第22話


「しないよ。」


そう言ったのはアキで、私は少しホッとした。

だけど、少し欲しがっていた私もいた。


アキは私の服の中から手をそっと出した。

私の顔を少し寂しそうな顔をしてずっと見ていた。

髪を撫でたり、頬に触れたり、唇をつけたりしながら・・・

なにも言わなかった。

なにも言わずになにか言いたそうな目で私を見る。


「アズの母ちゃんに俺が泊まったことバレたかな。」

「バレる前に帰って。」

「俺はバレてもいい。」

「私は嫌。早くこそっと帰って。」

「やだ。」

「早く!」

「大きい声出すなよ。」

「じゃあ帰ってよ、早く。」

「キス、して。」


アキは真顔で言う。


「しないよ。」

「あ、そう。」

アキは冷たい目で私を見て、立ち上がろうとした。

私はとっさにアキのシャツの裾を引っ張ってキスした。

アキはそのままベッドの上に座り、深くキスを被せてきた。

音の出ないようにそっと、でも力強くて熱かった。

アキのするキスは少し強引だ。

でも私はこのキスがたまらなく好きだと思った。


タクミ君のことを思い出した。

だけどもう、だめだった。



アキから離れることができない。

アキの唇は欲しかったものだったように思う。

大切にしてきたそれを私は離せなかった。

アキの顔に触れてアキの目を見る。

アキは1度だけ目を合わせてすぐに反らした。

「俺、別れたよ。」

「・・・」

「アズ、別れたんだけど、俺。」

「・・・」

「なんか言えって。」

「私にも別れろって言いたいの?」

「別れたらいいな、とは思ってる。」

「最低。」


アキは私の手を引っ張り、抱き寄せた。

耳を優しく舐められると、無意識に声が漏れてしまう。

アキは意地悪そうな顔をして私の顔を覗く。

「お前、もう最低なこと俺としてんだけど?」

なにも言い返せなかった。アキは正しい。

私のうなじを長い指でなぞり、そこに口をつける。

アキの吐息が私を興奮させ、敏感にさせる。

「私、別れる。」

アキから離れて私はそう言った。


アキがふっと笑った。

目に前髪がかかっていてちゃんと顔は見えなかった。

だけど笑っているのはなんとなくわかった。

アキはそのまま私のことを強く抱きしめた。

「それでいいじゃん、アズ。」

「・・・。」

「結婚する?」

「はぁ?」

「いいじゃん、よくない?」

そう言ってアキは私にキスをした。

長くて熱くて気持ちいいキス。



誰かが階段を上がってくる足音には気づかなかった。



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