7
あの凄惨な夜から一週間が過ぎた。
あれから毎晩零時の深夜に学校へ呼び出されてはあくせく様々な化け物どもを葬ってきた。
大蛇のようなものから見たこともないUMAまでいた。
最初は京極からは狩る対象について何も教えてくれなかったのでいきあたりばったりで殴り飛ばすばかりだったが、どうやら敵対する相手によって適切な対処法なるものがあるようで一週間たってようやく敵のことを教えてもらえるようになった。
そんなこんなで毎晩毎晩朝まで一睡もすることなく夜勤に励んできた。
こんな生活が続けばすぐに身体を壊してしまうと思った僕は京極に休暇の申請を申し出たが即刻却下されてしまった。
なんてブラックなんだこんな体制でやってたらみんなやめてくぞ。と猛抗議したのだが、こう言い返されてしまった。
「それで?あなたはこの一週間の間、一睡もしてないと言っているけれどなにか身体に不調が出ているのかしら。」
よく振り返ってみる。
「……確かに、特に不調をきたしているというわけではないし。ていうかよく考えてみるとここ最近眠っていなくともなにも問題はないな。どういうことだ?」
「なに、簡単なことよ。前にも言ったように、八重桜君、君は既に人ではないからよ。例の再生能力からするに明らかに人間よりも上位存在でしょう。それは良くも悪くもね。だから睡眠自体必要でないのよ。」
「なるほどな。いや待て。ならばお前はどうなんだ。お前は僕とは違ってまっとうな人間じゃないか。寝ているのか?やってられないんじゃない?」
「大丈夫よ私は。しっかりと、寝ているもの。」
まあ私もあまりまっとうな"人間"ではいけれど……
途中、小声でうまく聞き取れなかった。
「い、一体いつ寝てるんだ。そんな時間あったか?」
京極は何を馬鹿なこと言ってるのといった顔で、小馬鹿にしているのがみてわかる。
「授業中よ。誰にもバレないようにしっかりとねているわ。あいにく授業自体はあまりにも簡単すぎて暇で暇で仕方ないのよ。」
「あんなに真面目にいるやつがか?それが本当ならお前は大女優が狙えるよ。今すぐ転職したほうがいい。」
つまり、僕は寝なくても問題なさそうで、京極に関しては完全に昼夜逆転で夜勤用の身体が仕上がっているためなにも問題はないと。
「問題ないわけがないじゃない。夜ふかしはお肌の天敵なのよ。私が日頃どれだけ気を使ってると思っているの。」
彼女には彼女なりに不満もあるようだ。
身体はいいとして精神にはだいぶくるものがある。
何度も経験してもあの化け物を見た途端、殺らなきゃという謎の使命感に襲われるのはなんとかしたいものだ。傍から見るとどれだけ仕事熱心なやつなんだと思われてしまうほどだ。
そうこうしているうちに次の授業が始まりそうだ。
急いで準備に入る。
相変わらず京極はクールキャラがブレることなくクラスでやっていってるため僕以外にまともに話しているのなんて見たことがない。
そういうとこはなんとかしてやりたいなと思う。
だいたい八月一日あたりをあてがってやれば大丈夫だろう。今度とりもってやるか。
_________________________________
昼休みに入ってすぐ、周りを見渡し京極の姿を確認するが既にその姿はない。
いったい昼休みにいつもどこにいってるんだ。
あんなに泣き目で寂しいだとか言っておきながらやはり一人でいたい時間も必要なのだろう。
団体行動は苦手のようだし。
仕方なく僕は一人で購買へ行き、昼ご飯を買った。一人で昼休みを謳歌しようとしている自分も大概だとおもうが。
買ったご飯を持ちながらどこで食べようかと周りを見渡し場所を探していると、八月一日が珍しく購買で買ったパンを持ってウロウロしているのを見かけた。
この学校で現在最も仲のいいと言っても過言ではない(他に友達がいないだけ)あいつでも誘って飯を食うかな。
京極のこともあるし、いろいろ話したいしな。
「おい、そんなとこでなにウロウロしてんだ。その制服と愛らしい顔がなければまさに不審者だぞ
。」
「うわ!ってなんだ八重ちゃんか。驚かさないでよ。」
「なんだ、お前が購買で買うなんて珍しいな。どうしたんだ。」
「ええ。そんなことないよ。たまには気分転換も人生には必要なのです。だけど…」
いつもどおりバカがつくほどにテンションの高いやつなのに急に元気がなくなった。
こういうときはいつもお得意のなにかやらかしたときのテンションである。
「それで?いったい何をなくしたんだ。」
「なくしてなんかないよ。今回は。特になにもないよ。」
今回は?前になにかここでやらかしたんだろう。
「本当か?あまりお前の行動は信用ならんからな。まあそういうんなら信じよう。」
八月一日のテンションがいきなり下がった理由も知りたいとは思ったが悩めるお年頃。言えないことや言いたくないこともあるだろうからあまり突っ込まないでおこう。
「で?どうだ、昼飯どっかで一緒に食わないか?相談したいこともあるんだ。」
「うん。いいよ。実は私あまり購買で買って食べることないからどうしようかと思ってたの。」
というふうに八月一日を誘い、外の日差しのいいベンチに行って昼食を取ることにした。
「それで?相談したいことってなにかな?私、頼りにされることなんてあまりないから嬉しいわ。泥舟に乗ったつもりで相談なさいな。」
胸のあたりをポンッと誇らしげに叩いた。
その衝撃で揺れる2つの聖なる丘を僕は見逃さなかった。脳内に焼き付けておいた。
泥舟ってお前。やはりアホの子には相談しないほうがいいかもしれない。自体を悪化させるだけのような気がしてきた。
だがしかし、こういう天然をあのポンコツクールにぶつけることで多少緩和されることを願って話し始める。
「ああ、そのことなんだが。一週間前に転校してきた京極をしっているだろ。」
「もちろん知ってるわ。あの美人で寡黙なお姉さま系で八重ちゃんと仲のいい人ね。」
あいつのことはクラスではそんなふうに見えているのか。なんともまあ……まあいいか。
「その京極のことなんだが。あいつは寡黙というよりかは過度の人見知りなんだ。別段喋らないというわけじゃないんだ。なんというかあまり学校自体になれてないようだから…」
「つまり私に京極さんと仲良くしてもらえないか。というのがいいたいのよね。」
頭は弱いくせにそういうところはしっかりとしている。まあ察しが良くて助かる。
「そのとおりだ。頼めるか。」
「うーーーん。それ自体は別にいいし、何なら私も京極さんと仲良くなりたいと思っていたのだけれど。」
「なんだよ。条件付きか?」
「そんなんじゃないけど。一つだけ聞かせてほしいの。」
「何を?」
八月一日は少し覚悟を決めたように大きな声で。
「八重ちゃんは京極さんとなんでそんなに親しいの?」
少々顔を赤らめて言った。
そんなに覚悟して言うようなことか?
「えっとー。」
割と答えに困る質問だ。
「やっぱりお二人はそういう仲なのかなー?」
そういうッてどういう仲だよ。
「いや違うぞ。あーーそうだ。ただ単に小学校が一緒だったんだよ。何かと世話焼いてるってだけだよ。」
世話を焼いてるのか焼かれているのか。
八月一日は納得したようで。
「なんだー。そうなんだー。納得納得ー。…よかったー…」
いったい何なんだ。
「うん。だいたいわかったから任せてよ。私にかかればクールビューティーの京極さんもイチコロよ。」
「まあやってくれるようで何よりだ。とりあえず任せたぞ。」
「はいよー。任された。」
話をしながら昼食を終え、次の授業が始まるまでまだしばらくある。
そんなときにふと目に入ってきたのは小さな男の子だ。
今僕らが座っているベンチの近くに高校ではあまり見受けられない小さな子供がいた。
どうしたんだろう。迷子か?
勝手に身体が困っている人の方へ向いていく。悪い癖だ。
「おい、どうした?こんなところで迷子か?」
「うん。お母さんとはぐれちゃった。」
三者面談かなんかで母親に連れてこられたのだろう。
「大丈夫か?お母さんがどこにいるかわかるか?連れてってやるぞ。」
「たもくてきしつ?って所でめんだん?をやるっていってたよ。」
「八重ちゃん。ちょうど私職員室に呼ばれてるからそのついでに多目的まで私が連れて行くわ。」
こういうところが本人は自覚してないが頼もしいところだ。
「いの一番に困った人に声かけるなんてやっぱり八重ちゃんは優しいね!」
ニッコリと笑った。
じゃあ行ってくるねと男の子の手をひき元気よく行ってしまった。
少し違和感が感じられた。
「あれ?あいついつも職員室に呼ばれて叱られてるけどその呼ばれてることそのものをもとより忘れてさらに怒られるのが普通じゃなかったか?」
日常とは違うことの運びに違和感を覚える。
まあそれも八月一日が成長したということなのかな?学年が上がったから少しはあいつの忘れっぽいのもマシになったのかもしれないな。
そう僕は思うことにした。
その違和感は間違っていなかったのだと後で思い知ることになる。
__________________________
先程まで女子校生に手を引かれていた少年は無事多目的室まで送られた。
一人でいる彼はどこか不敵な笑みを浮かべ
「ふーーん。あれが八重桜雅ね。随分と仕上がってるじゃないか。わが娘のことも心配だし。もうちょっと観察が必要だなー。」
「いやーーー楽しみだな。こんなに楽しみなのは久しぶりだ。」
「さて、少しずつ動いていくとするかね。」
動き出す。物語が動き出す。
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます