第3話 天然少女

「学問、会社、文化、死への認識、神様、不老不死………。すごい、すごく、興味深かった。すごいなんて言葉じゃ、足りないくらい、あり、ありがとう、アイト。」

「いや、満足できたなら良かった。」


彼女はすごく満足そうにペンを走らせ、少し悩んでは、またペンを走らせている。俺は、こんな大したことない話で満足させられるのか心配だったが、どうやらその心配は杞憂だったようだ。

彼女のペンが完全に止まるまで待とうとふと窓の外を見ると、俺が起きた頃に比べ、すっかり暗くなっていた。どうやら朝昼夜の区別はありそうだ。


「ね、ねぇアイト。」

「ん?」


振り向くと、彼女はおずおずと俺を見上げ、少し微笑んだ。


「あのね、私アイトからたくさん素敵な話、聞かせてもらった。だからね、お礼したいの。」

「そんなの、俺をここまで介抱してくれたんだから、それくらい気にしなくていいよ。」

「だめ。アイトの話は、とっても貴重。だから、あんなのじゃ対価にならない。なにか…ない?」


いやあるよ。嫁になって。

俺は口から出そうになった本音をぐっとこらえて、あくまで、あくまで!真摯に答えた。


「んー、じゃあ君の話とこの世界のこと、聞かせてくれる?さっきも話したけど、俺何も知らないんだよね、この世界も、君の名前も。」


決まったー!俺最大級の口説き文句。これに惚れない女はいないね。


「うん、わかった。それならお安い御用。あのね、私の名前はサラ・フルール。サラって読んで。それで、」

「ちょ、ちょっと待って。あれ?」


おかしいな、照れるどころか普通に教えてもらえちゃったんだけど…。


「どうしたの?」

「ん!?い、いやなんでもない。ごめんな、話途中で止めて。」


どうやら彼女、いやサラは度がつくほどの天然らしい。そうしておこう。


「ううん、アイトが大丈夫ならいい。それでね…あっ。」


サラがまた話し始めようとしたその時グーと、小さくお腹がなった。


「そっ、そういえば、ご飯も食べずにいたから…恥ずかしい。」


サラは両手を頬に当て、俯いた。

はぁ、可愛い。

俺は自然に上がる広角をなんとか手で抑えようとはした。


「そういえば、アイトはこれから、ここに住む?」

「ぅえっ?!」


無理だった。


「だって、住むとこ、ないでしょ?」

「住むところはたしかにないけど…いいのか?」

「だって、私もっとアイトの話、聞きたいし、それに…なんか似てるから。」


サラは一瞬目を伏せたが、すぐに顔を上げ満面の笑みで俺を見上げた。


「じゃあ、ご飯、作ろっか。といっても、今日は山菜と果物くらいしか、ないんだけど。ついてきて?」

「あ、あぁ…。」


俺はその一瞬のサラの表情に不安を感じたが、また後で聞けるだろうと思い、サラの後をついて部屋を出た。

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主題:未来に希望はあるのか アネモネ @anemone-reito

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