Man in the box

 百足の様な体躯を持った不死者に背中から大剣を突き立てると断末魔の悲鳴をあげた。 


 たとえ、腹から半身を切断されても不死者に死の安息が訪れることはない。


 百鬼が如き様相でこちらへ向かってくる不死者たちは、失われた自らの人間性を渇望するが故に生者を喰らいにこの城までやってくる。私は地面に突き立った大剣を引き抜き体の前で構え直した。


 ここで何千、何万という不死者を私は屠り続けている。


 亡者と化した彼らは死という二枚舌の阿婆擦あばずれに蠱惑こわくされるが如く、何度も私に向かってくる。


 不死者は度重なる存在の消滅に耐え切れず記憶が混濁し、支離滅裂な言語をある者は喚き、ある者は呟く。戦いの最中掠れた声で紡がれる言葉はまるで乳飲み子の子守唄の如くに静謐ですらあった。


 私はそれらを尽く屠殺していく。


 一度戦いが終われば陰惨な手技が始まる。不死者の骸を腑分けし、歯と骨を取り除いた後、切り刻み、赤黒い顔料になるまですり潰す。声帯を取り除けば断末魔は聞こえなくなり、ぽつぽつと、かすれたうめき声に変じる。


 ごり、という音がして、見ると取り除き損ねた歯が顔料に混ざっていた。


 ふと遠くに目をやれば、不死者の次の列が随分と近づいてきていた。


 私は顔料作りを中断し、重い身体を起こして大剣を担ぎ直した。


 私は光の差さない空を見上げ、冷え切った空気を肺の中へ吸い込んだ。胴から震えるこの感触は、寒さによるものだろうか、それとも疲労によるものだろうか。 


 不死という病を患ってなお、私の体は安らぎを求め続けるのだろうか。死という安寧を失ったが故に求め続けるのだろうか。  


 自らの手のひらを見ると、とうに皮も肉も削げ、見えるのは骨ばかり。死すら奪われたこの私は、これからも奪われ続けるのだろうか。


 私はすがるような思いで胸元のペンダントを握ると、かつての遠き想い出を反芻する。


「お嬢様…」


 私は夢遊病者の如く歩みを進める不死者たちに向け歩を進めて行った。

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