第3話 新たなる希望
「ハニー・トライアングル!」
とどめを刺そうとブッカーンが近付いた時。
突如アベルの身体を包む三つの光。
強力な結界が生じる。
空を割って、舞い降りる五つの光。
「貴様たちは!!」
『新たな希望に導かれ!
我らホーリー・ルナ只今参上!』
ダーク・コロナに対抗するため民に選ばれし新たな五人の戦士。
「情けないやっちゃなぁ。英雄アベンダーズが聞いてあきれるわぁ」
両手にナックル輝く方言交じりのトール。
「ここは」
「私たちに」
『任せてください!』
声を合わせて剣を構えるティーンエイジャーの双子ヒロとナオ。
「あなた達では役不足よ。家に帰ってソファでコーヒーでも飲んでなさい!」
空では羽を背負った美女レンが弓を構え敵に狙いを定めている。
「貴様たちの助けなどいらん!」
地面を這いつくばったまま叫ぶアベル。
リーダーの白魔術師ユリが穏やかな声でアベルに語り掛ける。
「今は緊急事態です。ちっぽけなプライドなんて捨てて互いに力を合わせなければ」
「たかが村の戦士に何が出来る!」
「私たち一人一人は弱くとも、皆で力を合わせれば希望を見いだせる!さぁ!」
アベルに手を差し伸べるユリ。
「フハハハハハ。雑魚が何人集まろうと同じ事!まとめて消し去ってくれるわ!」
二人に放たれる暗黒の雷撃。
ユリの持つホーリーロッドが光を放ち敵の攻撃を相殺する。
「さぁ!」
再び手を差し出すユリ。
力なく項垂れるアベル。
その隙にも一歩また一歩と敵が忍び寄る。
「ジャスティス・アロー」
レンが光り輝く一閃を放つ。
ブッカーンの頬を掠める正義の弓矢。
「やってくれましたね…」
不敵な笑みを浮かべるブッカーン。
トールがたまらず口を挟む。
「おい。おっさん。よー聞いとけよ。お前らが基地で無駄な会議してる間に、この星は侵略されていっとってん。働くだけ働かされて、どんだけの民が死んでいったか、わかってるか?そこで白目剥いて寝転んでる奴らも、税を私物化して侮辱しやがって!何がお肉ソードじゃ!何がマスキング・プロテクターじゃ!なんも役に立たんやろが!」
「お前たちが民にしてきた事は許せない」
「だが俺たちは民を守る為にここに来た」
『愛する人を守る為に!』
ヒロとナオも黙ってはいなかった。
「貴様たちに何がわかるっ……」
アベルが差し出された手を払いのける。
「本来ならばこの戦いはあなた達の役目。あなた達には民を守る責任がある。ヒーローならば使命を果たしなさい!」
レンが再び弓を構える。
「フハハハハ。馬鹿どもめ。お前たちのその互いを憎みあう心が我がエナジーを増幅させているのがわからんのか」
ブッカーンが両手を空にかざすとダーク・コロナから暗黒エナジーが降り注ぎ、大きなブラックホールへと変わっていく。
「お前たちに良い事を教えてやろう」
一人、また一人とブラックホールに吸い込まれていくアベンダーズ。
呆然と見つめるアベル。
「我がチャンドラー大陸は貧しい国だった。広い国土には死にぞこないの老人や病人があふれ、街にはドラッグに溺れた若者と浮浪者が徘徊する。そんな役立たずどもに生きる価値があるのか?そんな国を呪ってなぜ悪い?私は考えた。太陽の黒点が活性化する千年に一度の夜。新月の闇の中で。どうしたら役立たずどもをこの星から排除できるのかと!この力は、ダーク・コロナが我が願いを聞き入れし証拠!腐った存在など全て消し去ってくれるわ!」
「アキエ!」
妻アスペルアキエが吸い込まれる瞬間。
アベルはその身体を抱きしめていた。
「ありがとう…」
アスペルアキエは最後にそう呟き、闇へと飲み込まれていった。
「もう…終わりだ…」
アベルの頬に鋭い衝撃が走る。
「あなたが諦めてどうするの!今ここで戦わなければこの星は終わる!」
穏やかだったユリが厳しく叱責する。
「もう俺は仲間を失った…愛する者も失った…」
「あなただけじゃない!今この星の人たちは皆、愛する者を奪われているの!」
アベルの頬に涙がこぼれる。
ユリが手を差し伸べたその瞬間。
暗黒エナジーがアベルを襲った。
「ぐわぁぁぁぁ」
「美しい。実に美しい。お前のその失望。我が贄となるがいい」
ブラックホールへと吸収されるアベル。
「これだ。これこそ我が求めたパワー」
ブッカーンを飲み込むブラックホール。同時に辺り一片を吹き飛ばす爆風が起こった。
「危ない!ハニー・トライアングル!」
ユリが呪文を唱えると、三角形のバリアが五人の戦士を包み込む。
「ダーク・チケッツ」
爆風の中から打たれるカーンの手裏剣。
「スノー」
「パウダー」
『ストーム!』
ヒロとナオが剣を合わせると吹雪の盾が舞い起こる。
「ビッグ・マウス・ショットガン!」
無数の光の弾を放つトールのナックル。
「ダーク・プロテクター」
漆黒のリボンに包まれるブッカーン。
『これは!』
「どうだね。生まれ変わったダーク・アベンダーズのパワーは!」
悠々と地上に降り立つブッカーン。
襲い来る漆黒の嵐。
ユリが静かにロッドをかざす。
「この星は必ず守って見せる」
空に昇る一筋の光。
ユリが祈りを捧げると空を覆っていた雲がはがれ、月明かりの中に幻影が現れた。
世界の人々に呼びかける。
「この星を愛するみなさん。どうか私に力を貸してください。この星を守る力を!」
五人が声を合わせる。
『愛する人を守る力を!』
『ルナティック・ゴールデンシャワー!』
大地に降り注ぐ光の渦。
その光は剣となり盾となる。ある者は癒しを奏でるバイオリンとなり、歴史を紡ぐペンとなる。
「小癪な!」
怒りに滾るブッカーン。
みるみるうちに集う光。
空が虹色の光に包まれる。
「さぁ反撃開始よ!」
アベンダーズは滅び、歴史に幕を下ろした。
このダーク・コロナの戦いはまだ始まったばかり。
「さぁ立ち上がれ君こそがヒーローだ!」
アベンダーズ 八百八万 @yaoyayoroz
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