In my secret life

 「従順であれ、死を厭うなら」


  (…はい)


 「使い古し・・・・のお前らでもあの不死者の掃き溜めならそれなりに可愛がってもらえるだろう」


  (…はい)


 「何を休んでいる!!さっさと働け!!」


  (…はい)


 「立て…それを身につけろ。お前は今日から不死の戦士となる」


  (…はい)


 「誓え、死してなお王に忠誠を誓うことを」


  (…はい)


 生まれてからずっと常闇を這うように生きてきた。


 命令と罵声以外で言葉をかけられたことなどなかった。


 だが、お嬢様だけは…。


 「フィデルタって言うんだ、素敵な名前だね」


  …


 「フィデルタ、お父様には内緒よ」


  …


 「フィデルタ!!」


  …


 フィデルタ、と。私の名を呼んでくれた。


 「フィデルタの目の色は、翠色だね」


 私は硬く身を強張らせた。この奇異で忌まわしい色の目は昔から忌避と嘲笑の的だったから。


「フィデルタの髪は綺麗な真紅だから…まるでアマリリスみたいね」


 目を開くとお嬢様は笑っていた。


 忌み疎まれた私を、私の目を、髪を、綺麗だと言ってくださった。微かな消し炭となり果てるだけの私の生を捧げる理由など、それだけで充分だ。


「ねえ、フィデルタ。アマリリスの花言葉を知ってる?」


 いいえ…。


 その時のお嬢様のふわりとした微笑が、私の網膜の裏にずっと張り付いて離れない。


「”誇り”、そして”美”。…本当にフィデルタにぴったりね」


 あの言葉を、あのお嬢様の微笑を、あの美しく温かな時間を、この奈落の果てに至ったとしても、私は決して忘れはしないだろう。

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