バレンタイン特別SS Episode.4 華憐の場合

 二月十四日の学校も終わりを迎えようとしていた。チョコが貰えた勝ち組、貰えなくて悲観する者、全てを悟り無になる者。様々な生徒がそれぞれの放課後を迎える。俺は有難いことに、『勝ち組』の部類に入るのだが、納得いかないことがひとつある。

 肝心の彼女からチョコを貰っていない。

 おかしいぞ。これはおかしい。華憐かれんなら、自身の手作りパンツを包装紙の代わりにして渡してくるくらいの、狂気は持ち合わせているはず。

 朝には先に行ってと連絡を受け、今日の部活はオフ。華憐が意図的に、俺と会わないようにしているのかと疑いたくなる程だ。

 もしや、今日がバレンタインであることを知らないのでは? いいや、記念日の時には、うるさいくらいに「今日は何の日?」と聞いてくる彼女に限って、そんなことがあるわけが無い。

 では考えられる線はひとつしかない。


「華憐は俺にチョコを渡す気がない!?」


 これはこの作品が始まって以来の大事件である。作者の更新ペースが遅いとか、もう去年のバレンタインから数ヶ月過ぎているとか、新作出す出す詐欺とか、そんなことがどうでも良くなるくらいの事件である。(※申しわけありません)

 トボトボと歩き続けて、気付けばもう正門まで来ていた。もう終わりは近い。素直に諦めよう。俺は香織や南波から貰ったチョコがある。東坂はガムだったが……。まさかの本命から貰えない悲しさを噛み締め、涙ながらに学校を出た。昼間から降る雪が一層強くなっていたが、そんなことは気にならなかった。


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「優くん。遅くなったけど、はい。チョコだよ」


「ありがとう! 本当に嬉しいよ。後で食べるね」


「今食べて! 感想が聞きたいなっ」


「分かった。……美味い! いくらでも食べれるよ!」


「ホント! 嬉しいっ!」


「うん!」


「ねぇねぇ。チョコ食べ終わったらさ、良かったら……」


「(ゴクリ)」


「私の……」


「……私の」


「パ・ン・ツ、食べて?♡ はい、あ〜ん。チョコパンツ♡」


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「チョコパンツはらめえぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 ……はぁ。良くない夢を見た。帰宅してすぐ眠りに着いてしまったのが失敗なのか……?

 今の時間は……十九時………………って


「華憐!?」


 部屋の隅に華憐が居た。彼女を見ると夢の記憶が蘇ってしまうが、考えないことにした。


「なんで俺の部屋に……?」


「優くんのママに頼んで入れてもらったの。でも来てみたら寝てるから、起きるまで待ってたのよ」


「いつから……?」


「一時間前くらい?」


「ふ、ふーん……」


「それで、優くん。チョコパンツって何かしら?」


「げほっげほっ」


 思わずむせてしまった。そりゃあ、あんな大きな声で叫んだら聞こえるに決まってるよな。


「あはは……。チョコパンツって、面白いこと言うんだね」


「優くんが言ったのよ」


「チョコパンじゃないかな?」


「ふーん。じゃあ、チョコパンの何がそ、その、ら、らめぇ……なの?」


 はいありがとうございます。恥ずかしながらのらめぇ頂きました。俺はもう死んでもいいです。神様ありがとうございます。


「ま、まぁ。ダメなことはダメなんだよ」


「……教えてくれないとチョコあげない」


「華憐にチョコパンツを食わされる夢を見ました」


「すぐ言うんだ!?」


 このSSで俺の立ち位置がかなり危ういところまできている気がするが、大丈夫かな。まぁいいか。女児用パンツを頭に被っている時点で存在自体がゴミだったし。


「……チョコ、くれるんだ」


「チョコパンツじゃなくてごめんなさいね」


「……」


 はい、とベットの上に包みを置いてくれた。


「ありがとう」


「どういたしまして」


「食べていい?」


「どうぞ」


 袋の中には色々な種類のチョコが入ってあった。おそらく、手作りだろうか。その中からひとつ手に取り、口に運ぶ。


「……美味しい」


 これほどかと言うくらい俺の好みの味だった。甘すぎず、苦すぎず、ちょうど良い甘さ。まるで俺の好みを知っていたかのようだ。


「それならよかったわ」


「本当に美味しいよ。ありがとう」


「………………当たり前じゃない」


「……!」


 こういう所は華憐らしいなと思った。先輩らしいと言った方がいいかもしれない。華憐のこういう所が好きだ。先輩のこういう所が好きだ。


「華憐」


「なによ。どれだけねだってもチョコパンツは出な……」


 言葉が止まる。いや、正確には俺が止めさせたと言うべきか。時間も一緒に止まったような感覚だった。

 外にはまだ雪が降っている。明日の朝には積もっているかもしれない。そんな事を考えたのは、時間が動き出してからだ。今は目の前のことしか考えられない。


 初めては、チョコの味がした。

 二回目、先輩の味がした。


[完]

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あなたのパンツはこれですか!? れ! @Re1lex

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