そして、旅立ちへ

「見事じゃ、と誉めておこう。

まさか、対雷人戦用鎧アンチサンダーマンアーマーが破壊されるとは思わなんだのう」


「俺達の力が分かったなら、雷人と人間との戦争なんて諦めてくれ。

俺達おれたち雷人らいじんは、人間相手に危害を加えるような真似はしない」


「若いな、お前達は現実を知らないから、そんな事が言えるんじゃ。

何としても、お前達は滅ぼさねばならぬ」


博士が、またしてもボタンを押した。

すると、先程と同じ鎧が2体、天井から落下してきた。


「不愉快じゃ。

先程と同じ手は使わせん、さっさとサンプル向きに無力化されてくれるかのう」


2体の鎧が、権と正一に襲い掛かる。

既にボロボロの2人は、防ぐ事も出来ずに吹き飛んだ。


無情にも、追撃の拳が同時に振り掛ける、そう思われた瞬間だった。

1人の男性が、2体の鎧の拳を掴み止めている。


「よく頑張ったな。

後は、任せなさい」


「「深明しんめい先生! 」」


男が拳を離すと、警戒した鎧2体が後ろに飛び退く。


深明しんめいと言う名前、どこかで聞いたような……?

まあ、どこから入ってきたか知らぬが、サンプルが一つ増えた事は喜ばしい」


「博士、新たな敵性体てきせいたいの観測を開始します」


博士は、余裕を崩していない。

当然だ、先程の戦闘で有効性を確認済みの兵器が2体。

今更1人増えた所で、戦況は覆らないと考えるのが正しい判断だろう。


鎧の一体が、深明に掴み掛かろうとする。

あまりにも速いその動きに対して、深明は一歩だけ動いてかわす。


「計測完了!

秒速10m、何だこれは? 」


「機械の故障かの?

秒速150mのダッシュを、その10分の1以下の速度でかわせる筈ないじゃろうが! 」


博士達は、不可解な数値に戸惑いを隠せないでいる。


「随分と高額な機械を、大量に所有しているようだが。

数字でしか物事を理解できないなら、宝の持ち腐れという他ないな」


「ふん、イキがりおって。

どのみち、お前達の攻撃は、その鎧を貫けぬ!

かわすだけでは、どのみち勝てぬわ 」


側面に立った深明に、裏拳を当てようとする鎧。

深明は一歩退り、攻撃が届かない安全な位置を確保する。

そして裏拳に合わせて腕を動かして、同じ方向に力を加えて投げ落とす。


「1tの重量とゾウ以上のパワーを持つ鎧を、あんな軽い動きで投げたじゃと?

ふざけるな!

あれがただの格闘技だとでも? 」


「そうだ、私が人間から学んだ技術だ。

数字で物を見るしかないあなたでは、一生人間の力にさえ理解が及ばないだろうね 」


鎧2体が、前後から挟み撃つように深明に殴りかかる。

深明は、しゃがんで拳をかわすと、攻撃対象を見失った拳は味方に当たる。

相討ちとなった2体の足を深明は刈って、転ばせた。


深明の両掌りょうてのひらに、同時にプラズマが発生し、倒れた鎧のガラス部分を打ち貫いた。


「山中流奥義の応用、"球電砲きゅうでんほう双撃そうげき"

……かつて私を倒した人間の武道家ならば、このようなオモチャ、肉弾戦のみで御したのだろうな。

至らぬ自分を恥じ入るばかりだ 」


「むう、計算外の結果になってしまったわ!

まあよい、このデータを踏まえてもっと強力な兵器を…… 」


「そうはさせねえよ? 」


博士の目の前に、権が躍り出て、ガラスを拳でブチ破る。


「その怪我で、この高さまでどうやって……?

まさか、自身から発する磁力で、壁の中の鉄筋に貼り付いたのか! 」


「この期に及んで理屈をねやがって。

牢屋の中で頭冷やしやがれ! 」


博士と助手の頭部に触れて、電流を流す。

崩れ落ちる二名を、遅れて駆けつけてきた正一が頭を打たないように支えている。


「体は大丈夫か、2人とも? 」


「俺は1日も寝てれば治りそうです。

正ちゃんは? 」


「僕も、治ると思います。

でも、暫くは全身筋肉痛だろうな」


深明は、権と正一の頭を軽く小突く。


「嘘は良くないぞ、2人とも内臓にまでダメージが来てるだろ?

ちゃんと治るまで、外出は許さないからな」


「先生、ごめんなさい 。

……所で試験の方は、不合格ですか? 」


深明は、深く息を吐いてから、言った。


「試験は、合格だ。

両親を探す旅、体が治ったら行きなさい。

ただし、今回みたいな無茶はしないと約束して欲しい」


「ありがとうございます、先生!

約束の方は、善処します」


深明は、かぶりを振っている。


「取り敢えずは、その言葉を信じよう。

少なくともこの場では、嘘であってくれるなよ 」


「最初の約束通り、僕もついていきます。

僕には権ちゃんみたいな目標はまだ無いけど、権ちゃんを1人で放っておくのは心配なんだ」


正一は、権の肩を叩く。


「私には、お前も心配なんだがな。

……まあそれは後回しだ。

権、お前に一つ問いたい 」


「何でしょうか、先生」


権は、背筋を正す。


「もし、お前の両親に会えたらどうする? 」


「俺の本当の名前を、聞き出します」


こうして、権の両親を探す旅は始まった。

その先に、苦難の道が待ち受けてるとも知らずに。(終)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

nameless hero~少年権の冒険譚~ 牛☆大権現 @gyustar1997

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ