リス少女

 昼休み。日渡ひわたり恭介きょうすけは、頭を抱えていた。

 恭介は、修学旅行係だ。じゃんけんで負けて、やることになってしまったのだ。

 そこで、おなじくじゃんけんで負けて修学旅行係になった女子と、相談しなければならないのだが――。

 これがまた、厄介な女子なのだ。ずばり、ひと呼んで、『リス少女』。

 彼女はいつでも、教室の隅っこで木の実をかじっている。そして、椅子の上にうずくまってうつむいている。

 そのさまは、まるでほんとうにリスのようだ。

「おまえも災難だなっ。まあ、せいぜいがんばれよ」

 友人である男子が、気安く肩を叩いてくる。

「簡単に言ってくれるな……」

「なんてったって、あの『リス』だからなー。あの子、リスの血流れてるってぜったい」

「こんなときに、そんなこと言うなよな……」

 はあ、と恭介はため息をつく。

 ……しかし、やらねばいけないものは、しょうがない。

 恭介は、しまっておいたくるみパンを取り出した。

「おっ、恭介、まだ食うのか?」

「いや」

 恭介はそれを携えて、『リス少女』のもとに向かった。

 恭介の存在に気づいたリス少女は、上目づかいで恭介をじとーっと見てくる。警戒している、と言うよりは、興味をもっているようだ。

……しかし、この子、意外と可愛い。大きくてつぶらなひとみに、栗色のショートカットがよく似合っている。ふつうにしていれば、けっこうモテそうなものを。

 恭介は、なるべく柔らかい表情をつくって言う。

「……これ、いる?」

 ぶら下げたのは、とっておきのくるみパン。

 『リス少女』は、くるみパンを目で追う。

 恭介は、びりびりとくるみパンの包装を破く。

「これで、どう?」

 その瞬間、『リス少女』はくるみパンを一瞬でかっさらった。

 がつがつと、くるみパンをほおばる『リス少女』。くるみパンは、あっというまになくなった。

 ぺろりと、『リス少女』は唇を舐める。その動作が妙に艶っぽく思えてしまって、恭介はちょっと視線をそらした。

「あなたがはじめてだった」

 『リス少女』が、しゃべった――。恭介は、おどろく。

 いや、当たり前なんだけど。『リス少女』だって人間なんだから、しゃべって当たり前なんだけど。

「わたしに近づいてきたのは」

 そこで、『リス少女』はかすかに笑った。

「ご用はなに?」

 その笑顔は、ふしぎと恭介の心を捉えた。

 ――意外と楽しく、係の仕事できるかも。

 恭介は小さなわくわくを抱いて、『リス少女』と係の仕事の相談をはじめるのだった。

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