。


 いつまでも返事をしない俺に気を遣ったのだろうか、彼女はにこりと笑みを深めて口を開く。



「結婚が嫌なら、とても残念ですが彼女からでも良いです。私、こう見えてとっても一途なんですよ? 私なら、先輩のことをたくさん知っている私なら。きっと先輩の理想の彼女になれると思うんです」

「ひっ」

「安心して下さい、決して他の男に目移りしたり裏切ったりなんてしませんよ? せぇーんぱい?」



 一歩、また一歩と少しずつ近づいてくる。

 彼女としては俺を安心させたいのだろうかむしろ逆効果だ。夕焼けの中、にこやかな笑みを浮かべた朱堂さんはどことなく不気味で、思わず力が抜けて尻もちをつく。


 に、逃げなきゃ……!


 どこへ向かったらいいのか分からない。だが一刻も早くこの場から去らなければいけないという恐怖にも似た感情に支配されている以上、このままジッとしているわけにもいかなかった。


 逃げる為に自らを奮い立たせようと頑張って足に力を入れていると、



「―――ふぎゅっ」

「…………へ?」



 朱堂さんは綺麗に顔面からすっ転んだ。


 地面はコンクリートなので、きっと砂利で滑ってしまったのだろう。大変痛そうで不憫ではあるが、ここで声を掛けると余計な情が移ってしまう可能性がある。怪我をしていないか心配だが、これは神様が与えてくれた逃げるチャンスと見ても良いのだろう。


 この隙に立ち上がるも、ふと視線を下げると何やらA4用紙が折り畳まれたような白いメモ紙的なものが地面に落ちていることに気付く。


 なんだろうか、これは?


 本来ならば逃げるべきなのだろうが、俺はそれがどうしても気になってしまった。



「いたたぁ……あ、そ、それは!」

「えーっとなになに……」



『☆先輩に告白する三か条☆


 一つ、財布を拾ってくれたお礼を言う!

 →ここで勇気を出して下の名前で呼んで貰う(←ココ重要)&お茶に誘う!!(*'ω'*)


 二つ、好きになった理由を伝えて私の誠実さをアピールする!

 →一目惚れと伝えたら軽い女とみられる可能性大!! 隠し事はせずに先輩の好みに対し理解を示しつつ将来のことを交えて愛情をぶつける!!(∩´∀`)∩


 三つ、最後は押し倒しちゃえ!

 →既成事実


                 以上、頑張れ私!!ファイトだよっ!!』



「…………なにコレ」

「あ、あぁ……っ、読まれちゃいました……。最後に限ってどうしてこう私は失敗してしまうのでしょうか……」



 地面に手をついて項垂うなだれる朱堂さん。


 どうしてだろう、先程まではあんなに恐怖にも似た感情を抱いていたのに、こんな哀愁漂う姿を見てしまっては憐憫の感情しか抱けない。


 ……もしかしたら、この子は案外ドジなのだろうか?



「ううっ、いつだってそうです。日常で普通に歩いていても何もないところで転んじゃいますし、学校のテストでは完璧に問題は解けても名前を書き忘れることだってあります。他にも就寝前にちゃんと確認して鞄に入れた筈が違う科目の教科書を間違って学校に持ってきた事もありますし、私服を前後着間違えた時だってありました……」

「お、おう……」

「さっきだって転ばないように気を付けながら先輩に近づいていたのにこの始末……。うぅ、この朱堂佳那子、一世一代の告白なのに不覚でした……」

「あー、えーっと……元気出しなよ?」



 確定、この娘ドジだ。


 どう声を掛けたら良いのか分からなかったので疑問形になってしまったが、人生はまだまだこれからなので早く元気を出してほしい。


 未だ地面に手をついている彼女に手を差し伸べて立ち上がる手助けを行なう。



「ありがとうございます。やっぱり先輩優しいです……!」

「そ、それはどうも」

「―――ハッ、これはもしや先輩なりの告白の返事でオーケーという意味でしょうか!?」

「ちゃうわい」



 いや解釈が強引に過ぎる。


 むー、としょぼくれたように口を尖らせている朱堂さんだが、そんな彼女を見ていたらいつの間にか毒気を抜かれていることに気付く俺。

 先程まで焦るばかりで全く余裕の無かった心が今ではすっかり落ち着いている。


 はぁ、と呆れたように息を吐くと、ふと何やら俺の視界の端で違和感を覚えた。ちらりと軽く見てみると……、



「えぇー……」



 いつの間にかサングラスを掛けた黒服の女性数人が並んで『断れば絶許♡頑張れお嬢さま』という部活で応援する際によく見掛ける様な横断幕を掲げていた。


 きっと彼女らこそ朱堂さんに財布を届けたという家の者なのだろう。これまで朱堂さんがうっかりをする度にずっとフォローし続けてきたに違いない。

 心なしかそのサングラスの奥に宿る眼光が、『断ればわかっているな?』と訴えかけているように感じるのは気のせいか。


 あの、と小さく声が聞こえたので正面に視線を戻す。



「私じゃ、ダメですか……?」

「あぁいや、ダメというかそれ以前の問題というか……。そもそも俺、朱堂さんのこと何も知らないし……」



 ラブレターによる呼び出しで初対面の女の子から屋上で告白される、というシチュエーション。嬉しいことには変わりないが、初対面の相手に告白されてはいそうですかよろしくお願いしますと簡単に了承するほど俺は単純ではないつもりだ。


 それにいくら彼女が美少女だとしても、百歩譲って過激ともとれる愛情表現ならばまだ許せるが、監視カメラや盗聴器でプライベートを覗き見するような相手を恋愛対象として見るのは正直難しい。


 いや本当、それさえなければなぁ……。



「うーん……、悪いけど返事は保留にさせて貰っても良いか?」

「ほ、保留ですか!? それは、前向きに検討して頂けるという事でしょうか……?」

「俺の家にある監視カメラと盗聴器を全部外してくれたら考えなくも無い」

「今すぐ外しますっ!!」

「あ、いいんだ!?」



 朱堂さんは若干食い気味に返事をすると、すぐさまスマホを取り出して「至急先輩のご自宅に仕掛けた監視カメラ、盗聴器を回収して下さい!」とどこかへ連絡している。


 俺の言うことを素直に訊いてくれたので、どうやら朱堂さんは言えば分かるタイプのようだ。そしてそのまま通話を切ると、ポニーテールを振り乱しながら勢いよく俺に向き合った。



「今家の者に全て外すように伝えました! こ、これで考えて頂けますか!?」

「…………はぁ、わかったよ。前向きに検討する」

「ほっ、良かったですぅ~……!」

「あのさ、一応言っておくが、朱堂さんが俺のことを知っているとしても俺は朱堂さんのことを何も知らない。返事を保留にしたのは少しでも君を知りたいと思ったからだ」



 なんの取り柄の無い俺にラブレターを用意して、勇気を出して告白までしてくれたのだ。その想いを無下にして告白を断ってしまえば格好が悪いし、何より上辺だけを見て判断してしまったという後悔が残るだろう。


 ―――少なくとも、俺はしっかりと向き合って知っていきたい。



「……とりあえず、一緒に帰るか?」

「…………ふぇ?」

「ほら、もう日も暮れるし朱堂さんが俺だけを知っているのはフェアじゃない。帰り道にでも、少しでも多く朱堂さんのことを教えて欲しい」

「あ、あぅ……その…………」



 両手を頬に当てて、あわあわと忙しなく視線を彷徨わせる朱堂さん。


 顔を赤らめているところを見るに、どうやらこの後輩は自分から積極的にアタックしてきた割りに、その相手から歩み寄られるとめっぽう弱いらしい。


 地面に夕陽で照らされていた俺と朱堂さんの影が、同じ大きさに伸びていた。


 しばらくすると、綺麗な唇をギュッと噛み締めた朱堂さんは俺を真っ直ぐに見つめて口を開く。



「あの、末永く、よろしくお願いしますね……?」

「いや気が早いわ」



 彼女の真剣な表情で紡がれた言葉へ、呆れながらもツッコむ。


 少しだけ愛情表現が重い、実はドジッ娘な彼女からの告白。これまでの平穏な高校生活が一段と騒がしくなりそうな予感に、俺は屋上の入口の方へと身体を翻しながら思わず笑みをこぼしたのだった。





































「―――逃がしませんよ、せぇ~んぱいっ♡」

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