A Wolf at the Door
目を開くと灯りのない天井が目に入った。
夢の記憶の中の手入れの行き届いていた頃の宮廷と比べるとここは如何にも煉獄の如く暗く殺風景だ。
不死者が夢を見るなど一体なんの冗談だろうか。私は自嘲気味に苦笑を漏らした。
枕元には一体どこから迷い込んだのか一匹の蠅が死んでいた。
お前も私も。誰もが死の前では等しく価値がない。
この世界で死とは安息であり幸運な賜り物。
片時、死を夢想することは私を慰める。
その時、遠く絹を切り裂く様な悲鳴が聞こえ私は我に帰った。
私は急いでお嬢様の寝室へ駆けつけた。
「お嬢様…!!!」
「ああ…!フィデルタ…!フィデルタ!助けて!」
「お嬢様…!フィデルタはここにおります!!」
お嬢様は目を開くと安堵の余りか、目からほろほろと涙を零した。
「とても…とても怖い夢を見るの…国が…民が私を憎み襲いかかってくるの…お父様とお母様も…逃げなくてはならないわ…」
「お嬢様…ご安心ください。フィデルタはここにおります。お嬢様の御身を如何なる時もお守りいたします」
私は暗闇の中、手探りで燭台に微かな火を熾しお嬢様の手を取ろうとした。その時、私は目を見開いた。
お嬢様の手の皮が爛れ始めていたのだ。
それは神性が犯され、不死者へと変じる兆候に他ならなかった。
「フィデルタ…フィデルタ…私の…私を守ってくれるフィデルタ…」
私は震えそうになる声を押し殺して、お嬢様に応えた。
「…何も心配することはございません。フィデルタが…お嬢様のおそばにおります…」
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