Would?
いつの間にかヴィドは部屋から居なくなっていた。今話したことさえ幻であったような気さえしてくる。
私は首元に手をやり、思わず声が漏れた。
首元のペンダントが割れていた。
それは遠い昔、騎士となった時に王より下賜されたものだった。長い長い時の流れの中で、それにまつわる記憶がひどく朧げなことに今更ながら気がついた。しかしそれ故にその出来事は取り返しのつかない何かを失ってしまったような手酷い喪失感を私に残していった。
………?
目から溶けた岩の様に熱い何かが溢れ出し、自らが泣いている、ということを理解するのに時間を要した。次いで自らを嘲ける思いがこみ上げてきて、思わず私は笑った。
「は、は、は…?」
泣く?不死者の私が?
可笑しな話だ、だってそうだろう。
こんな地獄に至って、これ以上何を失えというのだ?
こんな地獄に至って、私は一体何を望めばいいのだ?
一体、何を。何を?
学のない私には分からない。
人と呼べるものも、人を人と呼ぶに値する様な度し難く暖かな何かも、もうこの世界には塵ほども残って居ないというのに。
希望はもはや残されていないのか?
私たちには、行く先を照らし導く光明の如き道標など、望むべくもない。
私たちに必要なのはただ、今を生きるための微かな燈。
この地上に神たる王はもういない、私は名もなき神に向かって祈る。
神よ…
どれほど狂った稚拙な戯言でもいい…
どうか私達に明日を生きる希望を…
私は割れたペンダントにすがる様に両手を握りしめた。
そして、私はその時思い出したのだ。
割れたペンダントに書かれていた言葉を。
”忠誠は死してなお生き続ける”
その考えに打たれた時、私は激しく動揺した。
なんと大それた事を考えたものだろう。私は、きっと必ず後悔する。
だがその後悔すら今の私には狂おしいほど遠く、闇の中で何度考えてみても愚かさ故か、それ以上の答えなど見当たらないのだった。
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