999階層の死神
日本が発明したVRMMO『Another・Color』。
9つの大陸に隔たれた広大な異世界の中央に、天を衝く長さの塔が聳え立っている。
日本時間で毎週日曜日、18~22時の間だけ塔は解放され、1000の階層を踏破することを目的とされたイベントが開催される。
名を、ヘヴンズ・タワー。
しかし、実装からして今まで、踏破したプレイヤー。パーティ。ファミリーは存在しない。
今となっては、参加するおよそ半数が、1時間程度の時間を掛けて998階層までは辿り着ける。が、その先を誰も突破出来ない。
999階層には、最強無敗を誇る死神がいるからだ。
「き、緊張するね……」
「うん。やっとここまで来れたね」
『Another・Color』をプレイし始めて1年と数ヶ月。
少女が2人、998階層を抜けて来た。
ここに来るまで何度失敗して、何度やり直しただろう。
何度痛い思いをして、怖い思いをしただろう。
思い出すとまた怖くなるような経験を、VRMMOだという事を忘れてたくさん重ねた。
たくさんモンスターを倒した経験が、自分達をここまで連れて来た。
それでも尚、扉の先に君臨する死神は、遥か上にいると言う。
確かに存在する、天地以上に開き切った大きな差。
未だ誰も超えられてない、星を冠した2人の魔導剣士をも、遥か凌駕する存在。
自分達では、きっと敵わないだろう。
でも、それでも挑戦したい。
誰もが勝てないという死神に、自分達が挑みたい。
自分達が1番に、誰も倒せないという死神を倒したい。
倒したところで得られる勲章はなく、褒章はなく、地位も名誉もない。
ただ、誰もが成し得てないからと諦めたくはない。
たかがゲームの話だと、せせら笑う人もいるだろう。
何をそこまで本気になる必要があるのだと、呆れる人が多いだろう。
しかい、ゲームだろうとなんだろうと、何かが出来た達成感と言うのは、人を前に進ませる。
例え達成した場所が仮想世界で、本当に頑張らなければならない世界が別の世界だったとしても、何かを達成した。何かが出来たという実感は、誇りであり、自信なのだ。
故に人は仮想に逃げる。空想に耽る。
故にあれは、死神として君臨している。
人を現実へと叩き戻す。空想の中の無敵の自分を容赦なく刈り殺す死神。
今日、2人はそれに挑む。
「でっかぁ……」
「今までの門と、全然違くない? 雰囲気とか……飾りとか」
「でも、燃えるじゃん」
「……そだね。燃えるね」
「勝つよ!」
「うん!」
【死して訪れるは終結。死して免れぬも、また終結】
はて、いつぞやか会った気がする。
この塔に登ったことがあったか。レイドイベント、とやらに参加していたか。
明確な記憶はなく、履歴の検索にも時間が掛かる。
【998の
だが、何だろう。
立派になった。
勇ましい顔になった。
こちらを見る目は闘志に満ちて、やってやるぞと輝いている。
願わくば、その輝かしくも勇ましい姿を保ち続けて欲しいものだなどと、敵に塩を送るようなことを思いながら、死神は口上を述べる。
ちなみにこれは大したことではないのだが、最近になって、死神の登場時の口上が一種類追加された。
【汝の生に一切の悔いがないと言うのなら。安らかなる死を与えよう。仮に汝が自棄で死を求めるのなら、仮初の死にて再起を与えよう】
人の思惑など知る由なく、知る術もない。
が、この後背に護る扉の先へと通すわけにはいかず、自身の敗北は1度たりとも許されない。
故に、戦う。
自身が、仮初の世界において絶対的な死を司る死神であるが故に。
女神との約束を、果たすために。
大剣を掲げ、挑戦するものを差し、高らかに宣うのだ。
【この世界に完全なる死、存在せずとも、我はこの世界における死神なれば。この世界における死を馳走するまで。故に我に挑むと言うのなら、命を賭して、掛かって来い】
仮想世界。別の色を帯びた人々の仮の命を狩る。
死神の戦いが、此度も始まる――
……Game Over.
999階層目の死神 七四六明 @mumei
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