第2葉 カメラを買いに⑵

「えーっと何にしようかなー、、ももっちぃー朝だよー一緒にトンカツたべよー!」

次の日の朝セットしたアラーム音にというよりセリフに起こされる。

「あーもう。勝手にアラーム音変えたなぁ」

その声の主は言わずもがな青葉である。どうやら桃華が目を話している隙に設定を弄ったみたいだ。というか朝からトンカツはないであろう。その声を聞いて桃華は怒りというよりも嬉々として朝の訪れを歓迎していた。

「まったくもう。青葉ちゃんってば。へへへ」

もう慣れたことだとその口元は綻ぶ。

ベッドから床へ足をつけるとフローリングの冷たさが足先から伝わり急いで側に置かれたスリッパへと足を伸ばす桃華。

「よし!桃華行きます!!」

一日の始まりを感じながらも桃華はまだ温もりのあるベッドに後ろ髪をひかれながらも準備へと取り掛かるのだ。

『あと5分』この精神が人を堕落させることはわかり切っている。

(青葉ちゃん、、寝坊しないかな、、?)

そしてこの精神を忠実に信仰しているのが青葉であることも知っている。桃華は不安を覚えながらも心の片隅で『今日こそはちゃんと起きてきてくれる』と信じているのだ。だから『モーニングコール』等という諦めの所業は絶対に犯さない。

「まぁ、一度たりとも時間に間に合ったという記憶は無いんだけどね」

それでもなお桃華は青葉を信じるのであった。


自転車を漕ぐこと10分、学校の最寄駅に到着した。スマホで確認すると現在時刻は八時五十分。余裕の到着である。

「いつもならもう、、」

青葉はもう先に着いているであろう者と合流するべくそのお世辞にも高いとは言えない背をフル活用しあたりを見渡した。休みの日ということもあってかやはり人は多い。

すると後ろから声をかけられた。

「あぁ!もも先輩!おはようございますなのです!」

朝日より眩しいのではないかと思ってしまうほどの笑顔をこちらに向けてくるのはやはりお茶子であった。

「お茶子ちゃん!!眩しいよぉ!君はなんて素敵なんだい!?」

思わず桃華はそんな事を口走ってしまう。お茶子からしたら全く意味がわからないのでキョトンとしているが桃華はそんな細かい事を気にするほど神経は安くない。いつもは青葉に隠れてはいるが何気にズブトイ女の子だ。

「なんだかよくわからないなのですけど他の人はまだみたいなのですよー?」

そんなお茶子の言葉に否定的なのは桃華であった。

あの部活で一年間共に暮らしていた桃華にとってそんなはずはないとまたも捉えきれない影を探す。

「いや、お茶子ちゃん。必ずいるよ。この何処かに、、」

そんなフリーのホラゲーが始まりそうな台詞を残してまたもその背を生かし見渡しているのだった。

「え?でも本当にいないなのd..」

「私なら、、ここよ。」

「どぅあ!!ってみどり先輩なのですぅ!?!?」

「あぁ!やっぱり居たんですね!」なんて桃華は呑気な事を言っているがいきなり背後から声を聞いたお茶子は心臓が飛び出そうと言わんばかりに胸と口を押さえていた。口から出るわけは無いのだが。

「私、、となり、、いた。」

そう遡る事一時間前、、

いつも通りに集合一時間前に着いたみどりは皆んなと会った時どう挨拶すれば良いか思案していた。

「むむ、、難しい、、わね。」

弾けたような明るい挨拶はしたいが絶対に無理。だからといって暗い挨拶では最悪無かったことにされかね無い。自分が今出来る最高の挨拶を、、と実の所昨日から考えていた。しかしこれといって正解は未だ出ず。止まる事を知らない時間は無常にも過ぎていったのであった。

「ふんっ!?もう、、こんな、、じかん。」

その時の時刻は八時三十分。そうお茶子が集合場所に現れるであろう時刻だ。みどりは急いで辺りを見渡す。そしてようやく見つけた。茶髪の髪を指で絡めながら時計をチラチラと気にする女性、、そうお茶子だ。

ススッーと近寄りまずは声をかけてみる。

「おちゃこちゃん。今日はいい天気ね買い物日和だわ!」、、と言っているつもりなのだが現実は残酷なものだ。その口から音は乗せられずただ隙間風を模したような乾いた音が目の前で掻き消える。

(今回はこれが精一杯みたいわね。まぁでも?前回は口が開かなくて窒息しそうなものだったし進歩しているわね。周りからしたら小さな一歩なのかもしれないけど私にとっては大きな一歩なのよね。はい!私偉い偉い!という事で隣にいればすぐ気づいてくれるだろうし?このままでいようかな?)


そしてそれから時は過ぎ八時五十分。

そう桃華と合流するまでにお茶子がみどりに気付くことはなかったのであった。

(こ、これは、、本当は気付いてるけど気付かないフリをしているのよね?お茶子ちゃんて意外にもやり手なのかしら。まぁそれはもう確定よね。だって今にも私の手はお茶子ちゃんのその柔らかそうな手に触れそうなくらい近づいているのだから。これで気付いてないってそれはもう鈍感すぎよ。ということはこれが所謂放置プ、、)

「あぁ!もも先輩!おはようございますなのです!」

お茶子がみどりの存在を確認するまであともうすこし。








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