第2話 アベンダーズの過去

 エリシュオンは現実世界の裏側。

 精神世界を司る星。

 太陽と月の恵みを受けたこの星で人々は数百万年に渡り進化を遂げてきた。

 森にはガラスで出来た虹色の木が生茂り、湖はまばゆい光で煌めいている。それらは全て現実世界の人々の感情が生み出した創造物。時代と共に進化した思想はこの星と人々を豊かに育んできた。

 しかし近年、目まぐるしいテクノロジーの発展と共に貧富の差が大きくなり、妬みや嫉みといった負の感情が渦巻くようになった。負の感情が具現化し、街や人々を襲うようになってからというもの、かつて感謝と愛情で満ちていた森は枯れ、湖は汚染されていった。

 荒廃し始めたこの星を守ろうと初代アベルによって結成されたアベンダーズ。彼らはヒーローと呼ばれ闇を消し去る戦いを続けてきた。

 そして彼らの活躍で星の輝きは取り戻され、エリシュオンは繁栄と平和を取り戻した。

 ………はずだった。

 数世紀に渡り世代から世代へと民を統治し続けてきたアベンダーズ。その結果、内部で癒着に癒着を繰り返し次第に民との間に軋轢が生まれ、今や権力を笠に着た暴君と化していた。

 民に識別番号を与え税を納めさせ、人々を奴隷のように働かせてきた9代目アベル。アベンダーズの傘下に入ったものは、民の血税で私腹を肥やし贅の限りを尽くす。

 9代目アベルの妻、魔術師アスペルアキエは常に高価で奇怪な服で着飾り、モリッツという男を侍らせていた。モリッツはアスペルアキエに取り入る代わりに、故郷の家族へ多額の税を横流しさせ、アッソーは逆らう民を暴力で従わせる。村人の妻子を殺害する事件を起こしたカーンの父親も権力で守られ、裁きを受けることなく民の反感を買っていた。

 腐りきったヒーローの末裔達。

 人々の不満が再びエリシュオンの森を枯らし始めていた。

 そんな中、ある事件が起こった。

 空から突如現れた一隻の船。

 生物兵器学者ブッカーンと名乗る黒マントの男がチャンドラー大陸の人々を拉致していった。囚われた人々は内側から精神と肉体を破壊され、大地に暗黒エナジーをまき散らす兵器へと改造される。

 「さぁ、まずはお前たちの愛する者を皆殺しにするがいい」

 大陸に放たれる兵器と化した人々。

 彼らはまず自分たちの愛する家族を襲った。

 襲われた者達は暗黒エナジーに感染し、新たな兵器へと変えられてしまう。闘う術を持たない人々は瞬く間に感染し、チャンドラー大陸はほんのひと月でブッカーンの手に落ちた。

 侵略は大陸に留まらず、今やTOKYOを初めとするエリシュオンの主要都市に魔の手を伸ばしていた。

 青空は一面の黒い雲で覆われ、一切の光が奪われた世界。餓える者。家族を奪われたもの。愛する人と離れ離れになる者。恐怖に怯える人々。エリシュオンには孤独と死が蔓延し、かつてない危機に瀕していた。

 アベンダーズが立ち上がった時には既に星の大半が敵に飲み込まれ、救う手立てを見つけられずにいた。

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