種々の香料を練り合わせたもの。
ライブステージ。数と、熱意だけが異常に無駄に膨れ上がった無能な人間どもの巣窟。
私もその一部だ。心外だが。非常に、非常に心外だが。
親友から郵送でバックステージパスを受け取り。
ユニットの皆さんとも少し会話をして、応援の意を伝えて。
アイドルとしての親友を間近に感じて、ああ、遠くなったんだな、と思い。
「歌で全員殴り倒してやる。可愛く媚びるやつらを全員泣かせてやる」
親友にそう耳打ちされて、ああ、近いままだ、と思い。
「私から見れば、お前も『媚びたやつら』だから」
「あはは、そうだね」
「せいぜい可愛く媚びてきなよ。吐き気を催すくらいにさ」
応援なのか、罵倒なのかよく分からないことを親友にだけに伝えてやった。
人々はただ一つの目的のためにこの場所に集まる。
新人アイドルたちがしのぎを削るという、大きな祭典。その勝者が決まる瞬間を目撃するために。
とんでもない、人口密度だ。
そして、私はその人口密度を無駄に増やす人間の一人となっていた。
無駄にサイリウムなんか持って。
無駄に声を張り上げて、飛び跳ねて、腕を振って。
ひたすらに、親友のユニットを応援した。
その応援はきっと、アオコの一粒くらいにしか親友には見えないだろう。
でも、アオコが密集すれば厄介にはなるだろう。
その一粒一粒がやたら固くこびりつくようなやつなら、よりもっと厄介になるだろう。
厄介なアオコを削り落とさんとばかりに、応援の力は親友たちのパフォーマンスとして返ってくる。親友の声、拡声されてステージ中に響き渡る。
ずん、と深く心に突き刺さる。
さんざん媚びろと言ったはずだ。無視しやがった。真っすぐだ。力強い。
……なのに、吐き気がした。
親友は、強すぎる。訴えかける力が強すぎる。逆に、引く。
でも、そんな強すぎる親友の声を他のユニットメンバーの声が包み込んで飽和する。ちょうどよくなる。そのくらいでいい。そのくらいがいい。吐き気が収まる。
それぞれの個性が統合して、一筋の光が強く放たれる。
おかしい。
至上のパフォーマンスじゃなくて、ある程度の未熟をはらんだものを私は求めていた。
……何でだ。私も、染まったのか。アイドルというものに。
あはは。今更だそんなの。私はとっくのとうに染まってるんだろう。
あのCDショップでのミニライブのときから。
私の肺に血液を落とされてから、ずっと、ずっと……。
非常に、とても、激しく心外だが。
二酸化炭素のユニットは、ミニライブのときとはまるで別ユニットのようなパフォーマンスを見せた。
透明感ある音楽に、ほんのりと、しかし鮮やかな色味が見えた。
勢いだけの踊りじゃなくて、背中に翼が見えるような気さえした。
顔がいいだけじゃない。……輝いていた。
二酸化炭素の血の色の瞳と髪。ライトに照らされ、赤く燃えていた。
あれはもう、静脈の血の色じゃない。吐き出すべきものではない。
酸素を運ぶ、動脈の血の色だった。
結果、勝ったのは二酸化炭素のユニットだった。
親友は負けた。あれだけのパフォーマンスをしていて、全く印象を残せなかった、らしい。
親友だって頑張ったんだ。少なくとも私には何かものすごく大きなものを残した、そんなステージだった。
……何で勝負なんか、付けるんだ。何で優劣なんかつけるんだ。人の、努力に。
人目をはばかることなく号泣する親友を抱きとめる。
遠くで二酸化炭素……いや、酸素の視線を感じながらも。
私は頭をなでながら考えた。
ああ、やっぱり、私は。
私は、アイドルが、嫌いだ……。
私はアイドルが嫌いだ。 NkY @nky_teninu
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