知性と文明(新版)
平 一
知性と文明(新版)
図:https://19084.mitemin.net/i456741/
1 知性について
知性(知的生命活動能力)とは、
環境の違いや変化に応じて活動を制御することにより、
より良く生きられる能力です。
具体的には、『こういうときは、こうなる』(法則)
特に『こうすれば、こうできる』(技術)といった、
物事の間の因果法則を発見し、利用する能力です。
知的生命活動の
『どうすべきか決める』(決定)、
『決めたことを行う』(行動)という三つの段階からなります。
2 文明について
文明とは、高度な技術をもった知的生命活動の様式です。
ここでの様式とは、ある社会で共通する活動形式なので、
文明とは、高度な技術を持った社会生活のあり方だ、
ともいえます。
技術が高くても社会的でも、文明活動は知的活動の一種です。
そこで文明活動も、個人の知的活動と同様に、
科学・技術(認識)、制度・政策(決定)、
経済・社会活動(行動)に分けることができます。
(以後は技術、政策、社会活動と略することがあります。)
ただし、文明活動は社会の活動なので、
法則・法規など『こういう時はこうなる・する』
といった、一般的な形の認識や決定が重要になるとか、
人々が実際に活動する中から決まりができるように、
決定と行動の順番が逆になるという特徴があります。
また文明活動は、さらに広くは生命活動の一種です。
生命活動は、生存に必要なものを得て、分けることで営まれます。
そこで文明活動も、生活に必要な富(財、資源)を、
作って分けることで営まれるといえます。
文明活動の本体は、全ての人々が営む社会活動ですが、
自然からより良く富を得て、
経済・社会活動を豊かにするために分業化した活動が技術であり、
人々の間でより良く富を分けて、
経済・社会活動を健全に保つために分業化した活動が政策である、
ということができます。
技術と政策は、文明活動の本体たる経済・社会活動を支える、
二本柱といえましょう。
この点からいうと、文明とは高度な技術と政策を持った
知的生命活動の様式である、ともいえます。
また、これら三つの文明活動には、
それぞれの必要条件として、
物的資源、人的資源、自然・社会環境という、
三つの環境条件を考えることができます。
技術は物的資源に具現化されないと社会を豊かにできず、
政策は人的資源により実現されないと社会を健全に保てず、
政策による技術開発には自然・社会環境が影響するからです。
図:https://19084.mitemin.net/i398818/
そこで、以上の六つの文明要因から文明活動を理解して、
皆で今後の社会を考えるのに役立てていけたらというのが、
私見〝文明の星〟理論(仮説)の要点です。
3 科学・技術について
文明活動の始まりとなる認識の部分が、科学・技術ですが、
ここではまず、因果法則の発見が重要となります。
『科学の本質は法則の発見にある』といった言葉を、
聞かれたことがある方も多いと思います。
しかし物事の間の法則性は、すぐに正しく分かるとは限らず、
推論と空想の境界は連続的で、両者は広い意味での想像といえます。
まず自然科学では、観察をもとに仮説を立て、実験などで検証し、
その仮説が実証されて初めて、法則として認められます。
燃焼の原理や生命の起源、原子の構造、宇宙の歴史に関する
学説の
こうした自然科学的な技術は、
人々の経済・社会活動を豊かにします。
また社会科学においては、全くの空想概念も、
制度・政策の実現を助ける、社会工学的技術を可能にします。
権利・義務・法人格などの法律概念や、貨幣の価値、
あるいは宗教の教義などがこれに当たります。
私はこの考え方を、岸田秀先生やY.N.ハラリ先生の著作で
知ることができました。
知性の第一の特色とは、
合理的な推論から完全な
それが自然科学・社会科学的な法則や技術の発見を、
可能にするのだと思います。
4 経済・社会活動について
科学・技術は経済・社会活動を拡大・省力化すると共に、
複雑・加速化するので、人間の欲求を質的・量的に無制限化します。
複雑化した文明活動は、遺伝的・固定的な本能だけでは営めず、
生活の向上は、さらなる改善を求める余裕を生むからです。
全部を食べたいという本能に負けたら、農耕はできません。
植えて収穫に成功すれば、次はもっと植えようとか、
他の作物でも試してみようという人々が増えるでしょう。
このことは、文明活動という高度に知的な生命活動もまた、
他の生命活動と同じように、
生物と環境の相互作用の
ということを示していると思います。
人間は技術によって自然・社会環境を変えていきますが、
自ら起こした環境変化で、人間自身も変わるのです。
しかし、相互作用はそこでは終わらず、
さらなる文明活動を生み出していきます。
5 制度・政策について
人々の欲求や価値観(欲求の体系)の多様化は、
様々な欲求や価値観が衝突する可能性も増やすので、
経済・社会活動を健全に保つため、
社会的利害を調整するための政策を必要とさせます。。
また、ある技術水準のもとで政策が利害調整を極めても、
人間の欲求はその制約を超えるため、さらなる新技術も求めるので、
科学・技術の健全な研究・開発や普及のための、
技術的政策も必要となります。
技術によって自然・社会環境を変えた人間は、
新たな政策を作って、変化した環境に適応しつつも、
より良い生活を求めてさらに環境を改善すべく、
次なる新技術を追求していくのです。
知性の第二の特色とは、
経済・社会活動の複雑化により生じた限りない欲求であり、
それが利害調整や新技術開発のための制度・政策を
必要とさせるのではないかと思います。
6 知性、人間性と文明
以上のことから〝知性〟とは、
第一の特色である〝限りない想像力〟に加え、
第二の特色として〝限りない欲求〟も必然的に伴い、
含むのではないかと考えられます。
するとこれらは、世界史のルネサンスで学んだような、
良くも悪くも合理的に物事を考えつつ、
様々な価値観をもち自由を求めるという意味での、
〝人間性〟と重なるのではないでしょうか。
ルネサンスの成果には、科学的な建築・絵画技法や、
従来のキリスト教的制約を越えた文学・芸術作品に加え、
人間の
マキャベリの『君主論』も含まれています。
知性と人間性は相伴い、大きく重なるもので、
広い意味ではほぼ同義であり、
それが技術や政策の創造を可能とし、
また必要とさせるのだ、という見方です。
細菌のような非知的生物は、
餌があれば食べて増えるのが主な活動で、
そこには複雑な欲求も、
その善悪もないと思います。
逆に知性があれば活動の選択肢も増え、
それを活かす欲求の多様性・可変性が求められ、
それがさらなる知的活動の増進も促すので、
両者は一体となって発展していきます。
知性と人間性という言葉を使い分ける場合には、
知性は限りない想像力の方に重点を置き、
人間性は限りない欲求の方に重点を置いた言葉である、
ということでありましょう。
今では人工知能(直訳すると人工知性)という、
独自の生存欲求、意思を持たない知性もありえます。
自己学習型の
確かに、意思を持ったら面白いような恐いような(笑)。
また人間性といっても、狭い意味では、
社会的に望ましい欲求の部分のみを指すことが多いです。
「あの人は知性は高いが、人間性が……」
とかいうときの人間性はこの意味でしょう。
どちらも未熟な私には、あまり言えませんが(笑)。
しかし、知性と人間性は、文明活動の中で、
必然的に
広い意味では同じ属性の裏表である、
ともいえるのではないでしょうか。
言葉というのは、多義的です。
言葉は情報伝達の道具なので、
その用途により、用法も変わり得ます。
人間活動の価値的・政策的な評価を重視するか、
客観的・科学的な分析を重視するかで、
知性と人間性の範囲も変わりうると思います。
いずれにせよ、知性あるいは人間性は、
想像力と欲求を二大特色とし、
想像力が技術、欲求が政策という、
文明の二本柱を生み出すのだと思います。
7 まとめ
私は文明の発展について考える際、
よく〝エデンの園〟の
知恵の木の実を食べると、人は神のようになり、
善悪を知るようになる、というところです。
その設定は、知性により技術を得ると、
経済・社会活動が拡大・複雑化するので、
社会的利害調整のため政策が必要になるという、
知性(人間性)と文明の本質を示しているようです。
神や悪魔は私達人間の想像力から生まれた、
人間自身の理想像、拡大像だとすれば、
それも不思議ではないのかもしれませんが、
それでもやはり、古代の人々の
神様は本当は人類の文明化を望んでいたが、
知性は人間性の良い面も悪い面も増幅するので、
それを罪として知性の悪用を戒めたのでは、
などという想像もしてしまいます。
おっと……ここでは知性と人間性を、
違う意味で使ってしまいました。
限りない想像力と欲求を伴う人類の知性(人間性)は、
限りない可能性と危険性を備えています。
可能性と危険性の両方を増幅するのが技術だとすれば、
前者を最大化し、後者を最小化するのが政策といえます。
ここでは知性と人間性という言葉を、
言い換えられる言葉として使えていると思います。
いずれにせよ、人間の想像力が生み出す技術と、
欲求が生み出す政策は、文明の両輪です。
技術なくして文明の発展はなく、
政策なくして文明の持続はないといえましょう。
人類が今後も、新たな技術と人間的な政策により、
文明を発展させ、繁栄し続けられるよう願っています。
知性と文明(新版) 平 一 @tairahajime
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