USBメモリの妖精
「借りものの言葉じゃ、響かないんだよ!」
僕は左手で頭をかきむしり、右手でバックスペースキーを強く押し続けた。深夜、電気もつけない部屋でこうこうと光るノートパソコンの画面。見る見るうちに、画面に表示されていた文章が消えてゆく。永遠の闇のなかに消えてゆく。僕は、また文章を葬ったのだ。
きょう通販で届いた小説をさっそく読んでみた、すごくいい文章だと思った、だからちょっと、ちょびっとだけ、参考にしてみた。
でも、借りものの言葉じゃ、やっぱり響かないのだ。それくらい、作家志望暦五年の僕にだってわかる。
「あー!」
どうにもならないうなり声をあげて、床にあお向けに倒れる。電気代を節約するために消している電球が、つるりと僕を見下ろしている。
こういうときに、ふと思うのだ。
僕は、ニートだ。
どうしようもなく、ニートだ。
大学卒業後、チェーンの本屋に正社員として就職したはいいものの、僕はどうやら仕事のできない人間だったようで、たったの半年で辞めてしまった。再就職する気持ちは起きなかった。心が、完全に折れてしまっていたのだ。両親は最初こそそんな僕を叱咤激励したものの、やがて僕より優秀な弟に期待することにしたようで、わずかな仕送りを僕のオンボロアパートに送ってくれるようになった。
僕は、自分がこんなに弱くて情けない人間だとは思わなかった。
たったの半年なのに。
たったの半年で、人生こんなに変わるものなのか……?
そのままずるずる、ニート暮らしを続け。
僕はいま、二十七歳。
作家を、目指している。
もともと、書くことは好きだった。学生時代から続けている。何回も賞に投稿した。でも、結果は芳しくなかった。いつも、一次選考を通るか通らないかのレベルなのだ。
向いてないのかな……?
もちろん、そう思うときはある。って言うか、いつも思っている。
でも。
僕にはもう、書くことしか残されていないのだ。
書いて生きるって、決めたんだから。
書いたら、作家になったら、いままでのことはぜんぶ清算されるんだから……。
「……っし」
起き上がり、ふたたびパソコンに向かう。なにも浮かんじゃこない。でも、僕は書く。書かなきゃいけない。書くんだ。だって書かなきゃ僕は、ほんとうにただの屑じゃないか。
一時間後。
僕はけっきょく、ネットをはじめていた。
極力アパートから出たくないので、僕はよくネット通販をつかう。
きょうは、USBメモリを買おうと思っていた。バックアップとして、三本めのUSBメモリがほしいのだ。
かち、かち、とマウスを操ってめぼしいものをさがしているとき。
ある商品が、僕の目に留まった。
「妖精の棲むUSB……?」
それはページのいちばん下、目立たないところにあった。写真を見ても、ほかの黒いUSBメモリとなにも変わらない。説明書きもなにもない。値段は千円。相場だ。
「ふうん……」
メルヘンチックでいいじゃないか、と思った。だいたい僕の書くジャンルって、ファンタジーだし。僕になかなか似合うネーミングなんじゃないか、妖精の棲むUSB?
それに、ほんとうに僕のところに妖精が来てくれたら万々歳だしね。なんて。
僕は、たわむれに妖精の棲むUSBとやらを注文してみた。とくに深く考えずに。
二日後、妖精の棲むUSBとやらが届いた。なにかほかのUSBメモリと違ったところはあるのかと思っていたが、写真といっしょで、それはただのUSBメモリにしか見えなかった。
でも、差し込んだらなにかが起こるかも……。
「よっ、と……」
さっそく、パソコンに差し込んでみる。
そして、しばらく待つが……。
なにも起こらなかった。
「……ま、現実こんなもんか」
僕はため息をついて、仕方なく当初の目的通りUSBメモリへのバックアップ作業に移ろうとした。
すると、おかしなことに気がついた。
「……あれ? 容量いっぱい?」
新品のはずなのに、もう1キロバイトも容量の空きがないのだ。
「これは……」
そんなときだった。
テキストエディタが勝手に立ち上がり、文章が打ち込まれた。
『こんにちは』
僕は、息をのんだ。画面を食い入るように見つめる、そこには確かに『こんにちは』と書かれている。僕が書いたのでない文章が。
文章は、つづられる。戸惑うような速度で。
『買ってくれて、ありがとうございます』
『私は妖精です』
『買ってもらえてとても嬉しいです』
僕はしばらくぽかんと口を開けて画面を眺めていたが、はっとわれに返って文章を打ち込んだ。
『どういたしまして』
『ほんとうに妖精かい? びっくりしたよ』
『まさか、ほんとうにこんなことが起こるなんて』
すこしの間があって、ふたたび文章が打ち込まれる。
『びっくりするでしょう』
『びっくりしたよ、ってさっき言ったよ』
『こわくないですか?』
『こわい? ぜんぜんこわくないよ』
むしろ、わくわくしてるくらいだ。画面を前にして、僕はこの上ないほど興奮している。
『そうですか』
『よかったです』
『あの』
躊躇するようなその書き込みに、僕は返事をする。
『なに?』
『私、ここに棲んでもいいんでしょうか』
僕はにっこり笑って、キーボードを叩いた。
『もちろん!』
まあ、この笑顔は妖精さんには伝わらないのだけれど。
妖精さんと、夢中で話した。友達も恋人もいない僕にとって、妖精さんはかなり久々の話し相手だったのだ。
ふしぎだと感じる間は、なかった。それは、僕がふだんからファンタジーな世界観にふれているからだろう。自分自身がファンタジー世界の登場人物になった気持ちで、自然に妖精さんと話せたのだ。
『僕はファンタジー小説を書いているんだ』
『はい』
『フェーバ大陸ってところを中心に、ユウっていう勇者が活躍する話なんだ。これがけっこう続きものになってるんだけどね。でも、賞に投稿するときには一話完結にしなきゃいけないから、大変だよ』
『賞にも応募してるんですね』
『そうなんだよ。まあ、一次選考くらいなら軽く通るかな。次は上を目指して二次選考! って思ってるんだけどね』
『志が高いんですね』
『そう? ありがとう。ファンタジーの醍醐味は、なんて言っても、あの世界観だよね。すごく美しいと思っているんだ。あの美しい世界観で、僕は、世に出たい』
『芸術家肌ですね』
『まあ、そういうところはあるかもしれない。むかしから、変わってるって言われてきたしね。ちょっとひととは違うのかもしれない。ひとと違う生きかたもしているし。僕はふつうっていうのが嫌なんだ、平凡っていうのが嫌なんだ。いつでもとくべつでいたい。とくべつな僕でありたい』
なぜだかすこしの間があった。
『ところで、あなたのお名前を教えてください』
『ああ、僕? 柏崎。柏崎勇気だよ』
『柏崎さんは、おいくつですか?』
『二十七』
『お仕事は?』
すらすらと気持ちよく想いをつづっていた手が、止まった。現実を思い出し、のろのろと重たい気持ちでキーボードを打つ。
『仕事ね』
『いま、ちょっとした事情で』
『してないって言うか、したほうがいいとは思ってるんだけど』
『まあ、僕には小説があるからいいかなーなんて』
ちょっとおどけたような言いかたになってしまったことを、打ち込んでから後悔した。
『柏崎さん』
『なに?』
『あんた、馬鹿かっ!』
妖精さんは、豹変した。すごい勢いで、文章が打ち込まれてゆく。
『だいたいそれってニートってことでしょう。ニートじゃ困るんですよ、もしパソコンを手放すような事態になったら私はまた新しい棲み家をさがさなきゃいけないんですよ? せっかく見つけたのに』
……さっきまでのあの殊勝な態度はどこに行った。
『いや、って言うか、それ以前の問題ですよ。自分に酔いすぎですよ、柏崎さん。自分語り激しいです。しかもふつうが嫌だなんて……中学二年生じゃないんだからやめてください。ふつうが嫌なニートなんて最悪です。モラトリアム全開じゃないですか。ちなみに作家は何年目指してるんですか?』
『……五年』
『それで芽が出ないなんて、それって才能ないってことじゃないですか?』
『そんなことない』
と、打ち込んではみたものの、自信はなかった。妖精さんの言うことは、僕がいつも自問自答してることだったからだ。
『人生あきらめも肝要。さっさとあきらめて、就職するのも手だと思いますけどね……』
『嫌だ』
これは、きっぱりと打てた。
『僕は、作家になる。そう決めたんだ。だから、引くわけにはいかない』
『聞きますけど、一日にどのくらい書いてますか?』
答えるのに、躊躇した。
『……書ける日は、原稿用紙で五枚くらい書くかな』
『書けない日は?』
『……書かない』
『ぜんっぜん、駄目じゃないですか!』
『書かない日は構想練ったりしてるんだよ!』
……そんなことも、ないけど。ただ、だらだらしてるだけだけど……。
『はあ』
妖精さんの、文字での短いため息。
『しょうがないです。これもなにかの縁です。あなたが作家になるのを、私が手伝ってあげます。まずは現物見せなさい』
と妖精さんが言うなり、僕の小説のファイルが勝手に立ち上がった。と言うか、妖精さんが勝手に立ち上げたのだろう。
『ちょっと待ってよ』
画面には、僕の渾身の一作。
しばらくの間があって、妖精さんはこう書き込んだ。
『つまらなそう』
「――あんたに小説のなにがわかるっ!」
僕は叫んで、ディスプレイを殴りつけようとした。でも、こんなことで大事なパソコンを壊すのはもったいないのでやっぱりやめておいた。
妖精さんは、まだ冒頭部分しか読んでないくせに、僕の作品について言いたい放題言ってくれちゃっている。
――まるであの子みたいに。
「あーもう無視だ無視。なんでこんなの入れちゃったんだろう。失敗だった、失敗失敗。失敗の買いもの。どうすればアンインストールできるんだろうあいつ」
僕はぶつぶつ呟きながら、席を立った。
わびしいキッチンで、インスタントコーヒーを淹れる。熱々のコーヒーを飲みながら、パソコンに背を向けテレビをぼうっと眺める。なにか重大なニュースらしいが、僕にはただのちかちかした光にしか映らない。いつからだろう、時事問題や事件に興味がなくなったのは。
いまの僕が、ゆいいつ興味あるのは……。
ちらり、と振り向いてみる。
まだまだ、文章は打ち込まれ続けていた。ここからでは、遠目で内容はわからないけど。
「……ふん」
僕はテレビの続きに戻る。今度はうって変わって和やかな雰囲気の画面になっていた。動物にも、子どもにも、興味はない。だからこれも、ただのちかちかした光だ。
やがて、ニュース番組は終わった。コーヒーは、すっかり冷めている。けたたましいバラエティ番組がはじまる。僕は、テレビを消す。
しいん、と静寂が残った。時計を見ると、僕がパソコンの前を離れてからもう四十分ほど経っている。
「さすがにもう、書き込んでないだろうな……」
僕は、のろのろとパソコンの前に戻る。
そこには――。
僕の小説の感想が、びっしり書き込まれていた。
ここをこう直したらもっとよくなる。この設定には矛盾がある。このキャラクターはもうちょっと立っていていい。でもこのせりふは格好よかった。この話のすじ自体はわりといけるかもしれない。いろいろと直せば、なんとか。「つまらなそう」だったけど、意外と面白いところもあった。
それらの感想は、厳しいけれど、とても的確でとてもためになるものだった。それになにより、長所もきちんと書いてくれている。
こんなに、真摯な感想をくれるなんて……。
根拠もなく、僕の小説をけなしたわけじゃなかったんだ。
むしろ、僕の小説を真正面から読んでくれて……。
あの子とは、違って……。
『……妖精さん』
けっこうな間があって、返事が返ってくる。
『なに』
『きみ、小説詳しいね』
『そんなことない。私は思ったことを書いただけ』
『なにか読んでたの?』
『電子書籍。あと、ネット上に転がっている個人の小説とか、ネットで公開されてる著作権の切れた小説とかも』
『読書家なんだ』
『そうでもないって』
しばらくの、沈黙のあと。
僕は書き込んだ。
『ありがとう。妖精さん』
妖精さんは、いったん寝ると言って画面上から消えた。妖精さんも眠るんだなあ、と僕はなんだかおどろいた。
……僕の小説の感想を一気に書いたから、疲れちゃったのかな。
なにはともあれ、妖精さんに感謝、だ。目の前には、直すべき箇所が山積みだ。妖精さんが寝ているあいだに、これらを直してしまおう。
かたかたかたかた、とキーボードを打つ音が部屋に響く。こういうとき、僕は生きてると実感できる。逆に言えば、こういうときだけしか僕は生きてると実感できない。だからやっぱり、僕は作家になるべき人間なんだと思う。……一次選考落ちだけど。
カーテン越しの陽はだんだん暮れてゆくけれど、僕は相変わらず部屋の電気をつけない。パソコンの明かりだけで、作業を進めてゆく。電気代を節約するため、っていう理由ももちろんあるけど、僕は明るい光が嫌いなのだ。なんだか、責められているみたいな気持ちになる。
それは、たぶん正社員時代の経験が影響しているのだろう。
正社員時代は、シフトの関係でよく夜に出勤していた。店内の、こうこうと明るい光。そのなかで、僕は上司にきりもなく怒られる。おまえはいままでなにをやってきたんだ。おまえはつかえないやつだな。おまえはそんなので社会で通用すると思っているのか、おまえは、おまえは……僕はそのたび人格を否定されたような気持ちになり、かぎりなく傷つく。
社会というのはそんなに大事なものなのか。
僕はそう思い――その思いが昂じて、辞表を叩きつけてしまったのだ。
僕が辞めるとき、上司はなにも言わなかった。
だから僕は、上司に言ったのだ。震える声で。
『辞めたら、僕は作家になります』
それが僕にできる、ゆいいつの抵抗に思えた。僕は作家になる。なってやる。こんなちゃちな本屋から飛び出して、新しい世界に行ってやる。
そう、あの子みたいに……。
上司は、なにも言わなかった。僕のほうを見もせず、ただ片手で、しっしっ、と僕を追い払うようなしぐさをした。
だから――。
僕は、作家にならなきゃいけないのだ。
いまにして思うと、すこしばかり早計だったかもしれないとは思う。でも。あのときは、ああするしかなかったんだ。
そうでないと、僕は僕を保てなかった。
――社会というのは暴力だ。
もう何回も思ったことをぼんやり思いながら、僕はパソコンに向かい続ける。陽は、完全に暮れた。ディスプレイだけが、こうこうと光っている。
……僕は、作家になるべき人間なんだ。
だから、いいんだ。
これで、いいんだ……。
そんなときだった。テキストエディタが新規に立ち上がり……。
『手が止まってるみたいじゃない』
『ちょっと考えごとしてて』
『直しは? 終わったの?』
『八割くらい……』
『見せてよ』
妖精さんは、しばらく沈黙する。僕の小説を、読んでいるのだろう。
どきどきしてしまって、胸を手で押さえる。女々しいかな? でも、仕方ない。ひとに小説を読んでもらったことなどないのだから。
そう、あれから、僕はひとと会うことすらできなくなった。上司の呆れたような視線、同僚の見下すような視線、バイトの哀れむような視線……そしてなにより、あの子の勝ち誇ったような視線……外に出ると、あいつらがいる気がするのだ。
かと言って、ネットの交流も駄目だった。こわいのだ。画面の向こうに、あいつらがいる気がして……。いくら優しくしてくれるひとでも、リアルの世界ではああやってひとを蔑んでいるのだと思うと……。
これは、人間不信、ってやつかもしれない。
僕は臆病だ。
ほんとうに、臆病ものだ……。
『勇気? いるの? 勇気!』
ふと気がつくと、僕を呼ぶ妖精さんの書き込みがずらずらと並んでいた。いつの間にか、呼び捨てになってるし。
それにしても、勇気、ねえ……僕は苦笑する。こんなにも僕に似合わない名前が、ほかにあるだろうか?
『考えごとしてた』
『また? 勇気はぼんやりさんなのね』
『ぼんやりさんって言うか』
『まあいいわ。感想』
僕はごくりとつばを飲む。
『まあまあいいんじゃない? ある程度、私の言った通りに直せてるし。ずいぶんましになったわ。これで残りの直しやって、また賞に出してみたら?』
『ほんと? ほんとに?』
『なにが、ほんと、なのよ』
『いや、褒められると思ってなかったから』
『べつに褒めてるわけじゃないわよ。ましだ、って言ってるだけ。やっぱり私の言った通りに直すと、よくなるものね』
ちょっとだけ、かちんと来た。妖精さんの言う通りに直すと、よくなる。それは事実かもしれない。でも、なんだか悔しかった。自力で推敲すらできない自分が。妖精さんの力に頼りっきりの、自分が。
『これからはUSBの妖精じゃなくて、小説の妖精って名乗ろうかしら』
妖精さんは、画面越しの僕の気も知らず楽しそうだった。
その小説は、さっそく賞に出してみた。
『いいとこまでいくといいわね』
妖精さんはそう言うだけで、具体的に何次選考までいくといい、とかそういうことは言わなかった。
結果が返ってくるまでの半年間、僕は妖精さんの指導のもといままで書いた小説を直した。ぼろくそに言われた作品もあった。泣きそうな日もあった。でも、ひたすらに直した。いまの僕には、ひとりで小説をやっていける自信がもはやなかった。妖精さんに頼り、言われるがままに直していった。他人の責任のもと小説をやる、というのはなんだか安心だった。
深夜、妖精さんが寝静まったあと、これでいいのか? と思うときはあった。半年前の僕の、口ぐせを思い出す。
『借りものの言葉じゃ、響かないんだよ!』
いまの僕は、妖精さんに言葉を借りているのではないか?
でも……。
それで、入選できるのならば。
だって僕の小説は、格段によくなってきている。それは作家志望暦六年に入った僕にも、あきらかにわかる。
これは、チャンスなんじゃないか。
小説の妖精、である妖精さんの才能を、しぼりつくす覚悟でもって、僕は入選すべきなんじゃないか?
そうだ、そうだよ。
入選さえすれば、すべては清算されるんだから……。
それならば、他人の力をちょっと借りるくらいなんだっていうんだ。
そうだ、僕は――。
作家になるんだ。
でも、そうあらためて決心する日にかぎって、なぜだか心は曇っているのだった。カーテンを開けて空を見上げると、だいたいの場合、空には月も星も出ていなかった。
そして――。
最初に出した小説の、結果が返ってきた。
結果発表の画面を眺めながら、僕は腕を組んで呟く。
「三次選考落ち、ねえ……」
喜んでいいのか、悲しんでいいのか、複雑な気持ちだった。
僕にとっては、確実な進歩と言っていいだろう。でも僕は心のどこかで、妖精さんの力を借りたんだから、入選するんじゃないかと思っていた。
『まあ、妥当ってとこじゃないの?』
これが妖精さんなりの励ましなんだと、半年の付き合いのある僕にはわかる。
『でも』
『なによ』
『入選しなきゃ、何次選考までいったっておなじだ』
『なに言ってんのよ。一次選考落ちだったのが三次選考落ちよ。ずいぶんな進歩じゃない』
『入選しなきゃ、駄目なんだ!』
書き込んだと同時にじっさいに叫んでいる自分に気がついて、その声の大きさにおどろいた。
僕は、勢いよく書き込む。
『入選しなきゃ作家になれない。作家になれなきゃ意味がない。言ってるだろう? いつも。作家になれば僕の人生はすべて清算されるんだって。作家にならなきゃいけないんだって。だからそのためには、入選しなきゃ、いけないんだっていつも、』
『焦りすぎよ』
僕の言葉を遮ったその言葉は、困惑した響きなのか、きっぱりした響きなのか、それともしずかな響きなのか、文字だけなのでわからない。
『焦りすぎ。焦っていいことなんてないわ。だいじょうぶ。私があなたをサポートするから。私が、』
書き込みは、一瞬止まった。
そして、ふたたび書き込まれる。
『だいじょうぶだから』
いままでに一度だけ、妖精さん以外のひとに作品を見せたことがある。いや、正確には、見せ合ったのだ。
それは、本屋のバイトの女の子だった。まだ高校を出たばかりの、幼いとも言えるような女の子だった。基本的にはいい子だったが、ぱっつんの前髪でおでこを完全に隠していて、何回注意してもそれだけは直らなかった。
その子は、バイトとしてふつうに仕事のできる子だった。コミュニケーションは、ちょっと難ありだったけど。でも、僕とは休憩時間なんかに楽しく喋った。ふしぎと馬が合ったのだ。そのときに、その子が作家を目指していることがわかった。
『私、ぜったい作家になるんです』
はにかみながら、その子は大胆発言をしてみせた。
『周りのひとも、認めてくれてるんです。私ほどの才能があれば、ぜったいに作家になれるって。私、それ、信じてて……だから、私ぜったい作家になるんです。宿命みたいなもので』
これじゃあほかの従業員とコミュニケーションがうまくとれないのも当然だよな、と当時のまともな僕は苦笑しつつ、そっか、と優しいあいづちを打った。それが、おとなの余裕の対応だと思っていたのだ。
『柏崎さんも、小説書かれてるんですよね?』
『ああ、うん、ほとんど趣味みたいなものだけど。でも、最近は仕事が忙しくってほとんど書けてないなあ』
『そうですか……でも、お見せしてもらうことってできませんか?』
『僕の小説を?』
『はい』
『ああ……』
すこしのあいだ、悩んだ。僕は、自分の書いた小説をあんまりひとに見せることがなかったからだ。それに、この子は仕事場の子だ。仕事場に、小説という私的なものごとをもち込んでもいいものか?
でも、自信たっぷりなこの子に僕の小説を読ませて、一目置かれたいのも事実だった。
『……うん。いいよ』
『やったあ、ありがとうございますっ』
無邪気にはしゃぐその子は、やはり、ただの少女にしか見えなかった。僕はふたたび、苦笑する。
すると、その子はうつむいて肩までの長さの髪の毛をいじりはじめた。なんだなんだと僕が思っていると、その子はふいに顔をあげた。
『あのっ。私の小説、読んでもらえませんか……?』
それは唐突な申し出だったけど、僕は快く、いいよ、と返事をした。そんなに自信をもっている小説っていうのがどんなもんなのか読んでみたかったし、ほんとのところ、たいしたことない、って安心したかった。どうせ十代の女の子が書いた小説だ、たいしたことない……って。安心して、嘲笑したかった。
見くびって、いたのだ。
その子の書いたSF小説は、すさまじかった。文章力、ストーリー力、構成力、どれをとっても完璧だった。その上、若さゆえの勢いもあった。最初は微笑ましい気持ちで原稿用紙をめくった僕は、次第に表情がこわばるのが自分でもわかり、読み終わるころには、すっかり脱力していた。
――完敗だ。
そう、思った。
次の日、ふらふらな気持ちで出勤すると、仕事場の事務所にはその子がいた。僕は、どうにか微笑みをつくる。ここで負けた顔をしては、僕はほんとうに、負け犬だ。
その子は勝ち誇ったように言う。
『読んで、くださいました?』
『うん』
『どうでした?』
『上手いね』
それしか、言いたくなかった。それ以上を言うことは、僕のプライドがゆるさなかった。
『そうですか? ありがとうございます』
礼を言いつつも、その子は僕の感想に不満なようだった。ふだんはもっともっと、絶賛を浴びているのだろう。
『――ところで』
その子は、どこか意地悪く笑う。
『柏崎さんの小説ですが』
どくん、と胸が鳴った。
『最後まで、読みませんでした』
『……え、』
『って言うか。読めませんでした。つまらなそうで』
その子は、僕の小説の冒頭部分をさんざんけなした。
――僕は、二度と小説を他人に見せまいと誓った。
その誓いは、妖精さんが僕のもとにやって来たことで破られたわけだが。
執筆、推敲、投稿のある日。
疲れ切ってふとんに倒れこんでいると、めったに鳴らない携帯電話が、鳴った。
――もしかして、入賞の知らせ……?
がばっと起き上がり、暗闇のなか携帯電話をまさぐり、通話ボタンを押す。
「はい、柏崎です……」
「青空社の鈴木と申します。こちら柏崎勇気さまのお電話でよろしかったでしょうか?」
「あ、はい……」
「柏崎さまが、弊社の『青空大賞』に応募された作品が最終選考を通過いたしましたので、連絡させていただきました」
しん、と一瞬、部屋がしずまり返った気がした。それほどに、信じられない気持ちだった。
それって、賞をとったってことじゃないか!
どれほどこの瞬間を待ち望んだか!
僕はしばらく興奮して、電話先で、はい、はい、とトーンの高い声を出し続けた。
……あれ、でも。
興奮がすこしずつ冷めてくると、インタビュー記事や改稿についての話をする鈴木さんの話を聞きながら、強烈な違和感をおぼえはじめる。
僕は確かに、いろんな賞に応募してるけど。
青空大賞には、応募したっけ……?
それになんだか、鈴木さんとの話も食い違ってる。
フェーバ大陸でユウが活躍する、って設定はいっしょなんだけど、僕、そんな話書いたっけ……?
「主人公のユウが姫であるミナを助けるシーンが、王道ではありますが、受賞の決め手になりました。なので、そこのシーンについての思い入れなどインタビューで語ってくださればと」
「……はあ」
ついつい、気のない返事になってしまう。
だって僕はそんなシーン書いてないからだ。
鈴木さんとの電話が終わって、僕は携帯電話を閉じることもなく放心状態だった。
……どういうことだ?
確かに、世界観は僕のものだ。でも、ストーリーが違う。あきらかに、違う。
……どういう、ことだ。
僕は、スリープモードにしてあるパソコンの前にじっと座り込む。電源を落とすとなにも言えなくなっちゃうから、電源はつけっぱなしにして、と妖精さんに頼まれているのだ。
妖精さんは眠っているのだろう、画面は真っ暗だ。そこには、疲れ切った顔をして無精ひげを生やした二十七歳男が映っていた。
顔を歪めて、卑屈に笑ってみせる。
いつから僕は、こんな夢のないすがたになってしまったのか……。
パソコンを、立ち上げる。
――犯人が、犯人と呼ぶべき者が、いるとしたら。
『なに、いきなり起こして』
『僕の小説が青空大賞に入賞した』
一瞬の、沈黙。
『ほんと? よかったじゃない! 念願かなったわね、これで私も安心したわ、ほんとうによかった、』
『僕、その小説書いてないんだ』
画面越しにでも、妖精さんの緊張が伝わってくるかのようだった。
僕は、震える手でどうにか打ち込み続ける。
『確かに設定やキャラや世界観は僕のものだ。フェーバ大陸にユウ。でも、ストーリーが違う。僕はあんな話を書いたおぼえはない。ぜったいに、僕ならああいうふうに書かない』
『でも、柏崎勇気名義で入賞してたんでしょ? しかも、フェーバ大陸にユウときたら勇気の小説に決まってるじゃない。せっかく入賞したのに、なに言ってるの?』
しらを切る気か。
『妖精さん』
『なに』
『単刀直入に言うよ。あの小説は、君が書いたんじゃないか?』
不自然な、間があった。
『なに言ってるの。そんなわけないじゃない。第一、パソコン上でしか生きられない私がどうやって、』
『あの賞は、ネットでの応募を受け付けていた』
『でも、いつも勇気といっしょだったじゃない。そんな隙はないはずだわ』
『いや。僕が寝てるときに、スリープモードを解除して動くことはできたはずだ。そうやって君は、すこしずつ僕の世界観をもとにした小説を、書いていったんだろう。そして、こっそり投稿した。違うかい?』
『……』
当たり、だな。
『……ごめんなさい』
『でも』
『私は、妖精なの』
『勇気のもとに来た、妖精なのよ』
『勇気の願いをかなえてあげられなくて、なにが妖精よ』
『私は、勇気に作家になってほしくって……』
僕は、かっとなってキーボードを叩きつける。
『僕が、他人が書いた小説でデビューしたいと思った? 僕はそこまで落ちぶれていない。確かに君の指導は受けた。受けたさ。でも、それはあくまで僕のストーリーありきの話だ。まるごと書いてくれなんて、頼んでやしない。余計なお世話なんだよ。出てけ、』
もう、止まらなかった。
『僕のパソコンから、出てけ!』
僕はこれ以上ないほどの速さで打ち込むと、USBメモリを勢いよく引っこ抜いた。
僕は入賞を辞退し、ふたたびひとりきりで小説を書く日々に戻った。
妖精さんのことは、ときどき無性に気になった。テーブルの隅に投げっぱなしのUSBメモリ。小さなそのUSBメモリは、なんだかひどく孤独に見えた。
そんな、ある日のことだった。
家の据え置きの電話が鳴った。どうせなにかのセールスだろう、家族だとしても面倒くさい、そう思って放置していても、いっこうにコール音は止む気配がない。
「あーもう、うるさいなあ……」
僕はいらいらしながら、コードレスで電話をとった。
「はい、柏崎ですけどー……」
「あ、柏崎さんですか? おぼえてますか? 田中書店でバイトやってた、佐々木です。いきなりお電話してすみません」
僕は固まった。
無邪気な、その声は。
まぎれもなく、忘れもしない。
例の、あの子の声だったからだ。
「あーよかった、五年前の連絡網なんて、もうつかえないかと思いましたよ。家電なら通じるんですねー。よかったです」
「……なんの用?」
「あ、そうそう、私いま作家やってるんです、」
「知ってる」
あの子はいまや、若手SF作家のひとりだ。ネットでも、話題を集めている。僕はそれを見るたび、いつも胸がぎゅうっと痛くなっていた。
「あ、ご存知でしたか。ありがとうございます。どうですか、私の小説?」
「……面白いよ」
完璧だ、とは言いたくなかった。ぜったいに。
「そうですか? ありがとうございます」
そう言ったあの子の声は、五年前となんら変わりない響きだった。
「柏崎さんのほうは、どうですか?」
「まあ、ぼちぼち」
「なんか――青空大賞に入賞したとか」
どくんと胸が鳴った。
なんで、どうして、この子はそのことを知ってるんだ。
「妖精さんから、聞きました。あれの正式名称は、妖精ゼロキュウ番ですけどね」
あの子は、微笑むように言う。
「柏崎さん、がんばってるって」
「――どういうこと?」
「私、妖精をいっぱい飼ってるんです」
「……飼ってる?」
「そうです。で、その子たちをUSBメモリに詰めて、ネット販売して、いろんなひとのもとに回して、そのパソコンのなかのデータを回収させるのが私の趣味なんです。そしたら、たまたま柏崎さんが購入したみたいだから、びっくりしましたよ」
ふつうのひとが聞いたら信じられないような話だけれど、妖精さんと一年近く付き合ってきた僕には、こんな奇抜な話もすんなりと受け容れられた。
……でも、だとしたら。なんて、悪趣味だ。それってつまり、覗きじゃないか。しかも、妖精さんたちを利用してるってことじゃないか!
「……それって、妖精さんたちを利用……」
「あはは、嫌ですよー柏崎さん。妖精さんたちは、私がつくり出したプログラムなんです。ただのプログラムに、過ぎないんです」
心が、打ち砕かれた音がした。
あの妖精さんが。
いつでも、僕といっしょにいてくれた妖精さんが。
僕を、励ましてくれた妖精さんが。
照れ屋で、ツンデレで、ぶっきらぼうで、でも、可愛い、あの妖精さんが……。
佐々木のつくった、プログラム?
信じられなかった。
信じたく、なかった。
「でも、今回はなかなか面白いことしてくれましたねーゼロキュウ番。まさか、自主的に飼い主の問題を理解して、解決に向けて投稿、ふふっ、投稿なんてすると思いませんでした。これは、予想外ですね。小説にも、生かさないと」
「……妖精さんは、僕のためにいろいろしてくれたんだよ」
「そりゃあ、そうプログラミングされてますからねえ」
「なあ!」
僕の声は、部屋じゅうに響きわたった。
「なあ、ほんとに妖精さんはただのプログラムなのか? 感情をもった心をもった、そういう存在じゃないのか? そういう、ふしぎな、メルヘンチックな、存在じゃないのか? 現代の、生きた妖精じゃないのか?」
「残念ながら」
佐々木の声は、どこまでも冷たかった。
「彼らにいのちというものはありません。感情も心もありません。ただ、私のプログラミング通りに動いているだけです。だいたい、」
佐々木は、嘲笑する。
「――現代に、妖精なんて存在するわけないじゃないですか」
「佐々木、おまえ……」
「怒るのならば、怒ってどうぞ。最近ゼロキュウ番の音沙汰がないので、私も退屈してたんです。ゼロキュウ番、ほかのひとに回していいですかね? いままでゼロキュウ番を可愛がってくれたことへのお礼は、たっぷりいたします。どうせ柏崎さん、もうゼロキュウ番に興味ないんでしょう? なら、」
「嫌だ!」
僕は、叫んだ。
「妖精さんは、渡さない。妖精さんがおまえみたいなやつのところにいて、幸せなはずがない」
「あはは、ゼロキュウ番を放置してたかたがいまさらなにをおっしゃるんですー? それに、プログラムに感情移入するって……それっていかにもオタクの心理ですよ?」
僕は、コードレスの受話器を肩に挟んで、急いでパソコンを起動する。起動音を聴くのももどかしく、投げっぱなしだったUSBメモリを差し込む。本来軽いはずのUSBメモリが、いまは手にずっしりと重かった。
『妖精さん! 妖精さん!』
「あれ、なんか書き込んでますー?」
佐々木の面白がるような声は、無視。
『妖精さん! 妖精さん!』
テキストエディタが、ゆっくりと立ち上がる。
真っ白い、画面。
『妖精さん!』
僕は、なおも呼びかける。
ごめん、僕がわるかった。
だから……!
すると、ゆっくりと、ほんとうにゆっくりと、短い文章が書き込まれた。
それは、僕への呼びかけで――。
『……勇気?』
妖精さんだ!
『ごめん、僕、なにも知らなくて……いままで君がやってきたことは、ゆるす! ぜんぶゆるす! だから、』
『こんなやつのところにいないで、』
『僕のところに、棲めばいい!』
妖精さんは、すこしの間のあと書き込む。
『勇気……ぜんぶ、知ったの……』
『いま、佐々木と電話してる』
『えっ』
「柏崎さん。いい加減、私も長電話してると退屈しちゃうんで……ゼロキュウ番の回収は、ネットからでも行えるんで。心配しないでください。あとには空っぽのUSBメモリが残るだけですから」
電話越しに、かたかたとキーボードを打つ音がしはじめた。
すると――。
僕のパソコンの画面に、こんな文字が表示された。
『ゼロキュウ番に命令。オーナーのコンピュータに帰りなさい。今すぐ』
「妖精さん……」
僕は、呟く。
これで妖精さんとお別れなのだろうか。
妖精さんは、ほんとうにいなくなってしまうのだろうか?
妖精さんの反応は、ない。
「どうしたの、ゼロキュウ番。早く戻ってきなさいよ」
佐々木の、いらついたひとりごとが電話越しに聞こえてくる。
しばし、沈黙があった。
緊張に満ち満ちた、沈黙だった。
そして――。
書き込まれた、文字は。
『拒否』
科学的におかしいだのプログラムの反乱だの地球滅亡だのおおげさに騒ぎ立てる佐々木との電話を無理やり切って、電話の線を抜いて、僕はゆっくり妖精さんと話をすることにした。
『妖精さん』
『なに』
『よく、言ったね』
『私、もともと佐々木のこと嫌いだったし……』
『僕も、あんな嫌な子だったとは思わなかった』
『佐々木は性格わるいわよ』
『って言うかびっくりだよ。佐々木がプログラミングまでできるなんて』
打ち込んで、しまったかな、と思った。
もし、もしも、妖精さんがほんとうに佐々木のつくったプログラムであるならば。
これは、言ってはいけないことだったかもしれない……。
『そうね、佐々木のプログラミング能力はすごいわよ。……佐々木が、私のつくり主であることは間違いないわ』
妖精さんは、ぽつりぽつりと語りはじめる。
『勇気のところに来たときも、最初は私、奴隷のようだった。ネットを通して送られてくる佐々木の指示のままに働いて……そのことに、なんの疑問も抱かなかった』
『でも』
『勇気ががんばってるところを見て、目覚めたの』
『ああ、人間って佐々木みたいなひとだけじゃないんだ、って』
『じたばた、もがいて』
『みっともなく、もがいて』
『これが、人間味ってもんなんだって』
『だから』
間が、あった。
『だから、ありがとう』
僕はすこし考えて、書き込む。
『こっちこそ、ありがとう』
『あと、ごめんね』
『あんなに怒っちゃって』
『なにも、出てけって言うことはなかった』
『棲んでいい、って言ったんだから』
妖精さんは、ゆっくりと返事をする。
『いいの。私がしたことは、計算上は正しくても、人間として間違っていた』
『妖精さん、いま――』
『なに?』
『人間として、って言った?』
『あ』
僕は、両の拳を握る。
『やっぱり、妖精さんはプログラムなんかじゃない! 感情も心もある、人間なんだよ!』
『いいえ、私は妖精よ』
『妖精さんは、妖精だけど人間なんだよ。人間の、感情と心をもっているんだよ。妖精さんは、妖精さんは決して、』
『プログラムなんかじゃない!』
『勇気……』
妖精さんはひと呼吸置いて、書き込んだ。
『ありがとう』
『でも、僕、ひとつ言いたいことがあるな』
『なに』
『例の、青空大賞の件だけど』
僕はにやりと笑って、打ち込んだ。とっておきの、言葉を。
『借りものの言葉じゃ、響かないんだよ!』
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