黄昏の砂漠

"黄昏の砂漠"そこは300年前―まだ人類史が地上に存在していた頃―アレナ王国という砂漠の中に栄えた王国が統治していた地域である。

名の由来は、黄昏時に空と砂漠が黄金色に輝くことから付けられたらしく300年前は観光地として有名な王国でもあったそうだ。

黄昏の砂漠には現在、第3種"紫毒の獣べスティア・ディ・ヴィオラヴェレーノ"―大型の蠍で尾にかすり傷でも致命傷となる猛毒を持つ、直撃すれば即死は不可避だろう―および、第4種"黄金の獣べスティア・ディ・オーロレオーネ―大型の獅子、個体数は少ないが強力な爪と牙を持ち圧倒的な速度をも持つ―の2種が確認されている。

ニーヴェア本部の資料室に保管されている報告書を大まかにまとめると"黄昏の砂漠"とはそういった場所なのである。


「紫毒も黄金も地上でしか遭遇しないから地上に初めて行く私たちには不利な相手だね…」


険しい顔つきでそう呟いたのは鮮やかな黒髪をしたアリアだった。

アリアの向かい側には透き通るような白髪をしたリラが座っており何やら資料を広げていた。どうやら本部で書き写してきた報告書を2人で眺めているようだ。


「そうだね、特に紫毒は尾に猛毒があるから当たればまず助からない―紫毒との近接戦闘は危険だね。」


リラは紫毒との戦闘方法を冷静に考えているようだ―実際、紫毒と戦闘経験のある魔導士であればリラと同じことを言うだろう。紫毒の尾は見た目以上に長さが長い…というのも紫毒の尾は伸縮が自在で普段は敵を油断させるためあえて短く縮ませてある。

そのため、紫毒を知らない魔導士が不用意に近接戦闘を行い数多く犠牲になってきた過去を持つ。


「黄金は強靭な爪と牙に加え脚力が強いため速い…か、索敵で即座に見つけて走られる前に捕縛系の魔法で捕縛するか一撃で絶命させるかの2択かな…?」


リラに続いてアリアが黄金の獣との戦闘方法を模索する―


「そうだね、ただ捕縛系魔法を破られないとも限らないしやっぱり一撃で絶命させるのが一番かな…ただ―」


リラは何かを付け加えようとしたのだが、そんなリラの言葉を代弁するかのようにアリアが口にする


「それでも対処できない時は2人で協力して、それでも無理なら逃げる―だよねリラ!?」


「うん、その通りだよ。ただ、今回は2人だけじゃないからねみんなで力を合わせれば何とかなることもあるよ。」

「うん!」


返事をしたアリアは微笑む―アリアの笑顔を見ると自分の緊張が解れていく、そうリラは思うのだ。

アリアの言葉に笑顔に存在に…何度救われただろうか…?親友を―レオンを亡くしたあの時も、そして地上への不安を抱える今も―自分はアリアの存在に救われている。そう、ふと思った瞬間リラはアリアを抱きしめた。

突然抱きしめられたアリアはと言うと頬を赤く染め慌てふためいていた。


「――!?!?えっ!?リラ!どうしたの!?」

「アリアいつもありがとう―あなたの存在に俺は救われています。」


リラは「ごめんなさい」よりも「ありがとう」を言う回数が多い。それはリラの人柄が良いのもあり謝罪を述べる機会が滅多にないことも関連しているのだが―リラの信念の問題でもある。


「リラ、私はいつまでもあなたのそばに居るよ。あなたが私の存在で救われているように私もあなたの存在に救われているの―だからね、ありがとうリラ。」


アリアは頬を赤く染めたままリラをそっと抱きしめ返すのだった…。


翌日、2人は集合場所である飛空艇の発着場へと訪れていた。

2人が着くとそこにはルーカスが既に着いており飛空艇の操縦士と話をしていた。ルーカスは2人に気がつくと操縦士との話を切り上げて2人の下へとやってくる。


「おはようリラ、アリア。」

「「おはよう、ルーカス。」」

「姐さんは来なかったのか?」

「母さんは後から来るみたいだよ。」

「そうか。さて、今日から地上探査だ!よろしくな2人とも!」

「「うん!!」」


ルーカスとリラ、アリアが簡単な挨拶と会話をしていると他の選抜者達も集まってきた。ルーカスがメンバーに簡単な説明を終える頃、母―エマが3人の下へとやってきた。


「はい、これを持っていきなさい。」


そう言ってエマが渡してきたのは真紅の宝石があしらわれたタッセルだった。


「母さんこれ―」

「御守りよ。私の魔力が込めてあるわ…リラ、アリア…2人とも無事で帰ってきてね。」


そう言うとエマはリラとアリアを抱きしめる。


「うん、ちゃんと帰ってくるよ2人で―あ、ルーカスも一緒にね。」

「俺はついでかよ…」


リラの言葉にルーカスは苦笑気味で返した。

そうしていると、出立の時間がやってきたようで操縦士がルーカスを呼びに来た。


「行ってくるね母さん―」

「行ってきますエマ様―」

「行ってらっしゃい。ルーカス2人をお願いね…」

「あぁ、任せとけ姐さん。」


そして、3人は飛空艇へと乗り込むのだった。

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終わる世界に、終わらない夢を。 綿雪 ミル @Mil7679

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