第11話 あやつじリスタートepilogue
これは後日談だ。
備忘録と言ってもいい。
こうして私はこの街にやって来た。
不思議な世界に飛ばされ、何が何だかよく分からない内に異能力に目覚め、そしてこれまた理由不明……何となくの当たりはつくのだがこの際それは置いておくとして、戻って来た。
異世界転生物ではないので、戻って来れたのは当然だろう。でなければジャンル詐欺だ。詐欺はいけない。絶対に。
そうだ。一つ忘れていた。
あの日、大鏡の中の異世界に入った日。私がサタンを覚醒させた日。その日の物語にはまだ続きがあったのだった。
あれは家に帰ってきて、とてつもない疲れからかすぐにベッドに横になって寝てしまった後だ。
私は夢を見た。
そこは電車の中だった。
車窓からは太陽の明かりが差し込んでいるが、不思議なことにここがどこかは分からない。外が見えないのだ。
それに電車とは言ったが、それは普通によくある電車ではなく、オリエント急行殺人事件何かを想起させるようなそんな電車だ。汽車と呼んだ方が適切な気もした。本当に蒸気機関で動いてるのかは不明だが。
そして私がいる車両は食堂車だった。バーカウンターと、通路を挟み列上に幾つか並ぶテーブル席。
その中の一つの席に彼はいた。鳩頭の性別不明、正体不明の存在。ハンプティダンプティ。懐かしき紅茶の香りがした。
サタンを覚醒させた時に、彼から貰った卵が割れたのは偶然ではないはずだ。つまりはあの異世界や化け物、私が発現した能力についても知っているはず。
「ホッホー! またお会いしましたな」
「……そうですね」
「ふむ、何やら疑われている様子。ですが私はどちらかというと貴女の味方ですよ」
「それを信じろってのが難しい話なんですけど。そんなことより色々聞きたいことがあるんですが」
「承知しておりますホッホー。私はその為に会いに来たのですから」
鳩頭に促され、彼と対面する形で席に座る。すると彼は私の分も紅茶を入れた。鳩頭の素性は知れないが、紅茶に罪はない。私はすぐにそれを飲んだ。やはり美味い。
「それで、まず何から聞きたいですかな?」
「あの異世界は何なの?」
「あれは人の心を映す鏡の中に出来た異世界です」
「人の心?」
つまりはあれは誰かの心の中ということだろうか。あんな暗くて物騒な森が。
「人の心を映す鏡っていうのは? 何でそんなものが存在してるの」
「鏡は人を映しますが、より強い心の持ち主の場合、その心を映し出した異世界を中に生み出すことがあるのです」
「……」
イマイチ納得できない答えだが、ようはそういうものだから仕方がないという話なのだろう。人は宇宙の全てを知っている訳では無い。常識とかは一旦捨てた上で話を聞くべきだと改めて思った。
「そして苦境の中で戦う覚悟を決めたことで貴女は力に目覚めた。それこそがその人の戦う覚悟を悪魔の形を借りて召喚する秘術、イデア能力。」
「イデア能力……」
「貴女に宿ったイデアはサタン。怒りを宿す暴虐の王。あれが貴女が思う強さの形ということですな」
「……」
つまりサタンは私の中の心の一部の表れということだ。しかしよく分からないものだ。私は私の中にあんな怒りが潜んでいるとは思わなかった。ストレスを貯めやすい質ということだろうか。
「能力のことは分かったよ。でも何で私がそれを扱えるの。違うな。何で私に目覚めさせたの」
鏡の中に入ったのは事故の面が多いけども、サタンを召喚できたのはこの鳩頭から貰った卵のおかげだ。
「貴女に能力を扱う才能があるからです」
「才能……」
「あの卵は可能性を与えるだけであり、力を覚醒させるアイテムではありません。それだというのに貴女は覚醒する前から僅かですが力を扱っていた」
「貴女には苦難へ立ち向かう力があります。私はそんな貴女のこれからの旅路を楽しみにしているのです」
と、ここで私の視界がだんだんと暗くなっていった。急激に眠くなったのだ。
「時間ですね。それではまた、お会いしましょう」
いつか聞いたような言葉と同時に私は眠りについた。
結局のところ、彼が私に何をさせたいのかは分からないのだった。
つまるところ今回の物語は一方的に謎展開がやって来るだけの物語というのがオチである。酷いオチだけども、まあ私に友達が出来たことだけは良かったと言ってもいいかもしれない。
悪魔刈りの少女 Naka @shigure9521
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