第31話 捜索(条件付き)

 博魔の話を聞いてから授業が行われる教室へと向かう。そこにはいるはずのイザナミと櫛引尚美の姿はなかった。携帯で連絡を取ってみようとしたものの、通話も繋がらず返信もない。

 博魔の話を聞いて動揺していたこともあり、連絡が取れないということも重なって授業どころではなかった。

 結果、大苗代崇人は人生で初めて授業をサボり、教室から出て行った。

「あれ? 授業はもう終わったのですか?」

 建物の外に出たところのベンチ。そこにはアメノウズメがいた。

「いえ、ちょっと授業どころじゃないって言うか…」

 アメノウズメは先ほどと服装が替わっており、現代の町中にいても違和感のない外見へと変わっていた。

「き、着替えたんですか?」

「着替えましたよ。明らかにおかしいって目をしていたので」

 大苗代崇人の視線や表情からも、選択した服装が完全なミスチョイスだったと思ったのだろう。彼女にも彼女なりのプライドがあるのか、授業を途中で抜け出してくるわずかな時間に着替えを済ませていた。

「ミャー」

 ベンチにはアメノウズメ以外に猫がいた。アメノウズメに懐いているのか、ベンチに隣り合って座っているようにも見える。

「それより授業をほっぽり出すのは感心しませんよ。学生の本分は学業でしょう?」

 アメノウズメの言っていることは正しい。言われる前から授業を抜け出した罪悪感は心にある。それでも大人しく座って授業を受けるという精神状態にはなれなかった。

「教室で待ち合わせをしていたのに連絡が取れなくて、もしかしたら博魔と何か関係があるんじゃ無いかって…」

「探し人ですか? それでしたらこちらが引き受けましょう」

「え?」

「こう見えても神ですよ。そして私たちと共にいるのも八百万の神々です。探し人程度ならさほど時間をかけずとも見つかりますよ」

 アメノウズメはニコッと笑ってウインクをした。神であるということもあり、探し人に関してはずいぶんと自信があるようだ。

「私たちって?」

 周囲を見渡すが授業中なので通行人がちらほらいる程度。通行人を除けばアメノウズメ以外では猫くらいしか視界の中にいない。

「博魔探しに私だけが動いているわけではありません。八百万の神々の多くには協力の要請が行っています。例えば…」

 アメノウズメが大苗代崇人の足元を指さした。

「こんにちは!」

「うわぁっ!」

 視線を下げると、そこには今までいなかったはずの小学生くらいの女の子がいた。

「え? え? なに?」

 驚いて飛び退いた大苗代崇人。驚く大人に子供らしい純真無垢な笑顔を女の子は見せる。

「どうも、座敷童です。よろしくね」

 自分を座敷童だと名乗った女の子。親しい近所のお兄さんと触れ合っているかのように、大苗代崇人の服の袖を掴んでいた。

「ざ、座敷童…か。はは…」

 突然の登場で驚く大苗代崇人。座敷童と聞いて安心したが、それでも突然現れると驚きを隠せなかった。

「座敷童、いたずらが過ぎるぞ」

「え?」

 突然の座敷童の登場で驚いていた大苗代崇人だったが、アメノウズメではない他の声に視線をキョロキョロさせる。

「ここだ」

「え? ね、猫が喋った?」

 アメノウズメの隣にいた猫。それが大苗代崇人の方を見て喋っていた。

「この子はただの猫じゃありません。猫又です」

「尻尾は一本に見えるようにしてあるから気づかないのも無理はないか」

「二本にして見せたら?」

「また一本に見えるようにするのが面倒だ」

 尻尾の数よりも猫が突然話し始めたことに驚いているのだが、どうやらアメノウズメも猫又も座敷童も、尻尾の本数の話題で盛り上がっている。大苗代崇人が完全に蚊帳の外になっていた。

「あ、そうだ。それでお兄さんの探し人って誰?」

 思い出したように座敷童が聞いてきた。

「えっとよその大学の櫛引尚美って人、それと一緒にいるはずなんだけどイザナミさんを…」

 イザナミの名前を出した瞬間、その場の空気が凍り付いた。

「えっと…イザナミ様がご一緒なら別に探さなくてもいいんじゃないかな?」

 座敷童が女の子らしからぬ様子で捜索する必要は無いと言い始めた。アメノウズメと猫又も同意見のようだ。

「いや、でも博魔も関係があるかもしれませんし、連絡が取れないんで探さないと」

「あー、人は心配でしょうけど、さすがにイザナミ様がご一緒なら…ね?」

「心配無用だろう」

 どうやらイザナミと一緒であれば何の心配も無い、という認識のようだ。そしてそれ以上に人間である大苗代崇人にまでわかるほど、イザナミとの接点を避けている。

「けれど何があるかわからないじゃないですか?」

「まぁ、それはそうですけど…」

 アメノウズメは言葉に詰まる。しばらくの沈黙の間、考え込んで一つの案を絞り出す。

「では捜索は行いますが、その櫛引尚美という方がイザナミ様とご一緒だった場合は、こちらからは接触しないということでよろしいでしょうか?」

 大苗代崇人の頼みを聞きつつ、極力イザナミとは接触しない。それがアメノウズメの出した答えだった。

「えっと、じゃあそれでお願いします」

 博魔が何かしらの形で関わっているかもしれない可能性もある。イザナミは大丈夫だろうが、櫛引尚美にまで危害が加わるのは避けたい。

「では、そうしよう」

 猫又はそう言うとベンチから地面へと飛び降り、本物の猫のように一目散に物陰へとかけていった。

「私も、行ってきます」

 座敷童がそう言ったかと思うと、いつの間にか女の子の姿は影も形もなく消えていた。

「え? あれ?」

 今までいた猫又と座敷童。双方があっという間にいなくなってしまった。

「では博魔探しの手伝いをお願いします」

「え? あ、はい。それで手伝うってどうすれば?」

「そうですね。とりあえず賭け事に関する施設を巡ってみましょうか。こちらは不慣れなので道案内をお願いします」

 どうやらアメノウズメの道案内としての役目が今は求められているようだ。

「えっと、この辺りだとパチンコ屋があったかな」

 携帯で地図を出し、検索をかける。駅前や大学付近にいくつかパチンコ屋がある。ナビ機能を利用して、大苗代崇人はアメノウズメの案内役を始めた。

 イザナミや櫛引尚美と連絡が取れないことが少し心配だったが、八百万の神々がついているのであれば安心だと自分に言い聞かせ、今はアメノウズメの道案内役に注力することにした。

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ナミ様ご容赦を! 猫乃手借太 @nekonote-karita

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