その他、あとで発見したもの(のちに、学年、年齢別に整理します)

ブルーとブルーは対峙する。(三題題:海、学校、植木鉢/高2)

 海の果てに行きたいな――と、彼女は憧憬しながら言った。

 私たちは、放課後のベランダに並び、おのおの銀色の手すりをもて余していた。彼女は包むようにして胸を預け、私は絡みつくように背に置いて。放課後の教室の、ましてやそのベランダ――それが健全な青春の象徴だなんて言われてしまったら、いったい私になにが言えよう。あるいは彼女は、反論すらしないかもしれないけれど――。

 私はもうすっかり倦んでいて、それでもなけなしの優しさで問い返してあげるのだ。

「海の果てって、なによ」

「向こう。ずーっと向こう。陸なんか見えないくらい、遠くに行っちゃって」

「地球は丸いでしょ。海の果てなんてないわ。あったとしたら、この地。地球上の日本上の、海のよく見えるこの学校ね」

「……どういうこと?」

「だから、言ったでしょう。地球は丸いのだから、ずっと向こうまで行けば理屈上はおんなじところに戻ってくる」

 理屈上は。

 私はそう繰り返した。

 彼女はくちびるをとがらせて、黙った。彼女のこの行為は、けっしてあきらめではない。しつこいのだ、この感情性豊かな友人は。

 彼女がこちらを向くと、さらり、とその長い黒髪が揺れる。

理香りかは」

 彼女は毅然と言う。

「理香は、海の果てに行きたくないわけ?」

 ああ、不毛だ。どこまでも、不毛だ。私はどうして貴重な青春時代を、こんなことに消費しているのだろう。

恵美子えみこ。下、見なよ」

 彼女は従順に手すりの下をのぞき込む。こういうところが、意外と素直なのだ。

「植木鉢。あるでしょ」

「うん、あるね」

「植木鉢は、どこにも行けないんだよ。でも」

 それが、不幸ってわけじゃない。

 私は倦みの頂点に達した。ああ、ああ、陳腐だ。馬鹿らしい。

 こんな詭弁ひとつで、彼女という鳥を止められるわけでもあるまいに。

 しかし――彼女は、ほほ笑んだ。

「ありがとう、理香」

「なにが」

「理香は優しいね」

 答えになっていない。

 植木鉢の青い花は、海の青にもまさるって――私は、ただ、そう思っているだけなのに。

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十代短編集 柳なつき @natsuki0710

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